通常ヒョウには特定の繁殖期というものはなく、
一年を通して交尾が行われますが、北東ア
ジアやシベリアでは1〜2月にのみ繁殖行動が見られます。オスヒョウは気に
入ったメスがいるとその後ろを付いていき、交尾の機会が訪れるのを待ち構えます。そして時には他のオスとの間でメスを巡った争いも行われます。メスは
92〜112日の妊娠期間の
後、洞穴や岩の割れ目、木の茂みの中など、天敵となる動物から見つからない様な場所で
2〜3匹の子供を出産します。産まれたば
かりの子供は体重は550gほどで、まだ目は開いておらず、長いふさふさとした毛に覆われています。子ヒョウ毛皮の色は灰色に近く、斑点模様もそれほど
はっきりしてはいません。
生後10日ごろになると子供の目は開き、さらに3か月が経過すると母親の後を追って狩りに付いていくようになります。通常ヒョウが狩りをする頻度は3日に
一度程度だと言われていますが、子供を持つ母親は子供達の分の食料が必要となるため、その倍以上の頻度で狩りを行うようになります。生後1年を迎えるとほ
ぼ大人のものと
変わらない体格にまで成長しますが、子供達は1歳半から2歳ごろまで母親の元で暮らします。ヒョウの子供は生存率がそれほど高くなく、かなりの割合の子供
が大人になる前に死んでしまいます。特にライオンやトラ、ブチハイエナなどはヒョウの子供を殺すことがよく知られています。そうして無事に3年ほどを迎え
ると、立派な大人となり、繁殖を行うようになります。
野生におけるヒョウの寿命はよく分かっていませんが、一般には
7〜9年ほどであると言われて
います。これに対して動物園などで飼われているヒョウの寿命は
非常に長く、
21〜23年も
生きることが知られています。
ネコ科の動物は異なる種間であっても交配し、子供を作ることが出来ることが知られていますが
、ヒョウに関しても人工的にピューマと掛
け合わせて混血種を
作った例がいくつか知られています。このようにして産まれてきた子供は双方の名前を取って
「ピューマパルド(ピューマ+レオパルド)」と
呼ばれ、
1890
年〜1900年代にかけてドイツなどの動物園で何頭か実際に飼育されました。ピューマパルドは親と比べて体が小さくなる傾向があり、また繁
殖力が弱く、大
人になる前にほとんどの個体は死んでしまったということです。現在は種の保存の観点からこのような交配が動物園で行われることは全くありません。
生息範囲が広く、人間との接触の機会が多いヒョウは古くから様々な国々の文献や文化の中にその姿を見ることが出来ます。例えば
古代ではヒョウはライオンと
クロヒョウの相の子であると信じられており、また
古代ローマではヒョウの吐く
息はとても良い香りがし、その匂いを嗅いだ動物はヒョウに魅了され、そのまま狩られてしまうと考えられていました。またキリスト教では人々
をキリストもとへ
と導く聖なる動物として登場し、ヨーロッパでは王室や貴族などが用いる紋章の中にも数多くのヒョウが描かれています。実際にヒョウが棲む地域でも彼らが神
聖視されることは数多く、1900年代初頭までは西アフリカにヒョウの毛皮をまとい、ヒョウのツメや牙をもした武器を使う人食い人種の部族がが住んでいた
と伝えられています。
またアジアでも人の性格などが突然変わることを
「豹変(ひょうへん)」といっ
たりしますが、これは中国において「君子はヒョウの毛が抜け変わって鮮やかな
模様が現れるように、一つの考え方にとらわれず、自らの考えを素早くと改めていく」と言われていたことに由来します。このためもともとは現在の様に急に悪
い変化をするという意味ではなく、良い方向へと変わっていくことを指し示していたようです。
さらに彼らは観光ツアーなどでも人気が高く、アフリカやインドなどでは彼らを見に行くためのツアーが数多く催されています。特にアフリカでは
ライオン、
アフリカゾウ、
シロサイ、
バッファローと並んで観光で人気の高い
「ビッグ5」の一つにも数えら
れています。
しかし人との接触が多い彼らの中は、時として我々人間を獲物として襲う
「人食いヒョウ」が現れること
があります。通常ヒョウたちは人間を見ても向こうから接触を避け、
逃げていくことがほとんどです。しかし、
年老いたり、けがや病気で弱り、他の野生
動物を狩ることが出来なくなったヒョウが苦し紛れに手近な人間を襲い、さ
らに人間の味を覚えた彼らが日常的に人食いを行うようになるケースが数多く報告されています。
これまで知られている最もヒョウによる被害が多かったのが、インドに出現した
「パナーヒョウ」と名付けられ
た一頭のヒョウによるもので、なんと
このヒョウ
は400人もの人々を次々に襲い食べてしまったと
いわれています。また同じインドには
「ルドヤプラグのヒョウ」という別のヒョウが125人の人を殺害した例も知られています。この2頭の
ヒョウはいずれも最終的にハンターによって仕留められました。
ヒョウは
ライオンや
トラと比べて
からだが小さいため、人間のように比較的大きな獲物を必要としないことから、人食いになる傾向は少ないと言われています。しかしその反面家畜や特にイヌな
どのペットを数多く襲うことが知られており、このため地域住民に忌み嫌われて迫害を受け、その結果ヒョウが駆除されてしまうケースが今なお後を絶ちませ
ん。
かつてはアフリカ大陸およびアジア全域を覆うぐらい広く分布していたヒョウですが、近年では
生息地の減少や毛皮を求めた商業的な狩猟
によってその数は次第
に減少しています。
特に減少が顕著なのが北および西アフリカ
とアジア地域で、一部の地域では絶滅寸前にまで追い込まれているところもあります。中でもヒョ
ウの亜種の一つであり、ロシアと中国の国境付近を流れるアムール川流域に住む
アムールヒョウは野生ではもうすでに25〜40頭程度しか生き残っていないと
言われています。
かつて1960年代にはヒョウ革の取引量は全世界で
年間5万枚に上ったといわれて
おり、これによって急激に彼らはその数を減らしていきました。これを受けて
現在ではワシントン条約でヒョウ柄の取引は厳しく取り締まられており、厳重な保護対策が講じるられています。しかし今なおヒョウの密猟は後を絶たず、現在
でも数多くのヒョウ革が裏ルートで取引されているといわれており、ヒョウの保護は予断を許さない状況が続いています。
執筆:2008年6月29日
[画像撮影場所] 天王寺動物園
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