東南アジア赤道直下に浮かぶ、世界最大規模の列島群であるスンダ諸島には現在もなお未
開のジャングルが広がっています。その中で最大の大きさを誇るニューギニア島には、現地の人
々の間で「パプワドラゴ
ン」と呼ばれる、ジャングルに棲む巨大
なトカゲの言い伝えが残されています。その大きさは4.9mもしくは5.5mに
達するといわれ、およそトカゲとは思えないものなのですが、中には12mの
ものが居たという目撃談もあり、本当であれば太古の昔に存在した恐竜達に匹敵するトカゲがこの地に生きていることになります。
そしてこの伝説の正体とされているのが、この島固有のオオトカゲの仲間であるハナブトオオトカゲです。彼らはグリーンの体に黄色い斑
点が無数に並んだとて
も綺麗な模様をしているトカゲで、この模様のためジャングルの木の上で生活する彼らは、普段は木々の葉の間にまぎれこんでしまい、そう簡単に人間に見つか
ることはあ
りません。世界最大のトカゲであるコモドオオトカゲを大きく上回る4mという全長を持つといわれているこ
とから、多くの文献で彼らはしばしば世界最
「長」のトカゲであると紹介されています。
こうしてこれこそが伝説のオオトカゲであるといわれている彼らですが、実際には現地で言い伝えられているような4mを超える個体が捕獲されたり確かな測定
が行われたことはなく、これま
で公式に記録された最
大のハナブトオオトカゲの全長は2.7mとなっています。
このため彼らが世界最長のトカゲであるというのは、今のところ確かなものではなく、公式には世界
4番目の全長を持つトカゲと位置付けられています。しかし伝説ほどではないにせよ、我々のイメージするトカゲとは大きくかけ
離れた大きさで、オオトカゲの
名がふさわしいと言えます。現在ハナブトオオトカゲは研究がほとんど行われておらず、詳しい生態など未解明な部分が多々残されている状態ですが、さらにこ
の地域での研究が進めばよりすごい大物に出会えるかもしれません。
ところで彼らの最大の特徴は何といっても黄色い縞模様が描かれたその長いしっぽで、全長の半分以上にあたる60%に達します。尾が長い分彼らの胴体は短く
なっており、面長な顔も合わせて、見た人には全体的にスリムで細長いイメージを与えます。このため他のトカゲと比べてハナブトオオトカゲは長さに対する体
重が小さ
く、たとえ4mを超えるものがいても体重ではコモドオオトカゲを上回ることはないだろうとされています。また水辺の近くに棲んでいることの多い彼らです
が、このしっぽを使って水の中を泳ぐこともできます。
ところで日本名の「ハナブト」と
言うのは彼らの大きく丸っこい
鼻口部を表したもので、この先には楕円形の鼻の穴が開いています。また彼らは黄色い色をした舌を持っています。
普段彼らはジャングルの中でも林冠と呼ばれる
、森の中で最も高い部分に棲んでいます。
最も多く見られるのはニューギニア島の南東部にあるマングローブの沼や、沿岸部の熱帯雨林となっています。木の上で生活する彼らの足の指には
鋭く曲がった形の爪がついてお
り、これを使って木の枝や幹にしっかりと捕まることができ、後ろ脚だけ引っ掛けて枝にぶら下がることもできます。また木に上るときにはあの長いしっぽも使
われ、枝につかまるときにしっぽを枝に捲きつけて体を支えることもあるそうです。
肉食動物である彼らの最大の武器は口の中にずらりと並んだく
まっすぐで鋭い歯で、主に昆虫
や小型のハ虫類、鳥などの小動物に噛みつき、食べてしまいます。体がスリムな彼らは例え木の上でも意外なほど速く動き、獲物を狩ることが出来ます。また他
にも鳥の卵や死んだ動物の死肉なども漁るといわれています。彼らのまっすぐに生えたとがった歯は獲物の体から肉をそぎ取るのに都合が良く、これで生き物を
食べやすい大きさに引き裂いて食べるとされています。
彼らは非常に攻撃的な性格をしており、近づくものがあればたとえ人間であっても鋭い
歯で攻撃をしてきます。英語名にワニを意味する
「クロコダイル(Crocodile)」が
付けられているのはこれに由来し、
木
の上のワニとも呼ばれています。
ハナブトオオトカゲのオスとメスは見た目にはほとんど違いがなく、我々人間には見分けがつきません。ハ虫類である彼らは卵を産んで増え、
産まれたときにはすでに全長45cmもあるそうです。全長が1.5mぐらいにな
ると性的に成熟し繁殖が行えるのようになります。
世界でもニューギニア島にしか住んでおらず、研究例も少ない珍しい種である彼らですが、現在では数は比較的少ないものの世界各地の動物園で飼育されてお
り、
個人でペットとして彼らを
飼う人もいるそうです。ただ上にも書いたとおり、彼らの性格は非常に攻撃的で、噛みつきには十分に注意をする必要があるため、あまり初心者
向きのペットとは言えません。また動物園などでは長いしっぽをムチのように使って飼育員を攻撃してきた例も知られているそうです。
執筆:2008年4月27日
[画像撮影場所] ヒューストン動物園(Houston Zoo)