インドネシアに住むコモドオオトカゲは皆さんご存
じ、なんと体長3mを超える世界最
大のトカゲくんです。いかつい顔と灰褐色の分厚い皮膚で覆われた屈強な体は、まるで恐竜の生き残りさながらの風格が
あり
ます。
彼らは世界で
インドネシアの小スンダ列島に属するコモド島、フロレス島、リンチャ島の島々だけにみられます。主な生活の場は乾燥した森やサバンナで、ま
れ
に砂浜や山の上、乾いた川床などにも居ることがあります。
コモドオオトカゲが西洋の人々に知れるようになったのは20世紀に入ってからの1911年のことで、偶然コモド島に不時着した飛行機の操縦士
が彼らを発見
したと言われています。彼ははその大きさに驚き「コモド島に
は恐竜が生き残っている」と報告し、「いや、これこそが伝説のドラゴンなのではないのか?」という説がヨーロッパなどで広まりました。
当初、彼らの全長は5mも
しくは7mを超えると言われかなり誇張されて伝わったようなのですが、その後の調査からこの動物が恐竜ではなく巨大なトカゲであ
ることが明らかにされました。ちなみにコモドオオトカゲは英名をコモドドラゴンと言いますが、
この名
前はこれに由来します。
彼らの体はオスの方が大きくなり、最大で全長313cmのものが記録されており、通常のものでも
平均250cmになります。長さだけであ
れば同じインドネシアやパプアニューギニアに住むハナブトオオトカゲが全長4mを超え、コモドオオトカゲを上回りますがこちらはだいぶ細身のため、体重で比
較すると最大166kg(平均は90kgぐらい)に達するコ
モドオオトカゲに軍配が上がります。
大人のコモドオオトカゲは現地の人に「コモドオオトカゲの敵になるのは同じコモドオオトカゲだけ」と言わせるぐらい強くなります。彼らは完全な肉食でヤギ
やブタ、イノシシ、そして時に
はウマやスイギュウなどの超大型の動物も倒して食べてしまいます。
現地ではコモドオオトカゲが人間を襲った例もたびたび報告されており、観
光客が餌食になってしまった悲しい事件も起こっています。また大型のコモドオオトカゲによって、小さなコモドオオトカゲが食べられることもあり、正に修羅
道を地で行く生き方をしています。
彼らは変温動物であるため、朝や夕方になると体を温めるために日光浴を行います。また逆に日中の暑い時や夜になると岩場の影に隠れたり、地面に穴を掘って
その中で過ごします。またそれぞれのコモドオオトカゲは1.9平方キロメートル程度のなわ
ばりを持っていて、その中を主な生活の場としています。ですがそれほど自分のなわばりにこだわりは無いみたいで、それぞれのなわばりは互いに重なり合って
います。また彼らは乾いたところに住んでいるイメージがありますが、水の中を泳ぐことができ、
決して水辺が苦手というわけではありません。また意外と動き
も俊敏で本気を出せば、時速10kmぐらいで走ることができます。
彼らの狩りの方法は他の肉食動物のものとは一風変わっていて、茂みなどに隠れて獲物が来るのを待ち伏せ
します。そして獲物が近くにくると鋭いノコギリ状の
歯の並んだ口で噛みついたり、するどい爪で攻
撃します。ちなみにコモドオオトカゲの一噛みは、大型のものであれば人間の足の骨を一発で
噛み砕くぐらいの威
力があります。しかしここでは無理に獲物を仕留めようとはせず、そのまま逃げた獲物の後をどこまでも追い続けます。実はコモ
ドドラゴンの中には50種類を超える細菌が含まれていると言
われており、一度かまれた獲物はたとえその時は逃げることが出来ても、その傷がもとで敗血症や大量の出血を引き起こして死んでしまいます。
獲物が死ぬその周りには狩りを行ったコモドオオトカゲ以外にも次々と他のトカゲが集まってきます。この時餌は最初最も大きなオスが食べ、その後に小さいオ
スやメスがそれにありつきます。そして最後に大人のコモドオオトカゲが居なくなると子供が残った肉を分け合います。コモドオオトカゲは肉をかんで食べるこ
とがあまり得意ではないため、食べる時には鋭い歯で引き裂き、それを上に放り投げる形で丸のみにします。またコモドオオトカゲは狩りをする以外にも、自然
に死んだ動物の死肉も頻繁にあさることが知られています。また彼らの食欲は非常に旺盛で、一度にかなりの量の肉を食べることがで
き、場合によっては体重の
80%近く(70kgぐらい)のご飯を食いだめすることができます。
また獲物となる動物が死ぬと、この一つの獲物のためにかなり遠くからコモドオオトカゲ達が集まってきますが、これは彼らの嗅覚が非常に発達しているため
で、なんと通常
4〜5km先、風下にいればなんと10km以上先の
臭いも嗅ぐことが出
来ると言われています。この臭いをかぐシステムはヘビのものに似ていると言われていて、舌を出し入れして空気中の臭いのもとである化学物質
をとらえて、そ
れを臭いを口の中にある感じる器官に運ぶことで臭いを感じていると考えられています。
またコモドオオトカゲの尿は酸性になっていますが、これはヤモリなどの他のハ虫類を呼び寄せる性質があると言われています。そしてこれによって集まってく
る獲物もまた彼らの餌食になってしまいます。
コモドオオトカゲは毎年7月と8月に繁殖期を迎え交尾が行われます。この時
期になるとメスの糞の匂いが変化し、それによってオスは交尾可能なメスを見つけます。複数の
オス同士が一匹のメスを取り合う場合には、彼らはしっぽを支えにして後ろ足で立ち上
がりたがいに取っ組み合いをして争います。こうして勝ったオスはメスの
頭に自分の下顎をこすりつけたり、体を舐めることでメスの気をひきつけ、交尾を行います。
その後メスは9月になると約30個の卵を自らが掘った地面のくぼみに産み落とします。
それぞれの卵の大きさは8〜9cmぐらいで、約100gの重さがあります。そして
その上から土や葉っぱをかぶせ
て、さらにメスが上に横たわることでこれらの卵が温められます。この時メスは本当の巣以外にも、いくつものダミーの巣穴を掘って他の動
物に本当の巣が探し当てられないようにします。そうしておよそ8か月後に卵がかえり、体長37cm、体重80gぐらいのひなが産まれます。
子供の頃のコモドオオトカゲは濃い緑、もしくは黒い色の下地に、明るい黄色の斑点が並んだ縞模様を持っており、地味な大人のオオトカゲの体色と比べるとと
ても派手な色合いをしています。また大人になると最強のコモドオオトカゲですが、子供の時は他の肉食動物や更には大人のコモドオオトカゲによって食べられ
てしまう確率が非常に高くなっていま
す。従って彼らは産まれてくる
とすぐに比較的安全な木の上に登り、体が大きくなる生後一年ぐらいまでは樹
上生活を行います。子供の頃のコモドオオトカゲは
バッタや甲虫などの昆虫、ヤモリ、トリ、小型のホ乳類、他の動物の卵、そして大人のコモドオオトカゲたちの獲物の食べ残しなどを食べて成長します。
そうしておよそ10歳ぐらいになると繁殖が可能になりますが、他のハ虫類と比べると少し遅いかもしれません。また比較的短命のものが多いイメージがあるト
カゲの仲間ですが、その中でコ
モドオオトカゲはかなりの長寿を誇り、なんと最長で50歳ま
で生きることが出来るそ
うです。
そして最近になって世界一有名な科学雑誌であるイギリスの「ネイチャー誌」に興味深い記事が紹介されました。というのもイギリスの二つの異なる動物園で飼
われていたコモドオオトカゲのメスがオスと交尾することもなく卵を産み、さらにこのうちの一匹がふ化したというのです。このメスのトカゲは
完全に他のコモドオオ
トカゲとは隔離されており、このことはコモドオオトカゲがメス一匹だけで子供を
産むことが出来る「単為生殖」が可能であるこ
とを示しています。他の一部の
トカゲではこのような例があることは知られていますが、コモドオオトカゲは初めてで大きな話題を呼んでいます。
現在コモドオオトカゲは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストの中で絶滅危惧種として指定されています。彼ら
はかつてその皮をもとめて乱獲が行われた歴史があり、実際にインドネシアのパダール島に住んでいたコモドオオトカゲ
は絶滅してしまっています。また彼らの
餌となるシカが居なくなっていることも、要因の一つと考えられています。実はイン
ドネシア政府は1930年から法律で彼らを厳重に保護してお
り、現在彼らの生息地を丸ごとコモド国立公園に指定していま
す。そ
してその結果なんと1991年にコモ
ド国立公園は
世界
遺産として認められました。
現在コモドオオトカゲのいる地域には、
彼らを一目見ようと18000人もの観光客が毎年訪れていると言われてお
り、現地の人々にとっては重要な収入源と
なっています。そういった意味でも彼らはかけがえのない動物であるといえるでしょう。
ちなみに
日本の動物園では唯一
東京にある、上野動物園でコモドオオトカゲが飼育されていま
すので、コモドオオトカゲファンの皆さんはぜひ一度訪れてみてく
ださい。
執筆:2007年10月26日
[画像撮影場所] 恩賜
上野動物園