ずんぐりとした体と、小さな目、大きなお鼻をした
ヒメウォンバットはオーストラ
リア大陸の東部とタスマニア島、そしてバス海峡と呼ばれる海峡にあるフリン
ダーズ島に住んでいる草食動物です。彼らは主に沿岸部などの、湿度が高い草原や皮のそばの斜面、ユーカリ林などによく見られます。
オーストラリアにはカンガルーや
コ
アラのようにおなかに子育て用の袋を持った
『有袋類』と呼ばれる古いタイ
プのホ乳類が数多く住んでいますが、
ヒメウォン
バットもそのうちの一つです。しかし他の有袋類と異なり
ヒメウォンバットの袋は後ろ向きに入り口が付いているのが特徴です。
ヒメウォンバットの
体長は
70〜120cmほどで、
体重は15〜35kgぐらいあ
り、非常にがっしりとした体つきをしています。その分足はとても短く、しっぽもとても小さいものが申し訳程度に付いているだけです。
彼らの全身はざらざらとした荒い毛皮で覆われており、その色は淡い黄色から、灰色、焦げ茶色、黒と個体によって様々です。
また彼らの一番の特徴と言えばやはりその
大きな鼻ですが、そもそもウォ
ンバットという名前にはアボリジニーの言葉で
『平たい鼻』という意味がある
そうで
す。(名が体を表す典型的な例ですねぇ…。)
草食動物である彼らの主な食べ物は木や草の根のほか、スゲ、イグサ、キノコなどです。彼らは前足を使ってこれらの餌を掘り起こすことができ、さらにはその
餌をつかんだ
り、木の皮をはいだりすることも可能です。また前歯は堅い繊維質の餌でも噛み砕くことが出来るように、まるでのみのように鋭くとがった構造をしています。
この前歯は放っておくと一生伸び続けてしまうため、堅い木の皮などをかじって適切な長さにすり減らしておく必要があります。
ヒメウォンバットは基本的に
夜行性の
動物であり、夜になると巣穴から外へと出てきます。ですが寒い冬の日などには日中でも外に出てきてひなたぼっこをする
こともあります。
繁殖期以外の彼らは基本的には
単独
行動性であり、一匹で生活をします。彼らはその鋭い爪を使って大小様々な
巣穴を地面に掘ります。この中
で2m程度までの
小型の巣穴は主に避難用のもので、敵に襲われたときなどに逃げ込むために使われます。またこの時相手の攻撃範囲外へと逃げられないときは、堅くて丈夫なお
尻を敵の方に向けて身を守ることがあります。一方で彼らが普段寝床とする巣穴はかなり大きくて複雑なものになり、
その中は複数の部屋に分かれています。大きな巣になると
全長が200mにも及ぶものが
あるというから驚きです。
それぞれの巣
穴の中には一匹のヒメウォンバットがいるのが普通で、通常は他の個体の巣穴とは完全に隔離されているものと考えられてきました。しかし最近
の
研究によって、他のヒメウォンバットの巣穴を別のウォンバットが訪ねることが頻繁に起こることが明らかになり、思ったよりも彼らは社会的な生活をしている
ことが分かってきました。一方で彼らは餌場を中心とするなわばりを持っており、マーキングすることで自分のなわばりであると主張します。また他のヒメウォ
ンバットがなわばりに入ってくると鳴き声を出して警告し、それでも立ち去らない場合には直接攻撃してなわばりを守ろうとします。飼育下などでも同じ檻の中
で2匹以上のヒメウォンバットを一緒に飼うと、互いに攻撃し傷つけ合う傾向にあるようです。
毎年秋頃になると彼らは繁殖期を迎え、
メスは交尾後20日ぐらいで1匹の子供を産みます。この頃の子
供のウォンバットは妊娠期間の短さから、ホ乳類の中で
かなり未発達な状態で産まれてきます。しかしその後の6〜7か月はお母さんの袋の中で育てられ、体重が3.5〜6.5kgほどになると、ようやく袋の外へ
と出てくるようなります。この間出産や子育ては主に枯れ葉や落ち葉が敷き詰められた育児室と呼ばれる部屋の中で行われます。その後さらに3か月もする
と完全に袋の外で生活するようになり、生後15か月程度で独り立ちを迎えます。そして
2歳になると繁殖が出来るよう
になり、その後はおよそ2年ごとに繁殖
を行います。ヒメウォンバットの子供は1匹が基本ですが、まれに双子が産まれることもあるようです。
野生におけるヒメウォンバットの
平
均寿命は5年ほどですが、飼育下ではより長生きする傾向にあり、これまで最も長生きしたものでは
26歳1か月という記録
が残されています。
ヒメウォンバットにはあまり天敵となる動物はいませんが、野生のイヌである
ディンゴが彼らを定期的に襲っ
て捕食していることが知られています。その他
乾期
における食糧不足や皮膚病の蔓延、自動車との交通事故などがヒメウォンバットの主な死因であると言われています。
ところで動物園では人気者の彼らですが、地元の農民には大変嫌われています。特にヒメウォンバットの掘る巣穴の入り口はウマなどの家畜が足をつまづかせて
転倒することが多く、それによってケガをしたり、場合によっては骨折して安楽死せざるを得ない状況になることがあります。また彼らがウサギよけの防護策の
下を通るように巣を作ることで、ウサギたちが自由に行き来して農地をあらすもととなることも多くあります。このためヴィクトリア州などで
ヒメウォンバットは害獣に指定されていま
す。
かつてヒメウォンバットはフリンダース島以外のバス海峡の島々にも住んでいたといわれていますが、現在では全て絶滅してしまいました。そして最近でも
1965年頃までは商業的な毛皮目的の狩りのために多くのヒメウォンバット達が人間によって殺されていました。また先に述べた農民達によるヒメウォンバッ
トの駆除や農地の拡大による生息地の減少により、現在でも各地で彼らの数は減少しているといわれています。これを受けオーストラリアの大部分の州では法律
によって
彼らの保護が義務づけられており、ヒメウォンバットの保護へ良い成果が出ることが期待されています。
一方フリンダース島やタスマニアに棲むものは、オーストラリア本土に棲むものといくつかの点で異なり、別の
亜種として分類すべきであると
いう意見が強くあります。これらは現在では
4000頭ほどしか生き残って
おらず、絶滅の危険性も指摘されています。このためIUCN(国際自然保護連合)ではこの亜種を
「危急種」に指定して、保護を
目指しています。
ちなみに今でこそ1m前後で可愛いウォンバットですが、
化石によると大昔にはなんと現在のカバほどもあるウォンバットがいたことが分かっており、
そんなのが今もなお生き残っていれば彼らに対するイメージは大きく変わっていたかもしれません。
執筆:2008年9月9日
[画像撮影場所] 多摩動物公園
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