オーストラリアを代表するラブリーキュートアニマルといえば、みなさんおなじみの
コアラさん
です。彼らは
オーストラリア大
陸の主に北東部から東部、南部にかけての沿岸地域の森に棲んでいて、大陸の西半分には全く見られません。
コアラの全身はふわふわとした長い毛が生えた分厚い毛皮で覆われていて、灰色から茶色い色をしています。一方顎や胸、前足の上側の色は明るくなっており、
白っぽい色をしています。コアラは顔に比べてかなり大きな耳を持っていますが、実際にはふさふさとした毛でおおわれているために大きく見えるだけで、
本当の耳は見た目よりもずっと小さいそうです。またこの耳の中には白い毛が生えています。また顔で最も目立つのがその大きな黒い鼻で、この鼻のおかげで彼
らは
とても愛きょうのある顔つきになっています。
コアラには大きく分けて3種類の亜種がいると言われていますが、はっきりと学界で認められているわけではありません。一般に
高緯度である南にいるものほど
大きくなる傾向があり、オーストラリア南部のコアラはオスで体長78cm、体重11.8kg、メスで体長72cm、体重7.9kgに達します。これに対し
北部地域のもの
はオスのコアラで体重6.5kg、メスで5.1kgにしかならず、南部のものよりも2回りほど小さくなっ
ています。またこれからもわかるとおり、一般にコ
アラはオスのほうがメスよりも大きくなります。
コアラの手足にはそれぞれ5本の指が付いており、その全部に鋭い爪が備わっています。彼らはこの爪を使って木に登ることができ、さらに前足の親指と人差し
指の2本の指は他の指と向かい合う形で付いているため、細い枝や葉っぱなども器用につかむことが出来ます。またコアラは人間のように、指に
指紋を持つ非常に珍しい動物の
一つであり、
サルの仲間以外で
はほとんどこのような例は知られていません。これも枝をつかんで行動することが多いため、滑らないように進化した結果だと言われています
が、
その指紋は人間のものにと
ても似ていて、電子顕微鏡で見てもその構造はほぼ同じだそうです。
ちなみにおとなしいイメージがあり、オーストラリアに行くと観光客が抱っこするイベントもよく行われているコアラですが、実は機嫌が悪かったり、恐怖を感
じると爪でひっかいたり、噛みついてきたりするような一面も持っています。特に鋭い爪の一撃はかなり強力で、相手が人間でもかなり大きな傷を負わせるぐら
いの威力があるそうです。このため現地ではコアラを扱う人はきちんとした訓練を受ける必要があるそうです。
コアラは
有袋類と呼
ばれる動物の仲間で、
メスのお
腹には子育て用の袋が付いており、またその顔
がクマに似ていることから、かつては
「コ
モリグマ」や
「フク
ログマ」という名前で呼ばれて
いたそうです。英語でも同様に
「Monkey
Bear(サルのようなクマ)」とか
「Tree
Bear(木の上のクマ)」と呼ばれていたことがあるそうです。
ところで日本のプロ野球チームの一つ、中日ドラゴンズのマスコットキャラ
「ドアラ」はコアラをモチーフにしています。
「なぜドラゴンズなのにコアラな
の?」と思われる人もいるかもしれませんが、実は球団のある名古屋市はコアラととても関係が深く、オーストラリアのシドニーと姉妹都市の関
係にあり、名古屋市にある
東山動物園では多摩動物園、平川動物園と並んで日本で初めてコアラの飼
育が開始された歴史を持っています。このため市民の間ではコアラの人気が非常に高く、それによってドアラが産みだされたそうです。(ちなみ
にオーストラリアからコアラが日本に贈られたとき、そのお返しとして日本からは
オ
オサンショウウオが贈られました。)
コアラの食性は非常にユニークで、
主に350種類ほどあるユーカリの葉とご
く一部のユーカリ以外の植物しか食べません。またそれぞれのコアラは自分の食べ物に
対して大変こだわりがあり、それぞれの個体は同じユーカリの中でも自分で決めた20種類ほどしか口にせず、その中でも5種類ほどを特に好んで食べる傾向が
あります。いったい彼らがどのようにして自分の食べるユーカリを決定しているのか、それについてはまだよく分かっていません。
またユーカリの葉はコアラ以外の動物に食べられることはほとんどありません。というのも
ユーカリの葉には毒となる成分が含まれて
おり、また逆に葉に含まれ
るタンパク質などの栄養分が少ないため、他の動物にとってユーカリはあまり良い食べ物とは言えないのです。しかしながら
コアラは自分たちの体をユーカリ食
に適応させることで、逆に他の動物が食べないユーカリを食べて生き延びてきました。
まず彼らの
臼歯は非
常に力強い構造をしており、これを使って固いユーカリの葉を粉々にすりつぶすことが出来ます。これによりコアラは栄養価の少ないユーカ
リの葉から、出来るだけ多くの栄養分を得ることが出来ます。また彼らは
自らの体長の4倍に匹敵する、2mもあるホ乳類の仲間では最も長い盲腸を持っており、その中に膨大な数のバ
クテリアを飼っています。そしてコアラは
このバクテリアの力を借りて、長い腸の中
で毒素を無効化し、繊維質の多いユーカリの葉を消化することで、そこから生
活に必要な栄養分を得ることが出来ます。
とは言っても、もともとのユーカリの持つ栄養分が少ないため、コアラは起きている間中食事をする必要があり、
一日に500gもの食料を必要とします。そし
てそれ以外の時間はできる限りエネルギーを使わないように心掛けており、
一日のほとんど(18〜20時間)を木の上でじっとするか寝て過ごします。
動物園
に行ってコアラを見ようとしてもほとんど寝ているのはこのためで、また主な活動時間が夜間であることも起きているコアラに会う機会を少なくしていると言え
ます。
コアラは生きるのに必要な水をほとんどユーカリの葉に含まれる水分から得ています。このため地面に降りて、液体の水を飲むことはほとんどありません。ちな
みにコアラという名前はもともとオーストラリアの先住民であるアボリジニーの言葉に由来するそうなのですが、一般には「水を飲まないもの」という意味があ
り、このようなコアラの性質に基づくものだとよく言われています。しかし実際にはこれはどうも誤りで、コアラの名の本当の意味はよく分かっていないようで
す。
それぞれのコアラはなわばりを持ち普段の生活は主にその中で行われます。縄張りの大きさはオスのコアラで15000〜30000平方メートル、メスのコア
ラで5000〜10000平方メートルぐらいで、オスとメスのコアラのなわばりは重なり合い、オスは自分のなわばりの中にいるメスと交尾を行います。また
ほとんどの場合複数で行動することはなく、一本のユーカリの木の上には、一度に一匹しか上りません。
コアラのメスのおなかには後ろ向きに子育て用の袋が付いていて、
産まれた子供は最初の半年ほどこの袋の中
で育てられます。コ
アラの繁殖期は南半球の夏にあたる
10〜2
月ごろで、この時期になるとオスのコアラは大きく太い声を出して、周辺のメスにアピールします。
メスのコアラは
一年に一度子供を産み、妊娠期間は25〜35日となっていま
す。一度に産まれてくる子供の数はほとんどの場合
一匹だけですが、ごく少数です
が双子が産まれた例も知ら
れています。
産まれたばかりのコアラの子供はとても小さく、
その体重は0.5gしかありません。また毛も生えておらず、
目も開いていませんが、
産まれ
るとすぐに母親の袋の中へと
潜り込み、袋の中に2つある乳首のうちの1つにしがみつき、そのまま母乳を飲んで育ちます。そして半年ほどすると袋の中から外にで出てき
て、さらに半年ほ
ど母親の背中に背負われて生活します。
外に出て来たばかりの子供は母乳の他に、
母親の排せつ物を食べて育てられます。この排泄物はかつては母
親の糞ではないかと考えられていたのですが、実際は
母親の盲腸の中で半分消化されたユーカリの葉であり、子供コアラはこれを食べることで
ユーカリを消化するためのバクテリアを受
け継ぎ、固形の食べ物も食べ
ること
が出来るようになります。
こうして
生後11か月ぐらいになると子供は親から独立して、一人で生活していく
ようになります。とはいっても数か月ほどは母親のすぐ近くで過ごし、その後
完全に一人立ちします。コアラは
オスで4歳、メスで2歳頃になると繁殖が出来るようになり、野生での寿命は10年ほどです。動物園などで飼われているものはもう
少し長生きする傾向にあり、
20年以上生きたものも知られているそうです。
現在コアラの仲間は一種類しかいませんが、化石などによるとかつては他にも近縁な仲間が数種類いたことが分かっています。その中でも
5万年前にオーストラリア南部に生息して
いたコアラは現在のものよりも大型で、平均体重が13kgぐらいあ
り、その名も「ジャイアントコアラ」と呼ばれています。
20世紀初め頃、コアラの
分厚い毛
皮を求めて大規模な狩りが行われていた時期があり、
それによって何百万頭というコアラが殺され、一時は絶滅寸前にまで追いやられる事態になってしまいました。
しかし
1927年以降オースト
ラリア政府によって厳重に保護されるようになり、現在ではその数もかなり回復していて、政府の調査によるとコアラの生息数は数十万頭ぐらいであると報告されています。ですが近年は
都市開発による環境の悪化が新たな脅威となっていると言われており、まだまだ完全に安心できる状態にはありません。
またその一方で、コアラが大繁殖し、問題となるケースもあります。例えばオーストラリアのカンガルー島という島にはかつてコアラは一匹も棲んで居ませんで
した。しかし90年ほど前に人間の手によって、本土から何匹かのコアラが持ち込まれたのですが、それが90年の間に大繁殖し、島にあるユーカリの木をほと
んど食べつくしてしまいました。これによってコアラ達が島の生態系に大きな影響を与え、逆に他の動物を島から絶滅させてしまう事態にまで発展してしまった
そうです。このようにコアラが増えすぎてしまった場合に対して、オーストラリア政府は何度か過剰に増えたコアラの駆除を検討しているそうなのですが、可愛
いコアラを殺すことには反対意見も多くなかなか実行には移せないのが実情のようです。
このようにコアラの保護には色々と難しい問題があり、現在もどのようにすれば最も適切な保護が達成されるのか、オーストラリア各地では様々な研究が行われ
ています。
執筆:2008年4月12日
[画像撮影場所] 多摩動物公園
|