2本の大きな角が立派な
クロサイはアフリカ東部と中央
部に分布しているサイの一種です。アフリカといえばもう一種類、
シロサイさんが棲んでいますが、名前も対照的なこの2種類はアフリカ大
陸の代表アニマルとして、その人気も二分しています(?)。
『クロ』サ
イと
『シロ』サ
イっていうぐらいだから、きっとクロサイの方が体の色が黒くて、シロサイは白いんだろうなあと普通は考えそうなものなのですが、実は
彼らは両方とも同じような灰色っぽい色を
しており、体の色では全く区別がつきません。まったくもって「なんじゃ、そりゃ」ってな感じなのですが、これにはそもそも
歴史的な間違いが
元となっています。
シロサイのページにも書いていますが、シロサイは地面に生えた草をむしり取って食べるため、
非常に幅広い口をしています。
このため現地では幅広いという意
味の
『widje』と
いう名前が付けられていたのですが、これを聞いた人が間違えて
『white(白い)』と訳し
てしまい、ここから『シロサイ』と呼ばれ
るようになりました。そしてもう一種類アフリカに棲んでいたサイのことを、
あっちが白ならこっちは黒だと
いうことで、
『クロサイ』と
呼ぶようになったとい
うことらしいです。従って本来は体の色をもとにして名前を付けていたわけではないので、彼らの名が体を表してないのは当然のことといえます。
ところで、シロサイは地面に生えた草を食べるため、幅の広くて大きな口をしていると言いましたが、それとは対照的に
クロサイの口は先がとがった形を
しています。これは食べるものがシロサイと異なるためで、
クロサイはやや背の高い草を食べたり、木
の枝から葉っぱをむしり取ったりして食べています。この
ため鳥のようについばむ形をした口の方が都合よく、先がとがった形をしているというわけだそうです。(これを考えると右の写真のように地面に置いた葉っぱ
は、クロサイにとって食べにくいのかも?)ちなみにクロサイのように枝から葉っぱをむしり取って食べる動物を
「ブラウザー」、シロサイのよ
うに地面の草を
食べるものを
「グレイザー」と
呼び、
両者は互いに食べるもの
を変えることで、お互いが食べ物をめぐって競い合わないようにしています。
この堅い木のような植物を食べるクロサイの食性は他のサバンナの動物たちにも重要な意味があるといわれています。というのも彼らが木々を食べると、そこに
は新しく木よりも食べやすい草がたくさん生えてきて、これを食べる多くの草食動物たちの餌になるといわれています。またクロサイは主に明け方と夕方頃に食
べ物を探し歩き、熱い日中は休んだり、眠って過ごします。さらに乾燥した地域に棲む彼らは5日ぐらいまでであれば、水を一滴も飲まなくても生きて行くこと
が出来ます。
クロサイは
主にアフリカ大陸の
サハラ砂漠より南の地域で、とりわけアフリカ東部と中央部に分布しています。彼らが棲んでいるのは主に
乾燥したサバンナや低い木
の茂る林などで、繁殖期の夫婦と子供を連れた母親以外は基本的に単独で生活しています。しかしごく短期間の間だけ数頭からなる小さな群れを
つくるところも
目撃されており、時には13頭もの群れになることもあるそうです。またそれぞれのサイは
なわばりを持ち、その大きさは
食べ物や水の量によって変化して、
2.6平方キロメートルの比較的小型のものから大きいも
のでは144平方キロメートルにもなるそうで
す。
かつてクロサイ達はアフリカ大陸で非常に繁栄した動物の一つであり、
1900年頃には大陸全土で70万頭ものクロサイが棲んでいました。このためクロサ
イは
サイの中で最も数の多い種で
あるといわれていました。しか
し20世紀後半に入ると、そのりっぱな角を求めて大規模な狩りが行われるようになり、1960年代には10分の1の7万頭にまで数を減らしてしまいます。
しかしその後も狩りの勢いは衰えず、1980年には1万頭程度、そして2004年には
2410頭にまで激減してしま
いました。このため
クロサイが
棲む地域
の国々では厳重な保護と繁殖活動が行われ、中には24時間武装したレンジャーに守られるクロサイもいるそうです。これらの活動により、
現在クロサイ達は3600頭ほどまで数を戻し、やや回復傾向にあるそうで
す。
しかし、クロサイには
南中クロサ
イ、南西クロサイ、ヒガシアフリカクロサイ、ニシアフリカクロサイの
四亜種が知られていますが、こ
のうちの
ニシアフリカク
ロサイは近年目撃例が全くなく、2006年7月にはついに絶滅宣言が出されてしまいました。また残ったクロサイも
各国の保護区にしか生き残っていないのが現状です。
クロサイの角は中近東では
お祝い用
の短剣の柄として数多く用いられ、またアジアでは熱を下げるのに効く
漢方薬として使われることか
ら、
世界中で需要があ
り、このような大規模な密猟を引き起こしてしまったといわれています。しかし彼らの角が本当に病気に効くのか、医学的な根拠はなく、各地で
サイの角の不買
活動が行われています。
クロサイは
全長3.3〜3.6m、
肩の高さが1.4〜1.7m、体重は800〜1400kgもあり、ちょっとした車並みの巨体をしています。ですがシロサ
イよりはやや小さめで、またオスのほうがメスよりも体が大きくなる傾向があります。しかし中には
1820kgに達する大物もいた記録があるそうです。
クロサイのシンボルともいえる
2本
の角は顔の真ん中に生えていて、
前の角の方が後のものより長くなります。
この前側の角の長さは普通
50cm
ぐらいです
が、大きなものになると
140cmに
も達することがあるそうです。この角は骨が突きだしたようにも見えますが、実は
我々の髪の毛と同じケラチンと呼ばれる
タンパク質でできており、他の動物の皮膚もしくは体毛に近いものであるといわれています。またまれに2本の角の後ろに、3本目の小さな角を
持つクロサイが
現れることがあるそうです。クロサイの体にはほとんど体毛がありませんが、唯一尻尾の先だけに生えています。
他のサイと同様にクロサイの体は分厚い皮膚で覆われていて、鋭い葉っぱやとがった木のとげなどから身を守っています。この皮膚にはシラミなどの寄生虫が良
く繁殖するらしいですが、ウシツツキやサギなどの鳥がこまめに食べてくれています。またクロサイは
泥浴びが非常に大好きな動物で
すが、これによって彼ら
は皮膚に寄生虫が繁殖するのを防いでいるといわれています。また泥浴びは暑い日中にサイの体温を下げる効果もあります。このにより地域によっては土の色が
異なるため、それに従ってクロサイの色も変化するといわれてい
ます。
クロサイとシロサイは体の大きさ以外にもいくつかの点で異なり見分けることが出来ます。まず上で述べたとおり、クロサイはとがった形の口をしているのに対
し、シロサイの口は四角く幅広いものになっています。また
クロサイにはシロサイで見られる肩の隆起
がなく、シロサイよりも頭が小さくなっているのが特徴です。
また彼らの耳は大変よく回転し、これによって周囲の音やその方向を聞き分けることが出来るといわれています。クロサイは仲間同士のコミュニケーションをと
るときに様々な鳴き声を使うことが知られており、キーキーという高い声を出して互いの位置を知らせたり、サイ同士が出会うと鼻息を吹き出して挨拶をしたり
します。一方で見知らぬ生き物に出会って恐怖を感じたりすると鼻息を荒げたり、警告のためにくしゃみのような声を出すこともあります。またこれとは逆に満
足している時には低く良く響く音を出すことも知られています。
普段はゆったりと草を食べているイメージがある彼らですが、実は
かなり警戒心が強く、不意に他の動物が近
づいたり、恐怖を感じたりするとすかさず突進してくる大変攻
撃的な一面があります。これは我々人間に対しても同じで、時には人の乗った自動車にも攻撃を仕掛けてくるそうです。特に
彼らは走るスピードも大変速く、最高で時速56kmに達することから、
あの巨体で突進されると正に交通事故と同
じぐらいの威力があり、さらに大きな角がその威力を倍増させています。
また
クロサイは目がほとんど見
えないため、視覚を使って周囲を確認するということが出来ません。従って周りに自分以外の動物の気配を感じると、とりあえず攻撃してから相
手を確かめるという方法を取るため、彼らに近づくのは大きな危険が伴い、十分な注意が必要です。中には自分には何ら害のない木の幹やシロアリの塚などにも
攻撃をしかけているところが目撃されたこともあります。
一方で同じクロサイ同士の間ではあまり攻撃的ではなく、ほとんど威嚇だけで終わることがほとんどのようです。オスはメスよりは攻撃的といわれますが、それ
でも頭や角を突き合わせたりするだけで、ほとんど致命的な傷を負わせることはありません。また彼らはなわばりをもって生活していますが、他の自分より小さ
なサイが侵入してきても、あまり神経質に追い払ったりすることはないようです。
視覚の弱い彼らはもっぱら仲間同士を見分けるのに
嗅覚をつかっており、
なわばりの中にある木には尿をかけたり、
体や角をこすりつけて匂いをつけ、ここが自分の領土であることを主張します。また糞をする時、その辺りに棲むサイ達はみな水場や餌場の近く
の同じ場所で排便を行い、これによってこの地域に何匹のサイが棲んでいるのかを互いに知らせ合っているといわれています。
クロサイには特定の繁殖期はなく、
一年中繁殖活動を行うことが出来ます。
メスは2〜5年ごとに繁殖を行い、発情期に入るとマーキングに
使う尿や糞の量が増え、これによってオスに自分が交尾可能であることを知らせます。このようなメスを見つけるとオスサイはその後ろをついて行きますが、こ
の時オスはメスの糞を辺りにばらまき、自分以外のオスが匂いをもとにメスの後を追うことを防ぎます。それでも2頭のオスがメスをめぐって争うことになる
と、
この時ばかりはオスの戦い
は非常に激しいものとなり、かなりの確率でどちらかが死に至ることもあります。こうして通常2〜3日、長い時には何週間もオスとメスは行動
を共にして、最終的に交尾を行います。
交尾を終えた
メスは15〜16か月後に子供を出産します。
一回の出産で産まれるクロサイの子供は決
まって一匹だけで、主に雨季の終わりごろに集
中して出産が行われます。クロサイの子供は産まれたときにすでに
35〜50kgもの体重があ
り、産まれてから3日もすると母親の周りをついて歩けるようになります。産まれたばかりの子供の肌はピンクがかっていますが、成長とともにサイ特有のグ
レーの皮膚になっていきます。メスは基本的に親子2匹だけで子育てを行いますが、まれに親を失った他人の子供を一緒に育てることもあるそうです。
こうして
2歳ぐらいまで母サイと行動を共にしながら母乳で育てられ、2〜3歳ぐらいの時期に母親が次の子供の出産の準備に入ると、最初の子
供は親から一人立ちさせられます。大人のクロサイにはほとんど天敵と呼べる動物はいませんが、子供の頃には主に
ライオンやハイ
エナによって襲われることがあります。その後
オスのクロサイは7〜8歳で、メスの場合は5〜7歳で大人になります。自然界における
クロサイの寿命は35〜50歳だ
といわれており、飼育下でも
45歳ま
で生きたものが知られています。
執筆:2008年3月9日
[画像撮影場所] 天王寺動物園
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