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世界にはキングコブラやガラガラヘビ、ブラックマンバなど一噛みで人間をも殺してしま
う恐ろしい毒ヘビが
数多く知られていますが、我が日本でも沖縄本島を初めとする南西諸島には、これら
世界の毒ヘビ達と比べても何ら引けを取らないほど強力なヘビであるハブが
生息しています。
九州より北の大部分の日本の地域にはいないため、私を含め彼らになじみのない人が多く、どれぐら恐ろしいのか、なかなか想像がつきにくい部分があります
が、か
つて血清がない時代には噛まれた人の生存率は1%以下であっ
たということを考えると、いかに彼らの毒が強力かお分かりいただけると思います。また彼らは生存力も強
く、昔読んだ本でナタで首を切り落とされたハブの頭が農夫に噛みついてきた事例などは、私の中では完全にトラウマになっていま
す。
彼らは全長1〜2.2mぐ
らいの大きさがあり、これまで確認された最大のものは2.5mもあったそうです。沖縄に行くとた
くさんのハブの標本を見ることが出来ますが、
中にはネコを丸のみしたハブの
ものもあり、かなり大型の獲物でも襲って食べてしまうことがわかります。また彼らの体には緑がかった黄色と黒の明細のような模様があり、ヘビの中でも美し
い模様を持つものとして評価が高いそうです。またこの模様は棲んでいる島ごとにも差が見られます。
ハブは生物学的にいうとクサリヘビというヘビの仲間で、最大の武器である毒は「出血毒」と呼ばれるタイプの
ものです。ハブに噛まれて傷口からこの毒が体内に入る
と、激痛が遅い、さらに血流にのって全身に毒が駆け巡ります。そして毒の成分によって血液細胞などが破壊され
内出血を起こし、また細胞を作っているタンパ
ク質が壊されることで組織が分解され、最終的に獲物を死に至らしめます。
ハブの毒にこのように細胞を壊す作用があるのは、実は彼らの毒はもともと他の動物でも見られるような、ものを消化するときに使われる消化酵素が元になって
いるためであると考えられています。つまりハブの獲物は生きながらにして消化されて
いるというわけで、そうすることでハブは食べた後に体の中で消化する時
間を短縮することが出来ます。大型の獲物の場合はそれを飲みこんだハブの体は大きく膨れ上がり、外敵に襲われやすくなることから、この時間の節約は彼らに
とって非常に重要なものだと考えられます。
昔はこの毒によって命を落とす人が後を絶たなかったのですが、近年血清が発明されてからはほとんど命にかかわるような事故はなくなったということです。し
かし命が助かっても噛まれた所に後遺症が残り、筋肉が動かなくなる危険性もあるためやはり危険な存在であることには違いありません。ま
たこの毒の強さには地域差があり、特に奄美大島のハブの毒は沖縄諸島のもの
よりも強いといわれています。
そんな恐ろしいハブなのですが、その反面彼らは現地の人々にとっては大変利用価値の高い生き物でも
あります。ハブを漬けてできる「ハ
ブ酒」は全国的に有名
で、ご存知の方も多いと思いますが、その他にも彼らの肉は食用としても使われます。
またハブの体を乾燥させて粉にした「ハ
ブ粉」はビタミンやミネラルが豊
富で健康食品としても注目を浴びています。
普段彼らが棲んでいるのは主に森や草原、水辺などで、サトウキビ畑などの農地に現れ
ることも多くあります。特にサ
トウキビ畑に入り込んだものは、刈り入れの時
などに誤って彼らを踏んでしまうと突然噛みついてくることがあり、沖縄では必要な時以外はあまりサトウキビ畑には入らないよう注意を呼び掛けています。
また彼らは夜行性で、
昼間は穴の中などに隠れて眠っていることが多いようです。
彼らは主にネズミを
食べて生きており、その食事の
9割以上をネズミが占めているとまでいわれています。このため古くは農作物を荒らすネズミを退治してくれる存在として、農家の人にはとても
重要な存在であったそうです。その他にも鳥やトカゲ、カエルなどの小動物も食べることが知られています。
もちろんこれらの獲物を取るときに彼らの最大の武器となるのは牙とそこから出る毒なのですが、夜に狩りを行う彼らにはもう一つの重要な武器が
備わっていま
す。それが顔の前面についたピットと呼ばれる相手の体温をを感知するための器官で、
ハブたちはこれを使って獲物の
存在を察知するだけでなく、獲物までの距離や方角も
正確に知ることが出来るといわれています。このため温水の入った風船などを彼らの鼻先に持ってくると、体温の高い獲物と勘違いして攻撃を仕
掛けてきます(沖縄の琉球村などでは、この様子をショーとして見せてくれますがかなりの迫力です)。一方で彼ら
の目はあまり良くなく、夜間獲物を取るときにはほとんど使用されていないと思われます。
ハ虫類である彼らはもちろん卵を産んで増え、夏の盛りである7〜8月にかけて4〜15
個の卵が産み落とされます。繁殖期にはいるとオス同士がメスを争って
互いの体を絡み合わせて争う行動が見られ、また産まれた卵はメスによってしばらくの間守られます。
彼らは南西諸島にある22の島々に
分布していますが、なぜかこの
地域にはハブのいる島といない島があり、隣り合う島同士であっても片方にはハブが棲んでいて、もう片方
には全く見られないこともあります。これについてはまだはっきりしていない部分もありますが、考えられる理由として次のようなものが一般に提唱されていま
す。
もともとハブが南西諸島に移り住んできたのは今からはるか昔の氷河期のことで、この時期に他の陸地と地続きであった南西
諸島にハブのご先祖たちが移動し
てきました。その後氷河期が終わりを迎えると世界各地の氷が
解けて、海水面が上昇し、標高の高い島々を残して他の島はすべて水没し
てしまいます。この時標
高が低い島に棲んでいたハブはすべて死に絶え、標高の高い島に棲んでいたものだけが生きのびたというのです。そしてさらに時代が新しくなっ
て水面がやや下
がると、水に沈んでいた低い標高の島々も再び顔を現しますが、そこにはもうハブは存在せず、同じ南西諸島でもハブのいる島といない島が存在することになっ
たといわれています。
ところでハブといえばマングー
スと闘う「ハブショー」が有名ですが、現在では動物愛護法によってショーが行わ
れることはほとんどなくなっています。ですが一体なぜ沖縄には
棲んでいなかったマングースがハブと闘わせられるようになったのでしょうか?実はマングースはインドなどではコブラをも殺して食べると
いわれていることから、血清
のまだ無かった明治時代にハブ退治の真打ちとして持ち込まれ
ました。実際に彼
らにはハブの強力な毒は効かず、また素早くハブの後頭部に噛みついて一撃のも
とに殺すことができ、ハブの駆除に大いなる期待が抱かれていました。(これ以前にかつて奄美大島にはハブ駆除のため2363匹のイタチが持
ち込まれたそう
ですが、逆にハブの餌となりあっという間に全滅してしまったそうです。)
しかしいざ沖縄本島や奄美大島に放してみると、マングース達はほとんどハブを獲ることは
なく、それ以外のヤンバルクイナやアマミノク
ロウサギなどの希少種を含む動物ばかりを食べ、逆にこの地域の生態系を破壊するようになってしまいました。これについては一
説にはハブは夜行性であるのに
対し、マングース
は主に明け方行動するため、両者が自然界で出会う機会はほとんどなく、餌を求めたマングースはハブ以外の生き物に標的を絞るようになったと
いわれています。
このため、現在ではマングース
たちが害獣としてみなされ駆除の対象になるという大変皮肉な結果となっています。このハブとマングースの関係はやはり自然を
人間の思い通りにコントロールするというのは非常に難しいということを示すよい例であるといえるのではないでしょうか。
執筆:2008年2月24日
[画像撮影場所] 琉球村

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