自然界においてジャイアントパンダには天
敵となる動物はおらず、他の動物に襲われることはほ
とんどありません。しかしかつては
トラのような動物が彼らを襲って食べていたと言われており、
彼らの白黒の模様は周りの景色に溶け込ん
で外敵の目から逃れ
るためのカモフラージュの役割を果たしていたと考えられています。また毛皮に白い部分が多くあるのは、彼らが昔雪深い地域に棲んでいた名残
である可能性も
あります。
長い間ジャイアントパンダには一種類しかいないと言われてきましたが、
2005年に彼らには二種類の亜種がいると言う報告がされました。それによる
と彼
らには
四川(シセン)省を中心とした地域に棲むものと陝西(センセイ)省・秦嶺(シンレイ)山脈に分布するものの二つのグ
ループがあり、見た目に若干の違いがあります。
前者の四川省などに棲
むものはよく知られている黒と白のはっきりとした模様を持っ
ていますが、後者の秦嶺山脈にすむ亜種は体全体が茶色みを帯びていて、比較
的小さな頭骨と大き
な臼歯を持っています。これらの亜種は見た目だけでなく遺伝子レベルでも違いがあり、確かに生物学的に別の亜種であると確か
められています。
彼らは生活の時間のほとんどを単独で過ごし、これまで他のパンダと交流するのは繁殖期にあるオスとメスのペアだけであると考えられてきました。しかし、最
近の研究によるとジャイアントパンダ達は大きななわばりを数匹から成る群れで共有し、時々繁殖期以外に他のメンバーと接触することがあることが明らかにさ
れました。
ジャイアントパンダ
は
古代中国の時代から希少で高
貴な動物であると考えられ、特別な扱いを受けてきました。例えば漢王朝ではある皇帝の母親の墓の中にジャイアントパンダの頭
の骨が一緒に埋葬されており、また
唐王朝の太宗帝は日本に友好の証として2頭のパンダと、パンダの皮の敷物を送ったと言われてい
ます(
これが本当であれ
ば、この時の2頭が初めて日本に来たジャイアントパンダとなります)。
ジャイアント
パンダの存在が西欧諸国で初めて明らかになったのは1869年の
ことで、フランス人宣教師の
アーマンド・デビッドと言う人
が
その年の3月11
日に現地のハンターからパンダの毛皮を受け取ったのが初めです。その後1916年にドイツ人の動物学者によって生きたパンダの存在が確認さ
れ、
1936年に初めてシカゴのブルックフィールド動物園に海を越えて一匹のジャイアントパン
ダが運ばれました。これによって発見から60年の時を経て、ようやく西洋でも一般の
人々がパンダを目にすることが出来るようになったというわけです。しかしその後1937年からは戦争の影響により、パンダの取引は中止され、半世紀もの間
西欧諸国にとってそれ以上パンダの生態を知ることはできませんでした。
時代が流れて
1970年代に入
ると中華人民共和国はアメリカや日本と盛んに外交を行うようになり、その中でジャイアントパンダが友好の証として両国の動物
園に送られました。
この時日本には二頭のジャイアントパンダ(カンカンとランラン)が上野動物園に来日し、日本中にパンダブームが巻き起こりました。この
ような中国のパンダを外交の一手段としてもちいるスタイルは
「パンダ外交」とも呼ばれまし
た。
しかし現在は外交でパンダが送られることはほとんどなく、
基本的には10年間のレンタルで海外の動物園などに貸し出すスタイルがとられてい
ます。従って送
られるパンダはみんな中国籍であり、またレンタルするときの条件として、レンタル期間中に産まれてくる子供の国籍もすべて中国にすることが定められていま
す。またレンタル料も
一年間で一億
円以上とこちらもスーパースターらしく破格のお値段となっていますが、ジャイアントパンダの居る動物園に彼らを見にくる
お客さんの数を考えると決して高くはないのかもしれません??
ちなみにパンダが食べる笹は実はかなりお高い食べ物で、このため
彼らは動物園の中で飼育するときに一番お
金がかかる動物となっています。大飯ぐらいのゾウ
さんが第2位にランクインするのは納得なのですが、
ジャイアントパンダはなんとその5倍もの飼育費がかかるというから驚きです。
ジャイアントパンダはもともとそれほど数が多い動物ではなかったのですが、
現在彼らの生息地が農地開発や森林伐採に
よって破壊され、それにともなってパン
ダの生息数も極端に少なくなってしまっています。特に1973〜1984年までのわずか10年ほどの間に、野生のパンダの数は半分程度にま
で減少してし
まったと言われています。これにより以前はもうすでに野生のジャイアントパンダは1000頭ぐらいしか生き残っておらず、壊滅的な状態にあるのではないか
といわれていましたが、DNAを使った新しい研究方法によると
現在はそれより少し多い3000頭余りが生息しているのではないかといわれてい
ます。
しかし、それを考慮しても彼らの置かれた状況は決して楽観視できるものでなく、世界自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは彼らは絶滅の危険性が高い
「絶滅危機」とよばれるランク
に分類されています。
現在中国
国内では各地に40もの保護区が作られ、世界中の動物園で繁殖が試みられています。また
四川省
におけるジャイアントパンダの保護区はユネスコの世界遺産に
も指定されました。
最初中国国内におけるジャイアントパンダの保護活動は、彼らの生態がよく分かっていなかったため、中々成果が上がりませんでしたが、1990年以降保護の
方法が徐々に確立され、
現在で
は少しずつ野生のパンダの生息数は増加しているといわれています。また現在
中国国内では240匹ぐらいのパンダが動物園など
で飼育され、世界各地のジャイアントパンダを飼育している動物園でも幾度となく繁殖が試みられてきましたが、思ったように上手くいかないの
が現状となって
います。というのも
飼育下のパ
ンダは野生のものと比べて繁殖行動を行う回数が極めて少なく、子供を産みにくいというのです。この理由についてはまだよく分
かっていませんが、一説には繁殖のときのマーキングが飼育下では行われなかったり、また飼育されたパンダは交尾の方法がよく分からないのではないかとも言
わ
れています。
一方で
中国国内ではその毛皮を求めて、ジャイアントパンダの密猟が後を絶たない状況が続いています。彼らの毛皮は裏
マーケットで取引され、香港や日本などで需要
が大きく、一説には
日本円で2000万円以上の値が付くと言われています。
また一部の地域では彼らの毛皮で作った寝具は魔除けになると信じられており、ま
た夢を通して未来を予知できるともいわれていることから、高い需要があるそうです。
この状況を受けて
中国政府はパ
ンダの密猟を防ぐための様々な法律を制定しており、
それを破ったには場合重い刑罰が与えられ、最悪の場合死刑になるケースも
あります。その一方で地域住民にジャイアントパンダの保護を呼び掛ける教育プログラムを行っており、これによって地域ぐるみでパンダの保護が行われるよう
に期待がもたれています。
また
ジャイアントパンダの食べ
る笹には、数十年に一度同じ種類の笹が一斉に花を付けてその後すべて枯れてしまうという習性があります。このためもしそれぞ
れのパンダの棲んでいる地域に一種類しか笹が生えていないと、ある時一気に食べ物が無くなってしまい、餓死してしまう危険性があります。このためパンダを
長期的に
守るには一か所に複数の種類の竹を植える必要があるといわれています。
パンダは中国にとって大変重要な動物で、数多くの記念硬貨にもその姿が描かれています。世界中にファンも多い彼らだけに、なんとか保護活動が成功して、そ
の愛くるしい姿を見せ続けてほしいものです。
執筆:2008年1月1日(最
新改訂2008年9月14日)
[画像撮影場所] 恩賜上野動物園