黄色くてピラミッド型の突起が並んだ立派な甲らを持つ
ケヅメリクガメは、
アフリカ大
陸のサハ
ラ砂漠南端に棲む大型のリクガメです。彼らはアフリカ東海岸の
セネガルからモーリタニア、ニジェール、チャド、スーダン、エチオピア、エリトリアの紅海沿岸まで、アフリカ大陸を横断する形で非常に広い地域に分布して
います。
ケヅメリクガメは非常に成長が早く、
大人になると平均的なもので甲らの長さが46cm、体重は32〜45kgになります。しかし彼らの中には非
常に大きな
る個体もいて、
甲らの長さが90cm以上、体重は70kg近くになるものも知られています。彼らは
世界中でも、ガラパゴスゾウガメ、アルダ
ブラゾウガメに
ついで3番目に大きな陸に棲むカメです。しか
し上位の2つは特定の島でのみ棲むだけで、外敵に襲われる可能性が低く、大型化しやすい環境が整っています。こ
れに対して、ケヅメリクガメは生存競争の激しい大陸での生活に棲んでおり、天敵に見つかる可能性がある中でその巨体を誇っているのは、とてもすごいことだ
と思います。
彼らは普段砂漠に近い非常に乾燥した地域に棲んでいるのですが、乾燥した地域に適応するためある変わった習性を持っています。日中は非常に熱くなるこの地
域では、昼間その辺をのこのこと歩いていると、あっという間に甲ら干しどころか、文字通り
甲ら焼きになってしま
います。そこで
彼らは地面に巣穴をほり、気
温が高い時はこの中に潜り込んで暑さをしのぎます。
写真を見てもらうと気がつくと思いますが、彼らは非常に太い前足を持っていて、これを使ってかなり大き
な穴も掘ることができます。なんと
時には長さ6mにも達する穴を掘ることがあるらしいです。彼ら
の巣穴にはメインの部屋の他に、いくつかの小部屋が作られることも多く、時々他の動物たちが無断で間借りしていることもあるようです。そしてケヅメリクガ
メは夜明けと日没頃に最も活動的なり、朝は日光によって体温を上げるために、日光浴をしている姿が良く見ら
れます。
彼らの棲んでいるところではほとんど液体の水というものはないため、ケヅメリクガメは主に食べ物である植物中に含まれる水分によって生活しています。この
ため、彼らは少しでも水気の多い食べ物を得ようと、水分を多く含んだ
多肉植物という肉厚の植物の葉
や茎を好んで食べます。
またごくまれに彼らの生息地の中でも水が得られるところでは、ケヅメリクガメは
泥浴びを行うのを好み、
泥の中で転げまわって全身に塗りたくりま
す。
こう
することで彼らは体温を低く保ち、暑さから身を守っていると言われています。それでも暑さに耐えられないときは、唾液を前足に塗り広げ、蒸
発させることで体を冷やすこともあるそうです。
|
ケヅメリクガメの甲
らから伸びた「蹴爪」(白丸部)
|
彼らの甲らは上側が平らになっており、縁の部分がギザギザしているのが特徴です。また
お腹の下側の甲らは象牙色をしています。ケヅメリクガメのオスとメスはぱっと見て、外見から区別するのはなかなか難しいのですが、オスのほうがお腹の甲ら
がくぼんでいるということです。これは交尾の時にメスの体の上に登りやすくするためだと考えられていますが、またその他にもオスはメスよりも身体が大きく
成長し、尻尾も長くて太くなるなどの違いがあるみたいです。
ところでケヅメリクガメの
「ケヅ
メ」と言うのは
本
来キジやニワトリなどの足に後ろ向きに生えている鋭いツメのことで、実は
ケヅメリクガメの体にも同様の爪が
生えていることからこう呼ばれています。しかしキジやニワトリとは異なり、
ケヅメリクガメの蹴爪は足に生えているわ
けではなく、実は甲らの一番後ろ側に生
えています(左の写真の白丸部分)。この蹴爪が一体彼らにとって、どういう役割を持っているのかはよく分かっていません。ちなみに英語名の
「Spurred」というのも「蹴爪が付いた」という意味があります。
一方で彼らの学名は「
Geochelone
sulcata」とい
いますが、この中で
sulcataと
いうのはラテン語で
「溝(みぞ)が
ある」という意味の言葉で、
ケヅメリクガメの甲らの溝が深いことに由
来すると言われ
ていま
す。
彼らの甲らは非常には立派な模様が描かれていますが、良く見ると木の年輪の様に何本もの輪が重なっています。実はこの模様は本当に年輪と同じく、一年に一本
ずつ輪が増えていき、この本数を数えることでそのカメのおおよその年齢を
知ることができます。
毎年6月から次の年の3月にかけていつでもケヅメリクガメ達は繁殖を行いま
すが、雨季の
後、9月から11月までの時期が最も活発にな
ります。ケヅメリクガ
メは仲間に対して非常に攻撃的で、オスのケヅメリクガメ同士が出会うと互いに激突を繰り返し、足や頭から血を流すまで戦いを繰り広げることもあります。
交尾が終わり、秋になるとメスのケヅメリクガメは卵を産むための巣作りの準備に入ります。この時巣を作るのに少しでも適
した場所を、彼女たちはほとんど食
べ物を食べることなく探し続けます。そして場所が決まると彼女たちは柔らかい地面を掘りつづけ、約5時間をかけて直径60cm、深さ7〜14cmのくぼみを
作ります。このくぼみは4〜5個も作られ、最終的にその中から最も気に入った一つが選ばれます。
巣が完成するとメスのケヅメリクガメはその中に卵を産み落とします。卵は白い色で球形をしており、一度の産卵において3分間に1個ぐらいの
ペースで約
15〜30個ぐらい産み落とされます。産卵が終わるとメスは一時間ぐらいをかけて、その全ての
卵の上に土をかけて完全に埋めてしまいます。
その後卵は地面の熱を使って温
められ、約8か月後にひながふ化します。産まれてきたときにケヅメリクガメの大き
さは甲らの長さが約4〜6cm、体重は
25g程度しかありません。しかし彼らの成長は非常に早く、最初の3年間は
毎年一年間で倍ぐらいの大きさになり、すぐに15〜25cmぐらいにまで大きくな
ります。そしてオスの場合だと甲らの長さが35cmぐらいになると完全に大人になり、繁殖を行うようになります。
飼育下におけ
るケヅメリクガメの寿命は30年程度だと言わ
れていますが、野生のものはよ
り長生きになり、中には100年以上も生きるものもいることが知られています。
やはり長寿
の代表カメの仲間ですねぇ。
ケヅメリクガメは簡単に大きくなるため、ペットとして人気のあるカメの一つで
す。彼らは草食動物であるので基本的には草やレタス、キュウリ、クローバーなどの葉を与
えて育てることができます。しかし飼育が比較的簡単な一方で、彼らは成長すると非常に大きくなり、また行動も活発なため、個人の家で飼うことが難しくなり
ます。従って手に負えなくな
り、放棄してしまう飼い主が多いという問題もあります。
一方彼らはアフリカの人々にとってはかなり重要な存在であるらしく、セネガルなどでは美徳や幸福、多産、そして長寿の象徴とされています。ま
た多く
の村々で、彼らは自分たちの先祖と人間との仲介者であると考
えられており、丁重に飼育がなされています。また西アフリカのマリに棲むドゴン族という民族の
間では彼らは酋長と先祖の間のコミュニケーションに必要であると考えられ、常に村の指導者の傍らに置かれています。
しかしそんな中、彼らの棲む多くの国々では近年都市化が進んでおり、彼らの生息地に
も影響が表れています。さらに大規模に放牧された家畜によって草が食い
つくされたり、この地域で砂漠化が進むことによって、マリやチャド、ニジェール、エチオピアな
どではケヅメリクガメの数が急速に減少してしまっています。
国際自然保護連合では彼らを絶滅の可能性のある「危急種」というカテゴリに指定しており、またワシントン条約では野生のケヅメリクガメの商取引は禁止され
ていて、彼らが生息している地域の各地で保護対策が必要とされています。そしてこのためには地元住
民の協力が必要となってくるのですが、上で述べたとおり、彼らはこの地域ですごく大事にされている存在であり、彼らを守るために保護を呼び掛けやすいのが
プラス材料となっています。
執筆:2007年12月13日
[画像撮影場所] 熱川バナナワニ園