太古の昔、今から数億年前の海はアンモナイトなどの頭足類と呼ばれる、今のタコやイカ
の仲間が最も反映し、その名の通り海の支配者として君臨していました。そしてその後も現在に至るまで彼らは様々に進化しながら生き続けるの
ですが、その過去の壮大な歴史の記録を昔の姿のまま今に伝えてくれているのが、
インド洋から太平洋に住むオウムガ
イ達です。
というわけでタコやイカの親戚にあたるオウムガイ君なのですが、大きな違いは何といってもその大きな殻です。白地に茶色い縞
模様の描かれた殻はまさに彼らのトレー
ドマークと言っていい存在なのですが、これはオウムガイが卵からかえった時にはもうちゃんと付いていて、成長とともに大きくなり、最大で直径20cmぐら
いになります。
現在でこそオウムガイ以外の頭足類は殻を失ってしまいましたが、太古の海にいたオウムガイやアンモナイトの仲間といった頭足類の先祖たちの間では、むし
ろ殻を持っている方が当たり前というぐらい標準的なものでした。(もしかしたら大昔にも殻のない頭足類はいっぱいいたけれども、体が柔らか
かったので化石
として残ってないだけなのかもしれませんが…。)
オウムガイの先祖にあたる種が誕生したのは、なんと今から約5億年前のカンブリア紀と呼ばれる時代だ
と言われています。その後爆発的に繁栄したオウムガイ
達は多種多様な形に進化し、今
のものとは異なるまっすぐな殻を持った者や、殻の大きさが2.5mに達するものなども現れました。そ
して約6000万年前、
現在のオウムガイのグループに属する仲間が出現し、その後ほとんど姿を変え
ることなく今日まで生き残っています。このことからオウムガイはしばしば「生き
た化石」の代表格として紹介されています。
ちなみに現代の世界の海には6種類のオウムガイの仲間がいると言われていて、「オウ
ムガイ」という名前は普通これらをまとめて呼ぶ時に使われます。その中
で最も有名な「ノーチラ
ス・ポンピラス(Nautilus pompilus)」と
いう学名の種は最も大きくなり(最大の殻の直径が26.8cm)、
その和名も「オウムガイ」と言います(他のオ
ウムガイの仲間の和名には「ヒロベソオオムガイ」や「オオベソオウムガイ」などがあります)。従って「オウムガイ」という名は狭い意味でこの種
だけを指し示すこともありますが、ここでは全ての種をまとめて「オウムガイ」として紹介します(ややこしくてゴメンネ(汗))。
ちなみになぜ日本では彼らのことをオウムガイと呼ぶかというと、顔の上にある殻の部分が鳥の「オウム」のくちばしに似ているからであると言われてい
ます。またオウムガイは英語でノー
チラス(Nautilus)と言いますが、これはもともとギリシア語で「船乗り」を意味します。
ジューヌ・ベルヌの名作である「海
底二万マイル」に出てくる潜水艦も同じ名前を持っていますが、これはオウムガイの名前を取ったものです。またアメリカの原子力潜水艦にもお
なじノーチラスという名前を持ったものがあるそうです。
そんなこんなで、のんびりした外見とは裏腹に結構すごいオウムガイなのですが、彼らの体にもたくさんの秘密が隠されています。まず彼らの殻ですが、その中
は小さな部屋がいくつ(最大30個以上)も渦に沿って並んだ構造になっています。そして最も外側の部屋(「住房」と言います)にオ
ウムガイの胴体が入っているのですが、残りの部
屋(気房)はす
べて小さな穴でつながっています。
それぞれの部
屋には空気のガスが詰まっていて、これによりオウムガイは浮力を
得て水の中にぷかぷかと浮かぶことが出来ます。そしてさらにこの小部屋の中に体液を入れることで浮力を調整し、自由に浮かんだり潜ったりす
ることができます。この方法は潜水艦が浮き沈みするときの機構と全く同じであり、先にも述べたように多く
の潜水艦の名前にオウムガイの英名である「ノーチラス」が付けられているのはこのためです。
また漏斗(ろうと)と呼
ばれる短いホースの様な部分から取り込んだ水を勢いよく吐き出すことで、オウムガイは後ろ向きに泳ぐことができますが、ものをよける
ことは苦手みたいで、岩や水槽の壁などにぶつ
かってようやく止まっている姿がよく見られます。
さらに彼らは危険を感じるとカタツムリのように、体を大きな殻の中に引っ込めることができ
ます。このとき入口の部分にある頭のひさしにあたる部分が動いて、ふたをすることができ、ちょっとしたシェルターみたいになります。また殻
の内側は真珠質の美
しい壁になっており、なんとこれを使ってオスメニャ・パールというジュ
エリーが作られます。またオウムガイの殻は浮力を持っているため水に浮かびやすく、オウムガイが死ぬとその殻だけが永遠と水面を漂って、日本沿岸など驚く
ぐらい遠くの海岸にまで流れ着くことがしばしばあります。
オウムガイは90本も
ある触手を持ってお
り、タコの8本やイカの10本など足元にも及びません。この触手には吸盤は付いていないものの、彼らはこれを使って岩などにしがみついたり、海底やサンゴ
礁の底をはうことができます。
また彼らの眼は他の生き物とは少し変わった形をしていますが、この眼には我々のようなレンズは無く、小さな穴が開いているだけです。じつはこの小さな穴を
通った光はオウムガイの目の中で像を結ぶため、ちょうど他の動物の目のレンズの役割を果たし、それにより彼らはものを見ることができます。
このような機構
は昔のカメラと同じものであり、このようなカメラのことをピンホールカメラと言います。
しかしながらこのような構造のためオウムガイの目は海水で満たされ
ており、あまり視力は強くないと言われています。この辺はイカやタコなど目の良い頭足類の中ではかなり変わっています。
オウムガイは北緯30度から南緯30度までの温かい海に見られますが、普段の彼らは大体深度300〜500mぐらいの海底に
プカプカ浮いて生活しています。ですが実は彼らは夜行性で夜になると餌を求めて、海面近くにまで上
がってきます。なので結構幅広い深さに適応している彼らですが、800mより深いところでは殻が水圧に負けてつぶされてしまうた
め生きていけません。
オウムガイが主に食べる餌はエビや
小魚、そしてカニなどの小型の甲殻類で、たくさんある触手を使ってものを食べることが知られています。先に述べたとおり、視覚はあまり良く
ない彼らですが、餌をとるときには主に嗅覚を使うと考えられていま
す。またあまり動きが速くない彼らなので、生きた獲物を取ることはあまりなく、死んだ動物の死体をよく食べているそ
うです。ですがこんなにのんびりしててホントに餌をちゃんと探せるのか心配になりますが、逆に動きがゆっくりしているため使うエネルギーが少なく、なんと一か月に一回ぐらいご飯を食べれば十分なのだそうです。
(究極の省エネです
ねぇ…?)
オウムガイはもちろん卵を産んで増える動物ですが、産卵も食事と同じく海の浅いところで行い
ます。受精はオスがメスの体に触手を使って、精子の入った袋である精包を送り込むことで起こります。彼らの卵の大きさは大体3cmぐらいの大きさで、岩などにくっついた形で産
み落とされます。そしてその後8〜12か月ぐらいの長い期間を経て、小さなオウムガイの子供が卵からふ化します。もちろん彼らはすでに小さいながらもちゃんと2.5cmぐらいの殻を持っており、一人前の姿で産まれ
てきます。オウムガイの繁殖は飼育下でも成功しており、日本の志摩マリンランドや鳥羽水族館など、世界各地の水族館で行われています。
ところでイカやタコなどのほとんどの頭足類は一生に一度しか繁殖を行わず、その後はすぐに死んでしまいます。しかしオウムガイは一生のうち何度も繁殖を行
うことが出来、そういった点でも他の頭足類とは一味違っています。ちなみにのんびりした性格の彼らですが、その性格のせいか寿命も頭足類の中では驚くほど長く、うま
くいけば20年ぐらいは生きると言われていま
す。
執筆:2007年10月30日
[画像撮影場所]
鴨川
シーワールド
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しながわ水族館
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