熱帯
のジャングルが広がるインドネシアやオーストラリア、そしてフィリピンなどの南西太平洋の島々にはツカツクリと呼ばれる鳥たちが
生息しています。彼らはニワトリほどの大きさで、普段は地面を歩いての〜んびりと生活しています。
ツカツクリ類の鳥たちが変わっているのは、その巣作りにあります。彼らは産卵のシーズンになると日当たりのいい砂浜へ出て、直径10mに
も達する小山(塚)をせっせと作り始めます。そ
して塚が完成するとその中心に穴を開け、大きめの卵を数十個程度産み落とします。塚の中の温度は太陽の熱によって30℃以
上に保たれており、上から砂をかけて埋められた卵はその後2ヶ月ほどで孵化し、ヒナ達が自力で外に出てきます。
ツカツクリという名前はもちろんこの性質から来ており、現在のところ全部で22種類が知られています。巣
が作られるのは砂浜だけでなく、砂の変わりに大量の落ち葉を積み重ねて
山を作り、山の中で落ち葉が発酵する際に出す熱によって卵を温めたり、珍しいところでは火山の地熱を利用すること
もあります。
塚の中で卵が温められている間、主にオスが巣の管理を行いたまに塚に穴を掘っては中の温度を確認し、常に温度を一定に保たせています。いや、『本当に鳥
なの!?』って言いたくなるぐらい頭がいいっすねぇ。
インドネ
シアの東端にあるニューギニア島の北西65kmのところに、ワイゲウ島と呼ばれる小島が浮
かんでいます。19世紀にドイツ人の羽毛細工師であったブルイェンは、ハンターを雇ってこの島にいる鳥を捕まえていました。それらの鳥のいくつかは標本と
してアメリカやヨーロッパの博物館に収められることになったのですが、その中にある見慣れない種類の鳥の標本が
含まれていました。
その鳥はこのインドネシアやオセアニア地方に生息しているツカツクリ種のものだったのですが、これまで知られている他のどのツカツクリ
とも異なってお
り、新種ということが判明しました。そしてこの鳥には島の名前をとって『ワイゲウツカツクリ』という
名称がつけられました。
その後生きたワイゲウツカツクリの存在を確認しようと、たびたびワイゲウ島に向けて捜索隊が組織されましたが、全面積3200ku(鳥取県程度の大き
さ)のほとんどをうっそうと茂ったジャングルで覆われたこの島での探検は困難を極めました。そして1938年にフィラデルフィアの自然科学
博
物館に収められた標本を最後に目撃報告が絶えてしまい、世界中で20数体の
標本を残すのみとなってしまいました。その後60年もの間ワイゲウツカツクリが生きている証拠を得ることができず、もともと
生息数
が少なかったこの鳥は19世紀末の狩猟と生息域の開発によって絶滅してしまったと考えられました。
しかし20世紀も終わりが近づいた2000年12月14日、地元のハンター
達によって驚くべき発見がなされました。彼らはイノシシをとるためにジャング
ルの中に入ったのですが、そこである太った鳥を捕まえます。彼らはその鳥を殺して食べてしまったのですが、食事の後で見慣れない鳥がこの島で長年にわたり捜し
求められていたワイゲウツカツクリな
のではないか?と思い、ワイゲウ島の鳥類を調べていた『パプアバードクラ
ブ』へとその鳥の頭と骨を送りました。
その後専門家や世界記事類保護団体(WPA)などによってこの標本を他のツカツクリの標本や写真と比較され、更にアメリカやインドネシアの博物館にある
ワイゲウツカツクリの標本とともに研究がなされました。その結果、この頭と骨はまぎれも無く60年前に絶滅した
と考えられていたワイゲウツカツクリのもの
であることが判明しました!
そしてこの標本が発見された場所を中心に調査する目的で捜索隊が2001年に再び編成され
、森の奥で
その捜索隊の連れていたイヌがある鳥の
捕獲に成功します。その場所はある川のほとりだったのですが、見つかった鳥は太った体をしており、イヌに追われても川の向こ
うへ飛んで逃げることができま
せんでした。
捜索隊のメンバーがその鳥を調べたところ、この取りこそが捜し求めていたワイゲウツカツ
クリのものでだったのですが、イ
ヌによって足に怪我を負わされたため残念ながら死んでしまいました。
しかしながらその後、2002
年5月にはワイゲウ島の標高700m程度の森の中で生きたワイゲウツカツクリの存在が確認され、その巣作りの様子も観察さ
れました。このようにして長い年月をかけて見つかったワイゲウツカツクリの写真が左のものであり、ツカツクリ類特有の太った体に毛の少ない
小さな頭を持っ
ています。
ワイゲウツカツクリの塚は落ち葉から作られており、他のツカツクリ同様この鳥もそれが発酵するときに発せられる
熱を利用して卵を孵化させていると考えら
れています。その証拠に塚を世
話しているオスのワイゲオツカツクリがたびたび塚に小さな穴を開けて中の温度を確認しているところが目撃されました。
ワイゲウツカツクリの住んでいるところは標高の高いところにある、険しい山々であり、更に個体数の密度が低いことからこれまで人の目に留まることがな
かったのだと考えられています。しかしながら生息地がそのような場所にあったため、人間の影響が少なく、今日までひっそりと生きながらえることが出来まし
た。
ですが近年この島にも開発の
波は押し寄せており、彼らの住処が失われれば本当に絶滅してしまうのではないかと大変心配されています。今回このワイゲウツ
カツクリを調べるにあたって、上で紹介した、この地域の鳥達の保護と研究を行っているインドネシアの政府公認のNGOであるパプアバードクラブのKris
Tindigeさんに話を聞いたところ、やはりワイゲウツカツクリのすみかの周辺でも森
林伐採や農地開拓が進んでいるといいます。
Tindigeさんによると、もちろん鳥の保護は大切ではあるが、更に重要なことはその地域の環境保護であり、パプアバードクラブもそれに向けて取り組
んでいるといいます。しかしながら現地の人々にとっては生活していくうえで
森を切り開くことは必要不可欠なことであり、なかなかそれに歯止めをかけるのは
難しくなっています。
従って、この問題を解決する
にはワイゲウ島やインドネシアの人々だけでは難しく、他の国々からの資金的な援助が必要になっています。しかしながらワイゲ
ウツカツクリのような鳥達に興味を持つ、我々日本人を含んだ先進諸国の人たちは根本的な問題解決には取り組んではいないと言われています。我々がこれらの
鳥達に対して抱いているものは好奇心からくる興味が主であり、なかなか実際問題に直接かかわって改善しようとすることはありません。かつて日本人の鳥愛好
家がニューギニア島を訪れたときも、現地に行ってみようとはせず、ガイドに鳥を捕まえてホテルまで連れてきてくれと依頼するいった事例までありました。
いくら鳥に対する興味が高いといっても、このような姿勢ではまったく問題解決にはつながらず、現地の人々の森林伐採には歯止めがかかりません。また保護団体やNGOが訪れても研究目的がほ
とんどで、地元の経済的な改善を行ったり根本的な問題に対する取り組みは行われていなく、我々が日本国内で保護目的の資金援助をしても生態の研究報告だけ
で終わってしまうケースが多いと言われています。
そこで彼らが提案しているものに『鳥
達の生息地への旅行ツアー』があり、彼らはエコツアーと呼んでいます。我
々を初めとする外部の人間を地元に招きいれることにで実際にその目で現状を見てもらい、更に旅
行をすることによって、その土地の観光収入を増やすことで直接的に財政的な問題を解決することが出来ると考えられています。ジャングルの生
い茂るワイゲウ島のような地域への旅行は確かに我々にとっては確かに不安なものですが、彼らは彼らが行っている旅行ツアーは十分に安全なものであり、保護
に対して確かな結果が出来ると語っています。
これらの話に興味がある方やインドネシアの鳥達の保護を考える方は、英語で書かれていますがぜひ下のパプアバードクラブのサイトを訪れて現場で活動を
行っている人々の話しに目を通してみてください。
60年の時を越えてようやく見つかったワイゲウツカツクリですが、彼らをこれからも守っていくには地元地域
を含めた抜本的な問題解決が必要となっており、更に我々の行う動物保護の方法について一石を投げかけるものとなっています。