鋭い眼
光と強靭な牙と爪、そして芸術的な美しの模様が描かれたネコ科最大の体を持つトラさんは、まさに密林の王者と呼ぶにふさわしい動物で
す。
一方「百獣の王」の名で知られているのは、主にアフリカにすんでいるライオンですが、トラは主にアジアに分布し
ており、東洋の猛獣の代表格でもあります。
彼らはかつて東は極東やシベリア、西はカスピ海や黒海沿岸と、ユーラシア全域にわたる広大な分布を持っていましたが、現在では残念ながらその半分以下の地
域でのみその姿を見ることができます。
ところでみなさんは動物園に行くとベ
ンガルトラやシベリ
アトラなど色んな名前のトラさんを見ることがあると思いますが、これらは全て「トラ」という一つの
種類をさらに細かく分けたもので「亜種」と呼
ばれます。なので基本的に世界中にいるトラは住んでいるところと体の大きさなどが微妙に異なるだけで、みんな同
じトラはトラです。そして現在までところトラの亜種には以下の9種類が知られています。
名前
|
生息地
|
生息数
|
ベ
ンガルトラ
|
主にインド
に分布
|
3100〜4500
頭
|
イ
ンドシナトラ
|
主に中国か
ら東南アジアに分布
|
1200〜1800
頭
|
マ
レートラ
|
主にマレー
シアに分布
|
600〜800
頭
|
ス
マトラトラ
|
インドネシ
アのスマトラ島に分布
|
400〜500
頭
|
シ
ベリアトラ
|
主にシベリ
アのアムール川流域に分布
|
400〜500
頭
|
ア
モイトラ
|
主に中国に
分布
|
60
頭程度
|
バ
リトラ
|
インドネシ
アのバリ島に分布 |
絶
滅(1937年)
|
カ
スピトラ
|
アフガニス
タンなどの西アジアに分布 |
絶
滅(1968年)
|
ジャ
ワトラ
|
インドネシ
アのジャワ島に分布 |
絶
滅(1979年)
|
これを見ていただけるとわかるとおり、実はこの100年以内の間に3種類の亜種が絶滅してしまっています。そしてその他のトラもかなり危
険な状態にあり、
60頭程度しか残っていないアモイトラなどは
中国政府によって厳重な保護が行われています。これら野生のトラはすべてを合計しても1万頭以下であり、他の
大型肉食動物のライオンが1万7千〜4万7千頭、ヒグマが13万頭程度であることを考えるとその数の少なさがわかっていただけると思い
ます。
ちなみに上にあげたものは野生におけるトラの生息数ですが、現在世界各国の動物園などの飼育施設では1万頭を超えるトラが飼育されていると言われていま
す。つまり野生のものよりも飼
育下のものが多いという皮肉な結果になっています。この中で各動物園などはトラの繁殖を行い、その生態を調べることでトラを
絶滅の危機から救おうと懸命に頑張っていますが、その一方でサーカスや個人所有のものの中にはかなり劣悪な環境下で飼育されているものもあり、それによる
更なる数の減少が心配されています。
冒頭に
も述べたとおり、トラはネコ科の中で最大の生き物ですが、亜種によってその大きさはかなり異なりま
す。もっとも大
きくなるのはシベリアトラでオスは体重は180kgから大きなものでは300kgを超え、体の長さも3.3mに達するものが知られています。逆に現在生存しているものの中で最も小さいの
はスマト
ラトラで体重は100〜150kg程度ですが、かつてインドネシアのバ
リ島に住んでいたバリトラはさらに小型で90〜100kgにしかならなかったと言われています。
またトラの中で最も数が多く標準的であるといわれるベンガルトラは180〜260kgぐらいの重さがあるそうです。
ちなみにこれらの値はすべてオスのトラのものですが、メスのトラはオスより小さな体をしてお
り、体重でいうと30〜40%ぐらい軽くなるみ
たいです。また
トラの体の高さは肩の辺りで90cmぐらいです。
トラの生息地は南の方は熱帯性のジャングルから湿地の多いマングローブ林、落葉樹林や北の針葉樹林(タイガ)地域まで広がっており、非常に様々な生活環境
に適応しています。
そしてトラと言えば様々な場面で強いことの象徴として用いられる程、その身体能力の高さと攻撃力はずば抜けていま
すが、その狩りの様子も非常に迫力のある
ものです。狩りの際には彼らは最初茂みに隠れ、そこから獲
物をじっと窺いながら少しずつ近づいていきます。そして射程圏内に獲物が入ると一気に跳躍して襲いかかります。
この時彼らはものすごい距離をジャンプする
ことができますが、この跳躍力は非
常に発達した後ろ足によって可能となっています。
そして獲物に襲い掛かるときは、ネ
コと同じようにツメを引き出して相手の体に食い込ませますが、トラのツメは非常に鋭く、また前足の力も
ものすごく強いため、
一度トラに飛び付かれるとかなり大型の動物でも逃げることが難しくなります。そうして更にトラは強靭なアゴと犬歯を使って相手のど元に噛
みつき、そのまま
恐ろしい力で窒息死させてしまいます。
トラの狩る獲
物は主にシカや野生のブタ、イノシシなどですが、その他にも
サルや鳥、魚、スイギュウ、ヒョウ、クマなども襲い、時には巨大なアジアゾ
ウやサイなども倒
すことが知ら
れてい
ます。また時には同じ仲間のト
ラを襲うこともあると言われています。トラは殺した獲物をすぐに食べることはなく、いったん茂みの奥に引きずっていって安
全な場所に移った後、そこで食事を行います。トラは大体獲物の柔
らかいお尻の部分から食べ始めることが多く、一度に25〜35kgもの肉をたべる
ことができます。ですが他の動物から肉を横取りされる心配がない場合
は、もう少し少ない15〜18kgぐらいの量を数日にわたって獲物の肉がなくなるまで食べ続けるそうです。
これだけ強いと獲物を獲るのにあまり苦労はなさそうに思えますが、自然はそれほど甘くはなく、さすがのトラでも狩りの成功率は20回に1回(約5%)ぐら
いだそうです。彼らも彼らで苦労してるんです
ねぇ!?
ちなみにトラはネコの仲間であるにもかかわらず泳ぎも得意で、川を渡るときに
なんと30km以上も泳ぐことが出来るそうです。また暑い日中
などは池や沼の
水の中に体を沈めて涼しむこともあるみたいです。
トラは大きななわばりを
作って生活をする動物で、オス
のトラは60〜100平方キロメートルものなわばりを持ち、
メスのものはそれより大分小さく20平方
キロメートルぐらいです。このなわばりの広さはそれぞれの地域における餌となる動物の数によって変化し、獲物の少ない地方に住むシベリアトラの場合1000平方キロ
メートルにもなることがあるそうです。オス同士、もしくはメス同士のなわばりは重なり合うことはありませんが、広大なオスのなわばりにはいくつかのメス
の
なわばりが含
まれます。そしてオ
スは自分のなわばりの中にいる全てのメスと交尾を行います。
トラの繁殖期は北の地域では大体11月の終わりから4月の初めぐらいですが、熱帯地方など暖かい地域に住むものは一年を通して繁殖が行われます。妊娠期間
は103日程度で、3〜4匹の子供を産みます。産まれたばかりの子供は体重
1kgぐらいで、最初は眼も開いていなくて歩くこともできず、巣の中でお母さんと一緒
に過ごし、生後8週間ぐらいにな
るとお母さんの後について周辺を歩き回るようになります。最初の頃は母親は子供に母乳だけを与えますが、子供の体が大きくなり、成長のスピードが上がると
より多くの獲物をとってきて、それを子供にも食べさせるようになります。そして子供は1年8か月ぐらいで母トラから独立し、2
歳半ぐらいになると自分のなわばり
をもとめて別の
地域へと旅立ち、3〜4歳ぐらいから新たに繁殖を行うようになります。母トラは幼い子供をとても大事に育てるこ
とが知られており、ここから「非常に大切で
手元から放したくないもの」という意味の「虎の子」と
いう言葉が生まれたそうです。
オスのトラは別のオスが自分のなわばりに入ってくると、なわばりを守るため戦いを挑みます。しかし、この戦いに敗れてしまうとそのなわばりは勝ったオス
に奪われてしまします。この時新しいオスは、自分のなわばりの中にいるメスに別のオス
の子供がいた場合は、ただ
ちにその子供を殺してしまいます。これはそ
のメスを出来る限り早く次の繁殖の準備に入らせ、自分の遺伝子を持つ子供を残すための手段であると考えられています。またオスのトラは尿の臭いなどからメ
スが発情期にあるかどうかを見分けることができると考えられています。
トラは
基本的に子供を連れた母親以外は単独行動を行う動物ですが、尿や糞、また肛門のまわりにある分泌腺からだされる臭いを使ってマーキングを行い、他のトラと
コミュニケーションをとることが知られています。これによって特に同性のトラ同士が互いに出くわし、争う頻度を減らすことが出来ます。しか
しごくまれにトラは数
頭からなるグループで行動したり、2頭のトラの片方がおとりになり、別のものが獲物を襲う複数での狩りが行われることもあるそうです。このような
例は大変
珍しいケースではあるのですが、ほとんどの場合一緒に行動するのは母トラと成熟した娘のトラなど近い血縁関係にあるもの同士であるそうです。
野生におけるトラの寿命は大体15年程度ですが、保護区など生活環境の良いところでは26年以上も生きることがあるそうです。しかし、なぜか
動物園などで
飼われるトラの寿命は野生のものより短く、飼育下では10〜12年ぐらいしか生きることが出来ないそうです。
トラ
関連のトピックス
秋田県大森山動物園で3月6日、飼育中シベリアトラのウィッキー(オス)とアシリ(メス)の間に2頭の赤ちゃんが誕生したそうです。シベリアトラは自然
界で4〜500頭しか生き残っていないため、今回の出産は種の保存のた
めに非常に意義深いということです。現在のところ親子が出産用の箱から出てこないため、性別や体重は分からないそうですが、発表がたいへん
待ち遠しいところです。
2月2日中
国アモイ市の海滄野生動物園でなんとシ
ベリアトラ(東北トラ)とライオンの間に産まれた4頭の子供が一般公開されました。この子供たちは顔がトラに似て、体つきはライオンのものだそうです。トラとライオンの受精率は1〜2%、生存率は50万分の1と言われており、まさに奇跡の子供
たちと言えるのかもしれません。ちなみに父親がライオンで母親がトラの場合産まれてくる子供たちは「ライガー」、父親がトラで母親がライオンの場合は「タイゴン」と呼ばれるのですが、今回のケースはどちらなのでしょう?
インド政府がトラの保護のため、今後5年間で総額60億ルピーの予算を
投じることを発表。現在インド国内のトラの生息数は1300〜1500頭までに減少していると言われており、これに対しこれまでの予算の4倍にあたる資金
を投入するもの。主に生息地に暮らす住民の移動や、国内8か所の保護地への支援に用いられるそうです。
兵庫県の姫路セントラルパークに新たに4
頭のホワイトタイガーの赤ちゃ
んが仲間入りしたそうです。この子たちはカナダで生まれたオスとメス各2頭ずつで、セントラルパークでは元からいる「ハクオウ」と「ハルカ」の2頭とあわせて、計
6頭で飼育されることになるそうです。
中国から南アフリカに送られていたオスとメスのアモイトラ(華南トラ)に赤ちゃんが誕生しました。絶滅の危機に瀕しているアモイトラの出産が中国国外で成功するのは初めて。今後は他のトラ
と共に野生下訓練を受けて中国に返される予定だと言うことです。
愛媛県立と
べ動物園に群馬サファリパークからメスのホワイトタイガーの
「オメガ」がやってきました。目的は繁殖のためで、
無事何事もなく新しい環境になじみつつあるそうです。一般公開は11月3日よ
り。
2007年10月25
日 毎日新聞
先日中国陝西省で24年ぶりに野生で目撃されたものを撮影したとして話題を呼んだアモイトラの写真が偽物だったのではないかという疑問が高まっていま
す。周りの植物との比率がおかしかったり、別の写真に全く同じアングルで同じトラが写っていたことから疑いがかけられているようですが、陝西省当局は写真の審議を調査することはないということです。
東京都多摩動物園のシベリアトラ(アムールトラ)「ビクトル君」が11月1日から京
都市動物園へ繁殖のために一時貸しだされるそうです。お相手は3歳のメスの「アオイ」で上手くいけば来春にも2匹の子供が見られるかもしれません。京都市
動物園でのビクトル君の公開は11月半ばを予定しているそうです。
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[画像撮影場所] 恩賜
上野動物園
よこはま動物園ズーラシア
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