昔話でお馴染み
タヌキさんは、
現実の姿もずんぐりむっくりで大変可愛い
姿をしており、人里近
くにも住んでいることから、昔から我々になじみ深い動物のひとつです。
タヌキというと日本独特の動物であるイメージがありますが、
日本以外にも中国や朝鮮半島、ロシア南東
部などに幅広く分布しています。また1925年から
1955年ごろには東欧諸国や当時ソ連だったロシアのヨーロッパ側の地域にも、毛皮を取るために4〜9000匹もの養殖用のタヌキが持ち込まれ、さらにそ
のタヌキの一部が逃げ出し繁殖したことで、現在では東欧諸国を中心に西部を含めた
ヨーロッパ全域へと生息地を拡大していま
す。
タヌキが棲んでいるのは主に
森の中で、
彼らの脚が短くて背の低い体型は森の中で木の枝などをかいくぐって動きやすいように進化したものです。のんびりした
イメージに反して、彼らは適応力が大変強く、海岸近くから標高3000mの山地、さらに亜寒帯から亜熱帯地域まで様々な地域で見られます。また人里近くに
もよく姿を現し、日本でも排水溝をねぐらとして都会の真ん中で生き抜くタヌキが数多く報告されています。
タヌキの体の大きさは
全長
50〜68cmで、
体
重は4〜10kg程度です。またとがった鼻先と丸くて小さな耳、目のまわりが黒くてそれ以外は白っぽい顔の
模様が彼らの特徴となっています。このひょうきんな顔つきと、丸っこい体つきがとても愛らしい姿を産みだしており、多くの人々に親しまれています。また尻
尾は大きく13〜25cmの長さがあり、ふさふさとした毛でおおわれています。オスとメスの間にはほとんど見た目の違いはありませんが、メスのタヌキの方
が0.5kgほど大きくなるといわれています。
ちなみにタヌキの英語名
は
「ラクーン・ドッグ
(Raccoon
Dog)」といい、ラクーンというのは
「アライグマ」を意味します。
これは
タヌキの姿と模様がアラ
イグマに似ているため、ヨーロッパの人々がアジアにいる
彼らを
見た時、なじみのあるアライグマに似たイヌに近い動物という意味でこういった名前を付けたと思われます。
体の色は背中側は暗い色の茶色をしていて、脚と胸も黒みを帯びているのに対し、逆にお腹は明るい茶色か黄褐色をしていています。また背中には肩から背中に
かけて黒い筋が走っており、上から見ると十字模様になっています。また冬になると毛皮のふさふさ度もアップし、色もやや暗くなります。この毛皮の色は地域
によって異なり、北極近くに棲むタヌキの毛皮は白っぽく、周りの雪景色に溶け込みやすくなっています。
タヌキは
雑食性で動
物性のものの他に植物性の食べ物を食べますが、
イヌの仲間の中では特に食べ物の中で植物
の占める割合が高くなっています。このため彼ら
の持つ肉を引き裂くための歯は他のイヌ科のものより少なく、逆に植物をすりつぶすための臼歯が大きくなっています。彼らが主に食べるものには、動物性のも
のでは昆虫や軟体動物、小型のげっ歯類、両生類、ヘビやトカゲなどのハ虫類、鳥やそれらの卵など、植物性のものには植物の茎や根っこ、葉っぱ、木の樹皮、
果実や木の実などがあり、非常に幅広い種類の食べ物を食べていることがわかります。
これらの食性は棲んでいる地域によっても変化し、海岸近くに棲むタヌキはカニやウニ、その他浜辺に打ち上げられた海の生き物の死体も食べています。彼
らは魚を取るのも上手で、池や川などでは曲がった爪のついた前足を使って水中から魚をすくい出すようにして捕まえることが出来ます。また人間の居る地域に
棲んでいるタヌキは主に捨てられた生ゴミなどを漁ることで生活しています。
タヌキはイヌの仲間の中ではあまり眼が良くなく、餌をとるときには主に嗅覚に頼って獲物を探します。またイヌの仲間では珍しく木に登ることができます。ま
た
イヌやオオカミなど他のイヌ科のメンバーはよく吠えることが知られていますが、その中でタヌキは吠え声を上げることは全くありません。しかし全く鳴かない
というわけでなく、親しい仲間と一緒にいる時はクンクンやミャーミャーといった鳴き声を出し、逆に驚いたり敵に出会ったりするとうなり声を上げることもあ
ります。
タヌキは
なわばりを持つ動物で
あり、その大きさは0.26〜20平方キロメートルと幅広く
変化します。また縄張りの大きさは地域によっても変化し、日本
のものはヨーロッパのタヌキよりも狭い地域に多くのタヌキが暮らしているとされています。
彼らはこの縄張りの中で食べ物を探しあるきますが、その途中にいくつかのきまった場所で糞をすることが知られています。このため彼らの棲んでいるところに
は一か所に糞が集められているのがよく見られ、
「ため糞」と呼ばれています。
ため糞の山の大きさは時に直径50cm、高さ20cmにもなります。彼らは
このため糞を使って他の仲間に自分の存在
を知らせ、また逆に周辺に何匹
のタヌキが居るのかを認識しているといわれています。
かつてタヌキは夜行性であるといわれていましたが、近年の研究で昼間や夕方にもかなり行動していることが明らかになってきました。また冬になると
冬眠しますが、これは
イヌの仲間ではほぼ唯一の例と
いっていものです。しかし餌の少ない地域では冬でも気温の戦い日は外に出て餌を探し、また暖かい地域に棲むものは完全に冬眠を行いません。
冬眠前のタヌキは多くの餌を食べて脂肪を
蓄え、体重が50%程度増加します。
このように見た目や行動など数多くの点で他のイヌ科の仲間とは異なる点をもつタヌキですが、その違いは遺伝子レベルでもみられ、
染色体の数はイヌよりネコのものに近く
なっています。これらのことから
遺伝学や分類学において、彼らの位置づけ
はまだはっきりし無い部分が多く、かなり特殊な存在として知られています。ちなみにタヌキ達はいくつかの亜種に分類され、日本に棲むものも
含め世界で
5〜7種類の亜種が
いるといわれています。
タヌキは
基本的に単独で生活する動物で
すが、
毎年1〜3月頃に繁殖期
をむかえるとオスとメス
が夫婦となり、その後は2匹一緒に行動するようになります。タ
ヌキはあまり攻撃的な性格はしていないことから、自分たちのなわばりに他のタヌキたちが入ってきても互いを避けるだけで争うことなく、メスをめぐったオス
同士の戦いもほとんどありません。
タヌキのメスの
妊娠期間はおよ
そ2か月で、
オスのタヌキはその間ずっとメスのそばに
付き添い、さらに子供が産まれた後もメスのもとへと餌を運んで子育てを
手伝います。また逆にメスが食べ物を探しに行っている間に子供の面倒をみることもあります。一度の出産で生まれるタヌキの子供の数には一般
には
5〜7匹で
すが、かなり幅があり1
匹だけの時もあれば、多い時には
19
匹もの子供が産まれてきた例も知られています。産まれたばかりのタヌキの子供は真っ黒な毛皮に覆われいて、目も開いて
おらず、体重は60〜115gです。
タヌキの子供たちは生後8週間程で乳離れし、固形の食べ物を食べるようになります。子ダヌキの成長はとても早く、3か月ほどで大人と変わらない大きさにな
ります 。またこの時期になると狩りは家族で行われるようになり、子ダヌキは親の
狩りを見ることで、狩りの方法を覚え、自分で生きる力を蓄えます。そして生後1年がたつと子供たちは大人になり、親の元を離れて一人で暮らすようになりま
す。
野生における
タヌキの寿命は6〜8年ぐらいであるといわれ
ており、飼育下のものでは
最大14
年も生きた個体が知られています。
イヌ科の仲間といっても体はそれほど大きくないタヌキには数多くの天敵があり、オオカミやオオヤマネコ、クズリ、テン、イヌワシ、
オオ
ワシ、ワシミミズク
そしてイヌなどに襲われます。そして多くの場合、タヌキ達は追いつめられると
死んだふりをして敵をやり過ご
そうとします。
タヌキは特に日本において人間になじみ深い生き物であり、北海道から本州全域に分布しています。この中で
北海道のものは本州以南のものと異なる亜
種である
とされ、北海道に棲むタヌキはエゾダヌキ、本州などに棲むも
のはホンドダヌキと呼ばれています。特徴とし
てエゾダヌキのほうがホンドダヌキより毛皮が長
く、足の長さも長いといわれています。
彼らは古くから数多くの民話などに登場し、
かちかち山や
文福茶釜などが有名です。これ
らのタヌキにまつわる伝承は日本各地に残されていますが、なぜか特に
四国に多く見られます。またタ
ヌキといえば「死んだふり」をするのが有名ですが、これは猟師がタヌキを鉄砲で撃った時に、驚いたタヌキが弾が外れたにもか
かわらず気を失ってしまって捕まり、その後息を吹き返して逃げ出した例がもとになっているといわれています。実際に彼らは臆病で、少しのもの音にも敏感で
あり、また天敵に襲われたときにも死んだふりをすることが多くあることから、このような話が産まれたのではないかと考えられます。
一方でずっと昔から知られていたにもかかわらず、
彼らは他の動物と混同されることがよくあ
り、特にアナグマやテン、イタチなどと一緒にされることが多いよ
うです。地域によってはタヌキとアナグマ両方を
「ムジナ」と呼ぶところもあ
り、栃木県の一部ではタヌキのことをムジナ、アナグマことをタヌキと呼んでいる
そうです。これらの混同は昔の文献などにもよく見られ、タヌキやムジナと書かれていても、それが本当に現在のタヌキのことであるかどうか注意する必要があ
り
ます。
タヌキの毛皮
は日本では古くから防寒具や筆の毛先として使われており、世界的にも多くの需要があります。例えば中国では一年で
100万頭ものタヌキから毛
皮がとられており、ロシアで生産される毛皮のうちの
20%はタヌキのものです。こ
のような毛皮の需要から、これまで世界各地に数多くのタヌキが運び込ま
れ、そこで毛皮を取るために養殖されてきたのですが、これとともに彼らが病原菌を持ち込んでその地域の動物たちに悪影響を及ぼすことが心配されています。
ま
た運び込まれた先の地域に棲んでいる様々な種類の小動物も食べてしまうため、タヌキがあまりに繁殖しすぎた地域ではこれらを防ぐために駆除されることもあ
るようです。世界中に生息地を広げている彼らですが、
一方でこれらの理由によって
中
国の一部では絶滅してしまった例もあります。
また人里近くに現れることが多い彼らは交通事故に巻き込まれることがよくあり、
日本でも高速道路で事故死する動物の40%がタヌキであるといわれており、
交通事故で死ぬ動物の中では最多となっています。
かつてタヌキの皮は金細工の際に、金をはさんで上からたたき、金箔をつくるのに多く用いられました。信楽焼などの置物に見られるタヌキが大きな玉袋を持っ
ているのはこれに由来し、このためタ
ヌキには金工や金細工のシンボルとしての側面もあります。このた
め彼らは金の精霊と呼んでもよい存在で、かつて金工師た
ちは炉の中にタヌキの死体をつりさげて成功を祈願したそうです。
またいくつかの地域ではタヌキは
食
用として用いられており、日本でもかつては
「タヌキ汁」として食べられた
という記録が数多く見られます。しかし
タヌ
キの肉はとても臭みが強いそうで、食べる際にはワラにくるんで一週間ほど土に埋め、2時間ほど流水にさらした後に、ショウガやニンニクなど
の薬味を使った
り、みそ鍋にしたりして臭いを消さないと食べることは難しいそうです。過去の文献などにはよくこのタヌキ汁が出てきますが、美味しかったといわれているも
のは、実際にはタヌキの肉を使ったものでなく、アナグマを鍋にしたものの間違いがほとんどであると考えられており、ここでもタヌキとアナグマの混同が問題
となるようです。
執筆:2008年3月17日
[画像撮影場所] 多摩動物公園
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