|
巨大な体と強靭な四肢を持つヒグマはホッキョクグマと並び、現在生存する動物の中で世
界最大の陸生肉食獣として北の大地に君臨しています。
ヒグマは北半球の高緯度地域全域に幅広く分布しており、主な生息地は東ヨーロッパ、ロシア、アラスカ、西部カナダそしてアメリカ合衆国のロッキー山脈と
なっています。わが国でも北海道に
2〜3000頭が生息しており、クマ牧場などに行くとその姿を楽しむことが出来ます。
ヒグマはその広い分布域から、地域
ごとにかなり特徴が異なっており、それに基づいて数多くの亜種が報告されています。一説には亜種の数は100種類以上に
なるとも言われていますが、実際には同じ亜種でも地域ごとに環境やエサの量が違うため体つきなどが異なり、そこまで種類が多くないというの
が一般的な見方
となっています。ちなみにヒグマの学名はUrsus
arctosといいますが、北海道にいるヒグマの亜種はUrsus
Actos Yesoensisという名前がつけられており、正式和名は『エゾヒグマ』と言います。
ヒグマが済むところは非常に様々で、砂漠の周辺から高い山の森の中、渓谷、ツンドラ、針葉樹林地帯、高山草原や沿岸地域などにもその姿を見ることができま
す。ヒグマはその重々しい姿とは対照的に非常に俊敏で、最大時速35kmぐらいで走ることが出来、普通の人間な
らまず逃げることは出来ません。更
に泳ぎも
速く、オリンピック選手よりも速いといわれています。(マイケル=フェルプスより速く泳ぐヒグマ…。なんかやだなぁ…。)ただ、アメリカク
ロクマなどの彼
らより小型のクマと異なり、大人の
ヒグマはあまり木登りは得意でないということです。
冒頭にも述べたとおりヒグマは世界最大級の陸生肉食獣ですが、その体の大きさは地域ごとにさがあり、大体体重は80〜600kgぐらいで非常に幅
がありま
す。オスのほうがメスよりも大体8〜10%程度大きくなります。その中でも特に南アラスカ地方にいるヒグマは非常に体が大きくなることで有名で、
オスは平
均390kg、メスは210kgに達し、最大級のものは780kgになると言われています。
また尻尾を入れない彼らの体の長さ
は1〜2.8m程度で、肩の高さは90〜150cmになります。敵を威嚇するとき、彼らは後ろ足でまっすぐに立ち上がり
ますが、このときの背の高さは2.
4mにも達し、あ
のボブ=サップよりも40cm高いです。もう完全に化け物で
すね。
ヒグマはその毛皮の色も地域によって大きく変化し、一般的には上の写真のように濃い茶色をしていますが、クリーム色から黒、ほぼ金色に近い色まで非常に多
くのバリエーションがあります。アメリカ、ロッキー山脈にいるヒグマは肩と背中にかけて長い毛を生やしており、これに雪が積もると遠くから見たときに灰色
(grizzled)に見えることから、アメリカではヒグマのことを一般的にグリズリーベア(Grizzly
Bear)と呼んでいます。(ちなみに昔(1976年)『グリズ
リー』という名のヒグマを題材にした映画がありました。気の向いた方は一度見てくださ
い。)
恐ろしい肉食動物としてのイメージが非常に強い彼らですが、実際にはそれほど他の動物たちを狩って生活し
ているわけでなく、むしろ食べ物のうちのおよそ4分の3が植物性のもので
あるといわれています。ヒグマは栄養のあるものなら何でも食べるといわれるほど色々なものを食べ、果物や植物の根っこ、球根、木の実、
花、草、コケなどが彼らのご飯になります。一説には彼らの持つ鋭くて大きな爪は、地中にあるこれ
らの食べ物を掘り起こすために進化したものであるといわれ
ています。
また彼らが食べる動物性の食べ物としては魚や昆虫、蜂蜜、ネズミやジリスなどの小型の哺乳類、野生のヒツジやヤギさらにはヘラジカやムースと呼ばれる大型
のシカも標的となります。また蛾の幼虫は秋に島民の準備をする彼らの取って重要なタンパク質と脂肪源になるといわれています。
彼らは主に朝と夜に食べ物を探しに行き、日中は茂みの中で休んでいることが多いといわれています。また地域によっては季節により餌場を求めて移動すること
が確認されており、中には秋の間に数百kmも移動するものもいます。特にサケの群れが来るところや、果物の多い地域にはたくさんのクマが集まってきます。
ヒグマは4〜6歳ぐらいになると繁殖可能な年齢になり、毎年6〜7月になると繁殖期を迎えます。メ
スはこの時期に約三週間の発情期に入り、一匹もしくはそ
れ以上のオスと交尾を行います。また一
匹のメスをめぐってオス同士が争うこともしばしばあり、メスと交尾をしたオスは1〜3週間程度メスを守るために横に
付き添います。
その後夏の終わりから秋の初めになるとクマ達は冬眠の準備を始め、山のような
食べ物を食べて体に脂肪を付けていきます。この時期には最大で一週間に
14kgも体重が増えるというから驚き。そうして十分に栄養を付けたヒグマは10〜12月頃になると洞穴や、自分で地面に
掘ったくぼみ、木のうろなどを寝
床にして冬眠に入ります。この時彼
らは自分で枯れ草などを集めて専用のベッドを作るそうです。(結構まめなのね。)冬眠すると体の機能が極端に低下し、通常ヒグマの体温は38℃ぐらいですが31℃ぐらいまで変化し、また心拍数も普段の40〜70回から8〜12回程度にまで低下します。
メスは冬眠の間1〜3月頃に出産を行い、大体一回の出産で2〜3匹の子供が産み落とされます。ヒグマの妊娠期間は
個体差がありますがおおよそ180−260日
前後です。生まれたばかりの子供は目がまだ開いていず、毛も生えていません。最初のころ体重は約340−680gですが、自分で動き
回り母グマからミルクをもらうようになります。哺乳類のミルクは非常に栄養価が高いことで知られていますが、ヒグマのミルクもたくさんの栄養を含んでお
り、大体20%は脂肪で出来ています。
こうして母グマに育てられた子グマは急速に成長し、3ヵ月後には生まれたときの20〜50倍近い15kg程度にまで大きくなります。その後春になると母親
の後についてエサを探しに行くようになります。母グマの出産の周期は大体2〜4年であるといわれており、次の発情期を迎えるころになると子供たちを自分の
周りから遠ざけ、次の出産に備えます。そして母グマから離れた子供たちはまた別の地で自分たちの縄張りを持つようになります。
ヒグマの縄張りの大きさはその地域ごとのエサの量によって変化し、アラスカのような地域では1000〜2000平方キロメートルに達することもあります。
一方食料が多い地域、特にサケが上ってくる川の流域などでは2〜3平方キロメートルしか縄張りを必要としないこともあります。一般的にオスのほうが広い縄
張りを持ち、メスの4〜7倍程度になります。し
かし、ヒグマの縄張りは完全に個体ごとに分かれているわけでなく、特にオスの縄張りは何匹かのメスの縄張り
と重なっていることが普通です。
ヒグマは人間と比べ視力はあまり良くありませんが、耳は我々と同じぐらい聞こえ、逆に嗅覚は非常に優れており3km以上先の腐った死体のにおいを嗅ぎ付け
ることも出来ます。従って仲間同士のコミュニケーションも音やにおいを通したものが中心となります。また木の皮などをこすっ
たりすることで、意思疎通を行うことも
知られており、繁殖期に入ったメスがそのことをオスに伝えるのもこういったコミュニケーションを通して行っていると言われています。
自然界におけるヒ
グマの寿命はおおよそ20〜30年程度である
といわれていますが、飼育下のもの
では50年程度まで生きることが知られていま
す。ヒグマには天敵
と呼ばれる動物はほとんどいませんが、若いクマはまれに他のクマやピューマ、オオカミの餌食になることがあります。
[画像提供] Don Getty様(アメリカの写真家さん)
|