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ホワイトタイガー |
ところでトラの模様と言えば「トラ
柄模様」という名があるぐらい有名な、オレンジの地色に黒い縞が入ったものですが、これは狩りのときに周りの草や木に隠れ、カモフ
ラージュとなります。そしてこの模様は一匹一匹異なるため、それぞれ
の個体を見分けるときに役立ちます。
しかしトラの中には、まれにこれとは違った色をしたものが現れます。それがかの有名なホワイトタイガーで、本来オレンジ色を
している部分が真っ白になります。更にホワイ
トタイガーは黒い縞の部分も普通のトラと比べると色がうすく、茶色みを帯びており、中には完全にこの縞模様のない
個体も出現します。またその眼はクリスタルブルーの非常に奇麗な色をしています。
ところで現在では世界中のサーカスや動物園などでホワイトタイガーを目にすることができますが、なんと彼らの大部分はインドで捕らえられた「モハン」という
たった一匹のトラの子孫であると言われています。つまり我々が見るホワイトタイガーは広い意味での親戚同士であるというわけですね。現在は全世界で250頭、日本国内で
はその10%にあたる25頭の
ホワイトタイガーがいると言われています。
なぜ白い色の個体が生まれるのか大変不思議であると思います。他の動物でも時々遺伝子の欠陥によって体の中で色素が作れない白い個体(アルビノ個体)が生
まれることがあるのが知られています。しかしホワイトタイガーの場合黒い縞の部分では色素がちゃんと作られており、別に遺伝子的にも問題がないため、アルビノ
個体ではありません。実は一部のトラの中には遺伝子の中に白い毛皮を持つものが含まれており、ホワイトタイガーはお父さんとお母さんにあた
るトラの両方からこの遺伝子を受け継いだときのみに現れるものです。
しかしなぜトラの遺伝子に白い毛皮のものが含まれることがあるのか、これについてははっきりとしたことはわかっていませんが、もともとトラはシベリアなど
寒い地域で生まれたものであるという説がありま
す。そしてその頃は周りが真っ
白な雪で覆われた場所で生活していたため、周辺の景色に溶け込んで狩りをすることが出来る白い毛皮をまとうようになり、その
ころの名残が今も残っているためであると言われています。
またホワイトタイガーは各地で神聖
な生き物としてあがめられており、中国やわが日本でも天をつかさどる聖なる四つの獣(四神)の一つに白虎(びゃっこ)とい
う名で現れています。
ちなみに普通の色をしたトラの毛皮も地域によって差があるらしく、シベリアトラのような北の方に住むものは薄い色をしていますが、インドネシアなど南の地
域のものはオレンジ色がかなり濃くなるそうです。また某有名プロ野球球団ではトラ柄のイメージカラーとして黄色と黒の模様を使っていますが、トラの色が黄
色であると感じるのは日本人だけで、海外の人はみんなオレンジと黒と考えるのが一般的らしく、メジャーリーグのデトロイト・タイガースのチームカラーもこ
の配色
となっています。
トラは本来森の奥深くに住む動物で、あまり人里近くに現れる生き物ではありませんが、農業などのため森を切り開いて人間が周辺に暮らし始めると、たびたび家
畜などを襲うようになることがあります。そして時には我々人間自身もトラの餌食になる場合もあ
り、インドなどでは毎年何人もの人がトラによって殺されてしまっていま
す。一説には野生動物の中で人
間を襲って食べるのはトラが一番多いとも言われていますが、若い健康的なトラが人間を襲うことはあまり無く、年老いてシカなど野生の獲物を
狩ることが出来なくなったトラが人を狩るケースがほとんどのようです。
従ってこれらの地域ではトラに対する憎しみが強いところもあり、自らの生活を守るためにトラ狩りが行われることがあり
ます。またそれ以外でもトラの
毛皮は装飾品として価値が高く、また古くから中国などでは漢方薬としてトラの身体が使われ、伝統的にトラ狩りが行われてきました。
更に近代に入って猟銃が発達す
るとスポーツの一種としてトラ狩りが頻繁に行われるようになり、トラを殺すケースが大幅に増え、これらの結果各地でトラの数は大幅に減少してしまいました。
一方トラが住む森も開発によってどんどん減少し、またそれぞれの生息地同士が道路などによって分断され、それらの地域の間で交配を行うことが出来なくなっ
てきており、このこともトラの生息数に深刻な影響を与えています。
これを受けて中国などでは野生
のトラを殺すことは法律で固く禁止されており、ワシントン条約などでもトラの毛皮の輸出は固く禁じられています。また各地の保護区などでは
トラの生態を詳しく調べることで最適な保護の方法を模索しており、漢方薬でトラを使うことを警告するキャンペーンなども行われています。
そんな様々な側面を持つトラですが、昔から彼らは人々に尊ばれてきた動物であり、現在でもその人気はとても高いものとなっています。ですから何としてもこ
の先も元気に生き残り、その威風堂々たる姿を見せ続けていって欲しいものです。
執筆:2007年9月15日
(最新改訂2008年3月9日)
[画像撮影場所] Downtown Aquarium
Houston