バンドウイルカは群れで生活するタイプのイルカで、
大抵は10匹余りの大きさの群れを作りま す。しかし場合に
よっては
群れのサイズが100匹を超えたり、数百匹にも達する群れを作ることもあります。これらの群
れのメンバーは固定されたものではなく、一日のうちに何回も入れ替わったりもします。また大人のメ
スは彼女たちの子供と群れをつくるのに対して、
大人のオスは普段2〜3匹の群れで行動するか、場合によっては単独で生活します。
バンドウイルカ達は大変多彩な方法でお互いにコミュニケーションを取ることが分かっています。最も代表的なのがキーキーという甲高い鳴き声を出したり、口
笛のような音を出したりする
発声に
よるものです。その他にも水面でジャンプしたり、顎を打ち鳴らしたり、水面を尾で打ったりするなどのボディーランゲージ
を取ることも知られています。この中で彼らは仲間のイルカに近くに危険が迫ったことや食べ物となる獲物が居ることを知らせます。研究者の中には彼らは単な
る鳴き声ではない、
私たちの言語(イルカ語)に相当する複雑な言葉によるコミュニケーショ
ンをとるのではないかと考えている人もいますが、彼らの高い知能
を考えるとあながち間違っていないのかもしれません。また彼らは自身のことを表す独自の鳴き声を持っているとも言われ、これはまさに彼ら一匹一匹の
名前と
も言えるものです。
彼らは群れで
狩りをすることが知られており、
チームプレーで餌となる魚の群れの周りを
泳ぎまわり、一か所に集めてから狩りを行います。その他にも尻尾を
使って魚を打ちのめし、魚が気絶したところを食べるテクニックなども持っています。また頭のいい彼らは人間の使う漁船の後を付いて行って、打ち捨てられた
魚やエビを食べたり、魚を養殖しているいけすの周りに集まってきたりすることもあります。更に沿岸に棲むバンドウイルカの中には岸にある泥の地面の所まで
魚を追い詰め、そのままの勢いで体を半分打ち上げながら獲物をくわえていくという、大変ダイナミックな狩りをおこなう者もいます。
バンドウイルカの
主な食べ物は
ニシンなどの小魚ですが、その他に
イカやエビ、ウナギなどの小型の動物も食
べます。普段は水面近くや水中を泳ぐ魚を追う彼らです
が、時には海底の砂地などをあさって餌を探すこともあります。彼らが獲物を捕らえる時にはそのとがった口が役に立ちますが、その中には鋭い歯が並んでいま
す。しかしながら彼らの口は獲物をつかむのには適しているものの、噛み砕くことには適していません。こうして
彼らは日に6〜7kgの餌を食べます。
一方
彼らの天敵となる動物としては、イタチザメやドタブカ、オオメジロザメなどの大型のサメが挙げられます。特に子供の頃のイルカは襲わ
れやすいのですが、
大人のイルカはおとなしいイメージと反して、
逆にサメに反撃を食らわせることがありま
す。主な攻撃方法は
体全体で相手にぶつかっていくやり方な
のですが、
彼らは泳ぐスピードが大変速く、体重もそれなりにあることから、
衝突したときの衝撃が想像以上に大きく(自動車事故並みとも)時にはホオジロザメなどにも
重傷を負わせたり、時には死に至らせる事例もあるそ
うです。またこの時彼らのとがった鼻先も強力な武器になるそうで、サメの方もよほどのことがない限り、
大人のバンドウイルカに戦いを挑むことはないそうです。
また
一部の地域ではシャチがバンドウイルカを獲物として襲うことがあるとい
う報告がなされています。シャチの中には普段魚を主に食べているものと、アザラシなどの海洋性のホ
乳類を常食としているものの2種類がありますが、バンドウイルカを襲うのは後者のタイプであると言われています。しかし一方で
魚しか食べないグループの
シャチはバンドウイルカと一緒に泳いでいるところがたびたび目撃されています(実際に
名古屋港水族館では数匹のバンドウイルカを従えてシャチの「クー」がゆっくり
と水槽の中を泳ぎ回る姿を見ることができます)。
イルカショーなど
で彼らを見た人は彼らの芸のバリエーションや頭の良さに驚いたと思いますが、バンドウイルカの脳は大変発達しており、重さでは我々人間の脳を上回ります。
彼らの知能については長年様々な研究が行われており、それによると彼らは物体の形や向きを認識したり、音や動きをまねることが分かっています。また鏡に
移った自分の姿を認識したり、物の数を数えてどちらが多いかなども判別することが出来ると言われています。特に2つボードに描かれた点の数を数えどちらが
多いかを答えるテストでは、答を出すのに要する時間は人間よりも短かったという実験結果も得られているそうです。
また西オーストラリアにいるバンドウイルカは海底の砂地の中にいる餌を探す時に、鼻先にカイメンというスポンジ状の生き物をくっつけて、砂を掘り起こす時
にその鼻先が傷つかないようにする行動をとると報告されています。これは彼らがカイメンを道具として使ったいる例です
が、ラッコ以外の海生ホ乳類が
道具を
使う唯一の例です。またこの行動は何故かメス
のイルカしか行わず、詳しい研究によると母親のイルカが娘に教えることで代々伝えられているのではない
かといわれています。
アフリカやブ
ラジルの一部では野生のバンドウイルカが地元の漁師さんとともに協力して、餌である魚を取ると言われています。その方法とは岸辺で網を張っ
て
待ち構える漁師の所に、沖合いからバンドウイルカが魚を追い込むというものです。これによって漁師さんは労せずして多くの魚を一度に捕まえることができ、
同様にイルカ達も網に追い込まれた魚たちありつくことができます。このような人間とイルカが共同で行う漁ははるか昔から行われており、ブラジルの場合では
最も古いもので150年以上前の記
録が残されているそうです。
またバンドウイルカは非常に好奇心が高い動物で、水族館などに行くとガラス越しに見物にきたお客さんたちを、逆に観察するように見つめるところがよく目撃
されます。これは野生のイルカ達にもいえることで、海の中ではダイバーの周りに群れをなしたイルカが集まってくることもあります。
更に海でおぼれた人間をイルカ
達が助けると言う話は世界中で伝承が残っており、古いものはなんとギリシャ
時代初期にまでさかのぼります。この時イルカ達は
おぼれている人を下から持ち上げて水面にまで運び、おぼれないように呼吸するのを手助けするともいわれています。また2004年11月、ニュージランドで
3mにもなるホオジロザメに接近された3人のライフセイバー達が、イルカによって助けられたという出来事も報告されています。このとき群れ
で現れたイルカ
達が彼ら3人を取り囲み、100m先の岸へと戻る間、サメからの攻撃を防いだということです。
このような行動からイルカ達は「海
における人間のベストフレンド」とまで呼ばれることもあります。また近年自閉症などの重度の障害を持った大人や子供の精
神的な治療法に彼らが用いられることがあります。このなかで体験者はイルカと同じプールに入り、直接彼らに触れ合うことによって、とても良い効果が得られ
るということです。
しかし一方で野生のバンドウイルカは我々の持つイメージとは対照的にとても攻撃的な一面を見せることもあります。特にメスをめぐるオス同士の戦いは、たがいに頭突きをし合うなど大変激しいものになります。ま
た子供のバンドウイルカを大人
のイルカが殺したり、スコットラン
ドでは他の種のネズミイルカを捕食や防御といった目的もなしに殺してしまうといった事件も起きています。
これまでのところ人間に対してバンドウイルカが攻撃的な行動をとったということは報告されていませんが、すごく優しくて愛嬌のある性格を持つ反面、このよ
うな凶暴な一面を持つのは大変意外に思わされます。しかしながらこの様な行動を起こしたり、複雑な心理を持っていることは、彼らの知能が大変高いことの表
れなのでしょう。
普段水族館で彼らを見る我々にとっては大変愛おしい存在であるバンドウイルカ達ですが、海の周りにすむ人々にとってはそうは言っていられない状況もありま
す。特に魚を取って生活をしている漁師さんの間には、イルカが獲物となる魚を食べ漁ることで漁獲量が減少するのではないかという心配があります。このため
いくつかの地域では自分たちの生活を守るために、イルカを殺してきた歴史があります。
その他イルカと人間のかかわりの極端な例として、冷戦時代にアメリカやソ連が行った
バンドウイルカの軍事利用の試
みがあります。この中で両国は
イ
ルカ達を
訓練して、水中に浮かぶ機雷(敵艦を攻撃するために水中を浮遊する爆弾)を除去したり、敵の兵士であるダイバーを発見するように仕込んだと
いわれています。
ア
メリカのカリフォルニア州、サンディエゴなどには現在もイルカの訓練施設があり、イラク戦争には実戦投入されていたそうです。
現在絶滅が危惧されているクジラやイルカの仲間が多い中で、
バンドウイルカ達はかなり安定した生息数
を保っています。昔は彼らもその肉や加工製品に使われ
る油などを求めて、大規模な狩りが行われていた時代がありました。しかしながら現在は多くの国々で彼らを狩ることは禁じられており、その数は次第に回復し
ています。この結果1980年代にはアメリカ沿岸だけで3000〜10000匹のバンドウイルカが確認されたということです。
しかし、現在も彼らに対する人間の脅威が完全に取り除かれたかというと、決してそうではなく新たな問題が持ち上がっています。その中で最も深刻なものが
マグ
ロとの混獲です。いくつかのバンドウイルカのグループはマグロたちと一緒に泳いで回遊する習性があります。その中でイルカ達はマグロより目
立つため、マグロ漁
の中でイルカごとマグロを捕まえたり、網で間違って捕えられたりします。この問題を受け一時マグロ製品の不買運動が持ち上がった地域もあり、現在では多く
の企業が自社の製品にイルカにとって安全な方法で捕まえたマグロを使っているというステッカーを貼って販売しているそうです。
また食物連鎖の上位に位置する彼らは多くの
化学物質を体にとりこむ傾向が
あり、
特に水質汚染のひどい地
域ではかなり高濃度のカドミウムや水銀などの物質がイルカの組織
から検出されています。またこれとともにイルカの食べ物となる魚の減少した地域もあり、スコットランドのモレーファースというところにいる
バンドウイルカ
は150頭にまで数を減らし現在も年6%のペースで減少が続いているということです。
執筆:2007年12月8日
(最
新改訂2008年5月8日)
[画像撮影場所]
名古屋港水族館
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しながわ水族館
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