南米大陸アマゾン川流域には信じられないような大きさの大蛇の伝説が数多く残されてい
ますが、その伝説にも負けないぐらい巨大なヘビであるのがそこに住むオオアナコンダ(アナコンダ)で
す。オリーブグリーンの体に大きな楕円形の斑点が並ぶ、その太い体にはまさにヘビの王様を思わせる風格が
漂っています。
オオアナコンダは南アメリカ大陸の北部に位置するアマゾン、オリノコ川の流域の熱帯雨林に生息していて、ヘビの仲間では珍しく一生の大部分を水の中で暮ら
します。陸上でのオオアナコンダは動きが幾分遅くなるのですが、大きな体を横たわらせて日光浴をしているところも現地ではたびたび目撃され
ています。
彼ら全身は滑らかなうろこでおおわれていますが、しっぽの部分などの模様はそれぞれの
個体で違っており、これを見てオオアナコンダ同士を見分けることができます。
そしてオオアナコンダの特徴はなんといってもその巨大さですが、成長したオオア
ナコンダは体長6〜10mに
なるといわれています(確実な
ものは最大9m)。またメスのほうがオスより
かなり大きくなる
ことでも有名で、その差はヘビの仲間のなかでもとりわけ大きくなっています。
体長でいえばアジア南東部にすむビ
ルマニシキヘビも同様に10mを超えるものがいるとされていますが、体重は圧倒的にオオアナコンダの方が重く
なり(胴周
り30cm、体重250kg以上)、それを比べるのであればオオアナコンダが世界最大のヘビであることは間違いありません。
ところで巨大な生物の目撃談といえば、誇張して伝わってしまうのが世の常ですが、特にこのオオアナコンダはその傾向が強いみたいです。
現地の人々の間ではなんと
40mを超えるものが居たという話が本当のこととして伝わっていますが、さすがにこれはあり得ない大きさであると思われます。(初代ゴジラの身長が50m
ですからもし本当ならガチンコでやりあえます)そこまではいかなくても体長が18mもあるオオアナコンダを見たという目撃談もあり、本当に
彼らがどのぐら
い大きくなるのかは議論がわかれるところですが、最も信頼できそうなものが1944年にコロンビアとベネズエラの国
境で捕えられたメスの個体についての記
録です。
このメスは発見されるとともに銃で撃たれ、動かなくなったところを捕まえられ、その大きさが測られました。それによると彼女の体長はなんと11.43mもあっ
たということです。しかし捕まえたハンターはこのヘビが死んだものだと思っていたのですが、実際にはまだ息がありハンターの隙をついて逃げ出してしまった
ということです。従ってこのオオアナコンダについてその他の記録は残っていないのですが、もし他のオオアナコンダとおなじ体型をしていれば体重は
350kgを超えていたかもしれません。
ちなみにアナコンダという名前は「ゾ
ウ殺し」という意味のタミル語の単語である「anaikolra」をもと
にしています。アナコンダが棲むアマゾンにはゾウはいませんが、確かに彼らならゾウでも倒すことが出来るかも??
オオアナコンダは他のヘビよりはるかに太い胴体を持っていますが、それに比べて頭はいくぶん細くなっています。そして眼と鼻が頭の上の方に付いています
が、普段彼ら
は水の中に潜りこの眼と鼻だけを水面から出して獲物を待ち構えます。また眼の横には特徴的なオレンジ色のラインが見られます。そして獲物が
オオアナコンダ
の近くを通りかかったり、水を飲むためにすぐそばに立ち止まると獲物の体に食らいつき、さらにその長い体
を獲物の体に巻き付かせます。
オオアナコンダは毒を持っていませんが、その代りにこの締め付ける力が非常に強く、それに
よって獲物は窒息死、もしくは水の中に引きずり込まれて溺れ死ん
でしまいます。そして狩った獲物をオオアナコンダは頭の方から丸呑みにします。また小型のオオアナコンダは木の枝にぶら下がって、鳥の巣な
どを襲うこともあります。
彼らは動いて自分の口に入るものなら何でも食べるというぐらい様々な種類の動物を獲物としていますが、主なものとして魚やカエルなどの両生類や他のヘビ、鳥類
な
どがあり、大型のオオアナコンダになるとバクやシカ、カピバラ、
そしてワニの仲間であるカイマンなどを襲うこともあります。そして中にはオ
オアナコンダが
ウマや、アマゾンの動物の中では最強ランクに位置するジャガーを襲ったという例も知られています。
これほど大きな獲物を食べることができる理由の一つに彼らのアゴの構造があります。実は彼
らはアゴの骨を外すことが出来、口をさらに大きくあけることで大型の獲物も呑みこむすることができます。しかし彼らの消化能力はそれほど高くないため、大
きな獲物を食べた時はそのまま動くことができずに、川の土手などで日向ぼっこをしながら過ごすことになり
ます。獲物の消化には数日、時には一週間以上かかることもありますが、一度獲物を食べたオオアナコンダは数週間もしくは何か月も餌を食べることはないそう
です。
またオオアナコンダは共食いを
することでも知られ、たいていの場合は体の大きいメスがオスを食べてしまうそうです。これには出産のための栄養とするためだとか、単にオスを餌としてみて
いるだけであるとかいろいろな説がありますがその理由についてはよく分かっていません。またオオアナコンダは基本的に単独行動をしますが、まれに複数匹か
らなる群れをつくることもあります。
オオアナコンダの繁殖期は4〜5月でこの頃になるとオスがメスの所に集まってくるようになります。これはメスの体から繁殖期になるとオスをひきつけるフェ
ロモンが分泌されるためであるという説があります。ヘビは舌を使って空気中の臭いをかぐことができますが、オオアナコンダのオスはしきりに舌を出すのが知
られ、この時にメスの出すフェロモンを嗅ぎつけていると思われます。
そして一匹のメスに二匹以上、多い時には十二匹ものオスがからみつきます。この時の状態はまるでヘビでできたボールのように見え、彼らは2〜4週間も絡み
合ったままメスを奪いあいます。そして普通は最も強いオスがメスと交尾を行うのですが、たまにメスが気に入ったオスが交尾に至ることもあります。
彼らは交尾も水中で行い、この時オスは排泄腔(糞などの排せつや生殖器のある穴)の周りにある爪に似た突起をこすりつけてメスを刺激します。そしてメスの
準備が整うと交尾が行われ、お
よそ6か月の妊娠期間を経てメスは卵から孵化した状態の子供を
産み落とします(このように卵を体の中で孵化させる出産方法
をを卵胎生といいます)。この時、妊娠期間中
もメスのアナコンダは餌を普段通り食べますが、一緒にいるオスは食事をとらなくなります。
一匹のメスから一度に産み落とされる子供の数は普通20〜40匹程度ですが、時に
は100匹もの子供
が一度に産まれてくるケースもあります。そして出産時にはメスのアナコンダは体重が半分ぐらいにまで減ってしまいます。産まれたばか
りのオオアナコンダの大きさは70〜80cmぐらいです。オオアナコンダの子供は大人と違い体が小さいことから他の動物の獲物になりやすいのですが、大人
になる2〜3歳ぐらいまでに急速に大きくなっていきます。
オオアナコン
ダの寿命は10年前後の個体がほとんどなのですが、中には30年以上も生きるものがあることが知られています。
過去にオオア
ナコンダが人を襲ったという例はあるものの、それによって死に至るもしくはオオアナコンダによって食べられてしまうということはそれほど多くありません。
しかし農夫が10mを超えるア
ナコンダに呑みこまれたり、家の中にいた少女がミシンと共に餌食になってしまったという逸話も残されています。
これらの話によって現地の人々はオオアナコンダを非常に恐れており、見つけ次第捕まえたり殺してしまうそ
うです。またオオアナコンダが棲んでいる地域では、家畜であるブタやイヌが食べられる事件も数多く起こっており、このこともオオアナコンダに対する敵意を
抱かせる要因の一つであると考えられます。
しかしながらオオアナコンダが人を襲う事例は他の動物と比べそれほど多いわけではなく、あまりに過敏に反応しすぎてオオアナコンダを迫害するのは彼らの生
息数にダメージを無駄に追わせるだけなのではないかと危険視する意見もあります。
またオオアナコンダは全体の割合としては少ないもののその皮がベルトやハンドバッグ、靴などの皮製品に使われることから、商業目的で狩りが行われることも
あります。現在南アメリカのほとんどの国々ではオオアナコンダの商取引を禁止していますが、年間決まった数の捕獲および取引は許可されており、また動物園
や研究用、ペット向けとしての輸出が行われています。
これらを受けて色々な研究機関がオオアナコンダの生態や生息状況を調べていますが、これによってオオアナコンダの生息数の確保をしながら、商業的な利用を
可能とすることが目指されています。しかし一方で他のアマゾンに住む動物と同様に、開発によって彼らの生息地が減少していることもその生息数に影響を及ぼ
しています。
そんな人間との付き合い方を色々考えさせられるオオアナコンダ君なのですが、動物園などではその大きさなどから大人気で、1997年には「アナコンダ」という名前の映画ま
で作られました。(しかも
主演がジェニファー=ロペスで続編まで作られているというからさらにびっくり!)
私自身もいつか最大記録を
塗り替えるオオアナコンダが見つかる日が早く来ればいいなぁと願ってなりません。
執筆:2007年9月30日
[画像撮影場所] 恩賜上野動物園
|