キリンは身体が大きく、警戒心が強いため、大人になると他の動物に襲われることはあまりありません。また彼らは背が高いため、肉食動物が周りに潜んでい
て
も、いち早く見つけることができ、キリンが逃げだすと他の草食動物たちもそれに従ってその場から逃げようとします。キリンは大変足の速い動
物で時速
32〜60kmもの速度で、かなり長い距離を走ることができます。しかし脚が長いため加速はそれほど速くありません。また普段歩くときの彼
らは、ラクダと
同じように体の左右片側にある前足と後ろ脚を同時に踏み出す「側帯歩」と呼ばれる歩き方を
します。
キリンの主な天敵はライオンで、
そのほかにヒョウやハイエナなども彼らを襲うことがあります。襲われるのは幼いキリンや病気のもの、年老いたものです。特
に大人のキリンは前足のパワーがとてつもなく、相手がライオンであっても彼らの蹴りがまともに入ると頭がい骨を割られたり、背骨を折られたりします。した
がって肉食動物たちにとって、キリンを狩ることは命がけであり、そうやすやすと手出しすることはできません。
一方でキリンが無防備になるときの一つに水を飲むときが挙げられます。この時水中にいる大型のワニに水を飲みにきたキリンが襲われることもあるようです。
キリンは
普段リーダーであるオスを頂点
とした2〜10頭ぐらいの群れで行動しています。
普段群れの中の個体達はばらばらに過ごしていますが、危険が差し迫ると一か
所に集まります。この群れはあまり厳密なものでなく、他の群れなどとの間にメンバーの出入り
が頻繁に行われます。また時には70頭もの大群になることもあるそうです。そしてさらに特にオスのキリンの場合は成熟すると群れを離れ、若いオス同士で作
られる群
れの中で生活します。
キリンのオス達はしばしばメスのキリンと交尾を行うための優先順位をつけるため、「ネッキング
」と呼ばれるその大きな首を使った決闘を行うことがあります。
このとき最初、オスのキリン達は首を水平にしながらもう一方と並んで歩きます。そして相手の体に首をものすごい勢いで横からたたきつけ、尻や横腹、相手の
首などに攻撃を行います。このときの威力は大変なもので、これにより相手のキリンが傷ついたり、叩きのめされることもあります。
オスのキ
リンはメスのキリンの尿の臭いをかぐことで、そのメスが発情
期にあるかどうかを知ることができると言われています。この時オスは上唇をひっくり返した、し
かめっ面のような表情をし、このような行動を「フレーメン反応」といいま
す。メスが
発情期にあることがわかると、オスはメスのお尻に頭をこすりつけたり、背中の上
に乗せたり、メスの尻尾を舐めたり、自分の前足を上げるといった求愛
行動を取ります。そしてメスがオスを気に入れば交尾が行われます。
キリンの妊娠期間は非常に長
く、平均して交尾後約450日ぐらいで子供が産まれます。
キリンの出産シーズンは大体5〜8月で、アフリカでは雨の少ない乾季
の間に行われます。危険の多いサバンナではメスが横たわって子供を産むことは肉食獣の標的にされやすいため、出産は立ったまま行われ、子供は2mぐら
いの
高さから直接地面になかば落下するような形で産みおとされます(キリンの子供も大変ですねぇ)。しかし、産まれてきた子供はすぐに立ち上がること
ができ、
15分後には歩き回ってお母さんのお乳を飲むようになります。産まれたときのキリンの子供の大きさは身長が1.8m、体重は70kgぐらいありま
す。キリ
ンは大体一回につ
き一頭の子供を産みますが、まれに双子が産まれることもあるようです。
ちなみにキリンの子供は他のホ乳類とは少し変わった方法で生まれてきます。と言うのは他の動物のように頭から先に出てきてしまうと、落下したときに頭が地
面に衝突し、さらに長い首の先端に全体重がかかってしまい、最悪の場合首が折れて死んでしまいます。また逆にお尻から先に産まれても、首がまだ母親の体の
中に入っていると、やはり首に胴体の重さがかかるため、首をつった状態になってしまい大変危険です。
そこでキリンの子供は産まれてくる時に、首を折り曲げて、頭をお尻にくっつけるような形で生まれてきます。これによって首にかかる重さを最小限にすること
ができ、また地面に落下するときにお尻がクッションになることで、頭をぶつけてけがをすることもなくなるというわけです。また産まれてくるときに、少しで
も邪魔にならないようにするためか、キリンの子供の首は大人のものより胴体に比べて短く、成長するにつれてだんだん長くなっていきます。
最初のうち、メスは産まれてきた子供をあまり群れに近づけようとせず、一週間ぐらい子供のキリンは一日中同じところでじっと隠れ続けます。母親は常に子供
のそばにいて、25m以上離れることはほとんどありません。そして母乳を与えるなど、子供の世話を熱心に行います。
3〜4週間ぐらいすると、メスは子供を群れに加わらせます。群れの中には「クレイシ」という人間の保育
所に似たグループがあり、子供達は皆ここに集めら
れ、群れの大人たちが代わる代わる世話をします。そして母キリンは子供に餌を与えるときなどにクレイシに帰って来て、我が子の面倒をみます。
キリンの子供はオスで生後12〜14か月、メスの場合だと12〜16か月ぐらいまでお母さんから母乳をもらって育ちます。その後メスのキリンは大きくなっ
ても、自分の生まれた群れの中に留まろうとしますが、オスは群れから出て若いオスだけの群れに加わり、自分がリーダーとなる群れを探し続けます。
オスは
4〜5歳、メスのキリンは3〜4歳で大人の体になり、それぞれ7歳と4〜5歳ぐらいになると繁殖を行うようになります。キリンが大人になる確率は大体
25〜50%ぐらいで、半分以上は子供のころに死んでしまいます。
キリンの寿命
は野生のものだ
と大体10〜15年ぐらいで、飼育下のものだと平均25年ぐ
らい生き、最高で27歳ぐらいまで生きたケースが知られてい
ます。
牙を持つゾウやサイと違ってキリンが大規模な狩りの対象となることは比較的少ないものとなっています。しかし、一部ではキリンを食用として捕まえたり、美
しい模様が描かれた皮を馬を乗る時に使う皮紐や、楽器などの装飾に用いられており、そのために多くのキリンが狩られていた地
域もあります。また他の野生
動物たちと同じように、農地の開拓や都市開発などにより、彼らの生息地の環境が急速に変化したため、数を減らしているという事例もあります。これによりア
フリカ大陸の東や南の地域では比較的キリンの生息数は一定しているものの、西の方では生息数がかなり減少しており、危機的な状態になっています。
現在キリンの全生息数はおよそ11万頭から15万頭であると言われており、その中でも特にケニア
(4万5000頭)やタンザニア(3万頭)、ボツアナ(1
万2000頭)などに分布しています。東アフリカや南アフリカで彼らの生息数が一定している理由の一つに、国立公園や保護区が確立しているこ
とが挙げられ
ます。
比較的アフリカに近い、ヨーロッパではキリンと人間の出会いの歴史は深く、なんと古代ギリシャ時代にまでさかのぼることが出来るというこ
とです。さらに時
代が新しくなり、大航海時代を迎えるとキリンはアジア地域にも持ち込まれるようになります。中国へは明の時代の1414年に鄭和(ていわ)という役人によって持ち込
まれています。彼は役人とはいっても、当時の中国を代表する航海者で、この時は船の床に穴を開けてそこからキリンの首だ
けを出して運んできたということで
す。
日本にキリン
がやってきたのはもっと遅く、20世紀に入ってからの
ことで、1907年3月15日
にドイツから横浜港に運ばれ、さらに上野動物園へと移され
ました。残念ながらこの2頭はその翌年死亡してしまったのですが、その次にキリンが持ち込まれた1933年にやってきた新たな2頭のキリン
は、4年後の1937年に日本国内で初めて繁殖に成功したことが記録に残っています。
執筆:2007年12月
24日(最新改訂2008年5月14日)
[画像撮影場所]
東山動植物園
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多摩動物公園
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