南北アメリカ大陸には西半球で最大、世界でもライオン、トラに次ぐ第三位の大きさを持つネコ科の動物であるジャガーが生息
しています。古くからインディアンの間で神聖視されてきた彼らは、正にアマゾンの王者と呼ぶにふさわしい存在です。
ジャガーが棲んでいるのはアメリカ合衆国南部からメキシコなどの中央アメリカを経て、南アメリカ大陸のアルゼンチン南部パタゴニアまでの非常に幅広い地
域で、アマゾンの熱帯雨林の奥
地から開けた土地まで様々な場所で見ることが出来、標高2400m高地にも生息しています。肉食獣である彼らは、やはり狩りをするために有
利である茂みや岩などの身を隠すこと
が出来るところを好み、意外なところでは海岸線沿いの森の中などにも生息しています。ジャガーはネコ科の動物にしては珍しく、水のあるところが好きで沼地
や池、川のほとりに住んでいることが多く、泳
ぎも得意な彼らは川の中のサカナを取って食べたりしていま
す。もちろん木登りも上手で、生い茂った熱帯雨林の中でも平気で生活することが出来ます。
先にも述べたとおり、ジャガーはネコ科の中ではかなり体が大きい種類で、オスのジャガーで体長1.2〜1.8m、体高0.8〜1mに達します。ま
た体つきのがっしりしている彼らは体重平均的なもので80〜100kg、特に大きなものでは130kgを超え、同じヒョウ属に属するヒョウの1.5〜2倍近い体重があります。ライオンなど
と同じようにオスと比べてメスのほうが体が小さく体重は30〜40kgぐらいでオスの半分ぐらいしかありません。また彼らは70cmぐらいの長いしっぽも
持っています。
動物番組などでおなじみのライオンの狩りのシーンなんかを見ると、大型のネコ科の動物は普通獲物を取るとき、そののど元に食らいつきます。これは獲物を窒息死させることを目的と
しており、その後で彼らはその獲物を食べます。これに対してジャガーの狩りの方法は変わっていて、彼らはその強いあごを使っていきなり獲物の急
所、多くの場合は側頭部などを噛み砕いて即死させてしまいます。もともとジャガー(Jaguar)という名前は南アメリカインディアンの“yaguara”という言葉
から来ているのですが、これは『一
跳びで獲物を殺す獣』という意味で、ジャガーの狩りの様子を表したものです。
普段ジャガーが主に食べてい
るのはカピバラのようなネズミの仲間であるげっ歯類や、シカやバク、ナマケモノなどの小〜中型の獲物ですが、時には家畜として飼われている牛のような大型の動物も狩ることがありま
す。またアマゾンの奥地などの地域で、水辺に住んでいるものはサカナやカエル、カメ、ときには小型のワニなども食べることが知られています。ジャガー
自身は中央からアメリカ大陸では最大のネコ科の肉食獣であり、北アメリカ大陸のクマなどともほとんど生息域が重ならないことから天敵はいません。更に同じ
ジャガー同士以外には獲物を取り争うような動物もいないことから食物連鎖のトップに君臨しています。
ジャガーは一生の大部分を単独行動して生活しており、繁殖時と子供のときを除いて他
のジャガーと一緒にいることはまずありません。彼らは昼行性でも夜行性でもなく、時々に応じて夜昼どちらでも行動することが出来ます。また
彼らは一匹一匹
円形のなわばりを持っており、その大きさは環境によって変化しますが最低でも半径4.8km以上になります。しかしながら棲んでいる周りに食べ物が乏しく
なると、数百平方キロメートルといった広大な範囲を獲物を求めて徘徊するこ
とも少なくありません。
彼らは縄張りを知らせたり、お互いの存在を確認するために、鳴き声を出し合ったり、尿を使ったマーキングを行います。ジャガーは三歳ぐらいで大人になり
ますが、彼らには特定の繁殖期は無く、一年を通して交尾をすることが可能であり、オスはマーキングなどを頼りにメスを見つけて繁殖を行います。交尾が終わ
るとオスはメスの元を離れ、メスは95〜105日の妊娠期間の後1〜4匹ぐらいの子供を出産します。生
まれたばかりのジャガーの子供はまだ目が開いておら
ず、毛深くて、体重は大体900〜1100kgぐらいです。ジャガーの子供達は半年を過ぎるまでは巣穴の外に出てくることは無く、その後はお母さんの狩り
について行くようになります。そして2歳ぐらいになると親元を離れて、自分の縄張りを探しに行きます。自然界におけるジャガーの寿命は15〜20年ぐらい
ですが、動物園などで飼育されているものは25年以上生きることがありま
す。
動物園などにいってジャガーを一目見たときに感じる疑問は、これがジャガーなのか
ヒョウなのかということです。もちろん注意書きを読めば判るのですが、同じ黄色地に斑点がついた彼らはなかなかどっちがどっちか見分けをつ
けるのは一般人
には難しいところがあります。
彼らを見分けるときにまずポ
イントとなるのがその体の大きさの違いです。先にも述べたとおり、ジャガーはヒョウよりかなり体重があり、
体つきもがっしり
しています。またジャ
ガーはより角ばった顔しており、大きなあごを持つことで知られています。
そしてジャガーとヒョウを見分けるときに最も重要となるのは彼らの毛皮に付いた黒い
色の模様の違いです。左に示したのがジャガーとヒョウの毛皮の模様ですが、ジャガーの模様はヒョウのものより、斑点の大きさが大きく、数が少なめです。そして首から後
ろの部分の斑点の一つ一つは輪っかになっていて、その輪の中に小さな点々が1個から4個含まれています(上の写真の矢
印の部分)。これに対してヒョウのものは斑点の大きさが小さめで、
胴体の斑点は輪っか状になっているものの、その輪の中に点々は見られません(下
の写真の矢印の部分)。
ですからジャガーやヒョウを見たときは模様の輪っかの大きさと、そのなかに更に点々が入っているかどうかを見れば簡単に見分けることが出来ます。是
非一度動物園に行ったら確認してみてください。(にしてもこの2匹キャラがかぶってるよねぇ…。いまいちジャガー君が、ライオンさんや
トラさんに比べて、メジャーになれないのももしかしてこれが理由??やっぱりキャラを立てるのは重要なのかも…?)
ところでヒョウには黒ヒョウと呼ばれる真っ黒い毛皮をしたものがいますが、ジャガーにも同じように完全に真っ黒な個体が、主に南アメリカの深い森の中で時折発見されます(名
づけて黒ジャガ?)。
これは別の種類のジャガーというわけでなく、たまたま普通のジャガーの体の中で黒い色素が多く
作られて、黄色い下地の部分まで黒くなってしまったものです。その証拠に十分明るい光の下で見るとうっすらと黒い毛皮の中に、若干周りと色の違うジャ
ガー特有の斑点を見ることが出来ます。(え?黒ヒョウと黒ジャガはどうやって見分けるのかって?それは彼らに尋ねてください…。)
ジャガーの毛皮の下地の部分は背中側は黄色で下半分が白っぽくなっているのですが、非常に稀なケースとして、斑点の部分まで完全に真っ白い体をした
ジャガーの個体が見つかることがあります。このような個体では爪も真っ白で、ピンク色の眼を持っています。これは黒ジャガとは逆に体の中でまったく色素が作られていないも
ので、ジャガーに限らず他の様々な動物でも同じように体の真っ白なものがまれに確認されます。専門学的にはこのような個体のことをアルビノと呼んでいます。
ちなみにこのジャガーの模様、あるインディアンの伝説ではジャガーが自分の足を使って泥を体に塗り
つけたものであるといわれています。
ジャガーは森の奥深くに住んでいることもあって、研究することが難しくわかっていな
いことが数多くあります。特に現在では彼らの個体数が激減しており、
出会うことも稀になってきています。
ジャガー達が数を減らしてしまった要因の一つにその毛皮を狙ったハンティングがありま
す。もともとジャガーの狩猟とその皮の輸出は1900年代の初頭頃に大
規模化していき、その後急速に彼らの個体数を減少させていきました。1960年代ごろにはやや減少してきたものの10,000枚以上の皮が海外に輸出され
ており、1970年代には絶滅危惧種に指定されるにまで至りました。しかし、南アメリカのほとんどの国々でジャガーの狩猟を禁じているにも
かかわらず、現
在でも各地で密猟は後を絶たず、深刻な問題となっています。
しかしながら、現在ジャガーが直面している最も大きな問題は密猟ではなく、住処である森林の開発にあります。中央アメリカ以南の地
域では農場や牛のため
の牧場作りにより、毎年広大な面積の森が切り開かれています。またジャガーの獲物となるべきカメやカピバラ、サカナなどが人間によって捕まえられて食料と
して売られており、カイマンなどのワニもその皮を求めてその数をどんどん減らされてつつあります。もともと一つの個体あたりに大きな縄張りのための
面積を
必要とするジャガーにとっては生息域の減少は致命的なものがあり、予断を許さない状況にあります。
実際現在アメリカ合衆国では
ほとんどジャガーを見ることが出来なくなっており、テキサスや南カリフォルニア、ニューメキシコなどのごく一部に少数のグループが点在して
いるものしか残っていません。近年で
は1996年にアリゾナの牧場主がジャガーを目撃した事例がありましたが、これももともとメキシコに棲んでいたものが迷い込んでしまったものであると考え
られています。ジャガーには現
在8種類の亜種が知られていますが、現在その全てが絶滅危惧
種に指定されており、動物園のような施設を除いて自然界では絶滅
しています。またジャガーは家畜を食べるため、各地の農民には嫌われる傾向にあります。このよ
うな問題を解決するため南アメ
リカの国々を初めとして厳重な法による保護が行われており、ベリーズでは世
界で唯一のジャガーのための自
然公園が1984年に設立されました。さらに各地の動物園などではジャガーの飼育に成功しており、生育数の回復が期待されて
います。
昔からアメリカインディアンの中でジャガーはその力強さから崇拝を受けており、神聖な生き物として捉
えられてきました。例えば現在知られている
メキシコ最古の文明、オルメカ
文明にはジャガーと人間の融合したものである、半獣半人の『ワー・ジャ
ガー』という生き物が登場し、マヤやアステカ文明の雨の
神の元となったといわれています。またアマゾンのあるインディアンの間ではジャガーの鳴き声は雷であると
言われており、また別の部族ではジャ
ガーは闇の世
界の神で、その毛皮の模様は星と天国を現していて、日食が起きるのはジャガーが太陽を飲み込んでしまうからであるとされていました。
特にかつて中央アフリカに存在したとされる、有名なマヤ文明ではジャガーに対する信仰が強く、彼らは地下世界の神であり、夕方沈んだ太
陽は夜の間にジャガーに手助けをしてもらって地下を潜り抜け、再び次の日の朝東から昇ってくると信じられていました。更に多くの支配者が自
らの名の語源にジャガーを用いており、彼らの名前を示すマヤの象形文字にはジャガーを示す文字が含まれています。またアステカ文明でも戦争で多くの捕虜を
捉えた兵士は『ジャガーナイト』と
呼ばれる特別な階級に昇進することが許されたといいます。そして一度ジャガーナイトになると軍議への参加、納税の免除、王宮への食事の招待などの特権が与
えられ、ここにも力の象徴としてのジャガーへの尊敬をうかがうことが出来ます。
現在ではジャガーに対してはそういった崇拝の念より、人食いとしての恐ろしいイメージが持たれています。実際
人間がジャガーに後を追われたり襲われた事例は報告されていますが、彼らが人間を獲物としてみることは無く、ほとんどの場合は彼らの縄張りに入ったことを警告するためで
あると考えられています。あるインディアンの部族の中には村の子供達と遊ぶために森から出てきた
ジャガーの話が伝えられています。はるかな昔からジャガーとともに暮らしてきた彼らは、我々が知ることのないジャガーたちの本当の顔を知っ
ているのかもしれません。
[ジャガー写真提供] ナレッジリンク様
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