#2 祝!!新種ヒゲクジラの発見!!(日本 発)

もう知っている方も多いと思いますが、この度90年ぶりに新種のヒゲクジラの存在が 日本人によって報告されました!!も〜う、こんなすごいニュースが21 世紀にもなって現れるとは夢にも思わなかったのですが、実はこの話の裏側にはクジラの分類の難しさとこれ からのクジラ保護に一石を投げかけるものが隠されていました。

今回新たに認定されたクジラは日本 の山口県にある角島の沖で発見され、名前も『ツノシマクジラ』と名づけられ ました。更に学名はBalaenoptera omurai といいますが、これ は 日本のクジラ学の権威である故大村秀雄氏にちなんだものです。このツノシマクジラ、分類所はナガスクジラ属というグループに属す るのですが、このグループ にはあの有名なシロナガスクジラを初めこれまで6種類のクジラが知られていました。

おなじみ?ナガスクジラ属のクジラ さん
和名 英名
シ ロナガスクジラ Blue whale
ナ ガスクジラ Fin whale
ミ ンククジラ Common minke whale
ク ロミンククジラ Antarctic minke whale
イ ワシクジラ Sei whale
ニ タリクジラ Bryde's whale
今回見付かったツノシマクジラは1998年に漁船とぶつかり死んでしまったもので、 事故から3日後に水産総合研究セン ター中央水産研究所の和田志郎氏によって確認されました。外見上は同じナガスクジラ属のニタリクジラというクジラに非常に良く似ており、体長約11m、体重約10tでナガスクジラの 半分程度の大きさです。しかしながら頭骨を中心とした骨格とDNA塩基配列を詳し く調べたところ、まったく新たな種類のものであることが判明しました。

実はこのツノシマクジラ捕まったの は今回の角島のものが初めてではなく、これまで8匹の標本が東インド洋やソロモン海などで見付かっていました。実際前述の和田さんはこれらの標本のもつ肝 臓や筋肉中の酵素を調べて、既存のクジラたちとは大きく違っているということを主張したのですが、当時は進化の研究においてこの酵素を比較する方法は認め られておらず、外見上から判断されて、ニタリクジラであると処理されてしまいました。

従って和田さんたちのグループを初めとして、多くの研究者がナガスクジラには未知の新種が存在すると長年考えられており、今回
より詳しく調べることによって、これがニタリクジラでなく新たな種類のクジラであるということを示したのです。

まず、大きな決め手となったのは頭 骨の構造でした。頭 骨は動物の分類学では非常に重要なものであり、頭骨さえ見付かれば多くの種類を同定することが出来ます。外見上はツノシマクジラとニタリクジラは非常に似 通っているのですが、その頭の骨のパーツの一部がツノシマクジラのものは幅広になっており、そのほかにもいくつかの違いを見ることが出来ました。

またヒゲクジラは口の中に海水と一緒に飲み込んだプランクトンなどをこして食べるための板状になったクジラヒゲを持っていますが、ツノシマクジラの場合左 右両方に200枚のひげが生えていました。これはナガスクジラ属のものの中では最も数が少なく、またその形もやや幅広いものです。

そして、最も大きな決め手となったのはDNAの塩基配列の違いでした。最近あちこちで流行のDNA、みなさんもTVなどですっかりお馴染みだと思います。 DNAは動物の遺伝子を親から子へと伝える役割をしているのですが、それは非常になが〜い鎖のような構造をしています。この鎖のわっかにあたるパーツにはA、T、 G、Cという四つの種類があり、これが決められた順序で並んでいるのですがこのならびかたは全ての生物種ごとで異なっています。今回ツノシマクジラの DNAの鎖の並びを他のナガスクジラ属のものと比較したところ、ニタリクジラなどとはかなり違っており、別の種類に分類されるべきことが証明されました。

更に今回これまでは正式には1 種類に分類されていた『ニタリクジラ』と『エーデンクジラ』のDNA配列が異なっていることが示され、別個のものとして報告されたことで、新たに加わった ツノシマクジラとともにナガスクジラ属に属するクジラの数はこれまでの6種類から一気に8種類へと拡張されました。ニタリクジラとエーデ ンクジラでもその頭骨の構造は違う特徴を兼ね備えており、以前から分類は別にするという意見があったのですが、今回ようやくそれが達成された訳です。

これらの例からも分かるとおり、ク ジラは世界中の海に住んでいることから統一的な研究が難しく、旧来の調査方法ではクジラの分類は困難な点が多くありました。しかしながらDNA分析法など を用いることによって詳しい研究行われ、より正確な種の分類が可能になりました。これはクジラ保護の中で行われている調査において頭数確認 には非常に重要であり、より適切な形のクジラ保護が行われるものと期待されます。(いくら似てるといっても、ツノシマクジラをいっぱいいるニタリクジラと 一緒にとってしまっては困ってしまいますからねぇ。)

特に日本は行き過ぎた捕鯨をしていると国際社会から少し度を過ぎた非難されている部分もあるので、こういったしっかりとしたデータを示すことに より、適切な保護と捕鯨の両立を図っていくことが重要になってくると個人的には考えています。

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