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ホッキョクグマ(左)とヒグマ(右)
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ホッキョクグマが遺伝的に最も近いのはヒグマであると言われていますが、
近年の研究により彼
らはこれまで考えられていたよりもずっと近縁であることが明らかにされてきました。もともとクマの仲間(クマ科)は他のネコ科の動物などの
肉食動物から
3800万年前ごろに分岐したと言われています。そしてその後、
今から20万年前というかなり新しい時代になって、ホッキョクグマはヒグマか
ら進化し地球
上に姿を現しました。これまで見つかっているホッキョクグマの化石で最も古いものは10万年ぐらい前までさかのぼることができます。
しかし世界中のホッキョクグマとヒグマの遺伝子(DNA)を調べたところ、
実はアラスカなどに棲む一部のヒグマの
DNAは他のヒグマのDNAでなく、ホッ
キョクグマのDNAに近いことが明らかになりました。このことはホッキョクグマがヒグマの亜種であると言えるほどヒグマに近
い種であることを示しているの
ですが、それを裏付けるようにこれまで
自然界においてホッキョクグマとヒグマの交配が行われた事例が数例ですが報告されてい
ます。
これに
よって生まれて来
る子供は、さらに自身の子供を作る繁殖能力があり、まだホッキョクグマとヒグマは完全には別の種として分岐しきっていないことを示しています。
しかしながらこの2種は生息域が一部で重なっているものの、大部分は異なっており、またその見た目や生活パターンの違いから同じ種に分類するということは
これまで全くなされていません。
ホッキョクグマは基本的に
単独行動を
行う動物で、特にオスのホッキョクグマは繁殖期にメスとつがいをつくる時以外には他の個体と一緒に行動することはあり
ません。
彼らの繁殖期は4〜5
月ごろで、その後妊娠したメスは出産に備えて大量の餌を食い貯めるようになり、この間におよそ2倍程度体重が増加します。そ
して10月ごろになると南の地方の陸地に近い地域の雪の下に
出産のための巣穴を掘ります。
メスグマは冬の間この穴の中で休眠状態に入り、そのまま12月ごろ
に子供を出産します。メスのホッキョクグマの
妊娠期間は大体195〜265日程度で、
1〜4匹(平均2匹)の小グマが産まれます。
産まれてくる子供の
体重はおお
よそ600gぐらいで、目はまだ空いていない
ものの、すでに毛皮が生えている状態で産まれてきます。そして最初は母親の母乳
で育ち、体重が10〜15kgぐらいになると母親と共に巣穴の外に出てきます。その後彼らは
2〜3年お母さんグマと共に生活したあと
一人立ちし、5〜6歳
ぐらいで性的に成熟して次の繁殖を行うようになります。しかしながら子供の頃のホッキョクグマは生存率がそれほど高くなく、
最初の1年の間に2頭のうち1頭は
死んでしまうと言われています。
ところで子供を連れた母グマが最も恐れるのが
大人のオスのホッキョクグマで
す。
オスのホッキョクグマは小
グマを見つけると殺してしまうことがたびたびあり、このためメスグマはこの時期オスのクマに出会うのを極力避けようとします。
飼育下のホッキョクグマの母親の中には途中で子供を育児放棄する例が知られており、国内では
愛媛県立とべ動物園の「ピース」や
ドイツの「クヌート」などが
有名です。(この2頭はその後人工保育により育てられ、無事成長していっています。)
野生における
ホッキョクグマの寿命は大体25〜30年程度で
あると言われていますが、かつてアメリカのデトロイト動物園にいたホッキョクグマが
45歳に
なってもまだ元気に生きていた記録が残っています。
1970年頃ホッキョクグマは全世界で5,000頭程度しか生き残っていないのではないかと言われていましたが、その後の調査でより多くの個体がいること
が明らかになり、
今現在約20,000〜25,000頭のホッキョクグマが生息していると
言われています。この中で最も多くのクマが住んでいるのが
カナダ
の北の地域で、
全
世界のおよそ60%のホッキョクグマがいると
言われています。
歴史的には
かなり昔からイヌイットなどの先住民達を初めとして、ホッキョクグマは人間によって
狩りの対象となってきました。そんな中彼らの生
息数は次第に減少し、中でも
ア
ラスカのセントマシューズ島では生息していたホッキョクグマが19世紀に完
全に絶滅してしまいました。20世紀に入るとます
ますホッキョクグマの狩りは大規模化し、各地で保護を求める声が相次いで起こるようになりました。そしてこれを受け現在のところ
カナダ、アメリカ、ロシ
ア、デンマーク、ノルウェーと
いった、ホッキョクグマの棲む国々の間ではホッキョクグマを守るための条約が締結されていて(オスロ合意)、それぞれが法律を定めてホッキョクグマの保護
に携わっています。
この中で多くの国々では大規模な商業的な目的でのホッキョクグマの狩りは全面的に禁止されています。しかし例外として先住民族であるイヌイットたちが伝統
的に行ってきた狩りと一部のレジャー目的のハンティングについては、一年に狩る頭数を制限する形で許可されています。また条約に参加している国々ではホッ
キョクグマの生息数や生息状況に関する調査が行われ、彼らの保護に役立てられています。
これらの保護政策によりホッキョクグマの生息数は比較的安定していると言われていますが、
カナダ・ハドソン湾周辺など一部地域では
減少し始めたり、もしく
は深刻な数まで減ってしまっていると言われています。そして近年新たな地球規模での脅威がホッキョクグマの生活を脅かしていると言われてお
り、それが
「地
球温暖化」による気温の上昇です。
ホッキョクグマたちは氷の上をアザラシの狩りなど生活の主な場所としているため、
北極の氷がなくなることは彼らにとって深
刻なダメージとなります。しかし
近年
地球気温の上昇により、夏
の終わりから春の初めにかけて北極海で氷が拡大する時期が短くなってきています。このような状態になると、クマ達が氷の上で
アザラシなどを狩って脂肪をためるための期間が短くになり、餌の少ない夏を過ごすのに十分な栄養が得られなくなります。また大規模な氷の消失により、陸地
のある沿岸地域にまで非常に長い距離を泳ぐケースが増えてきており、その途中で力尽きて溺れ死んでしまうホッキョクグマの数が増加しています。また近年小
グマの生存率が低下しているという報告もあり、これも温暖化の影響なのではないかといわれています。
そしてこのまま温暖化が進んで北極の氷が減少すると
2050年までにホッキョクグマの数は現在の3分の1程度にまで減少してしまうと予想されています。
そ
してヨーロッパやロシア、アラスカ、カナダ北部からか完全に姿を消したのちに、
2080年ごろにはわずかな集団がカナダの北東にある北極諸島にのみ生
き残
るだけになるだろうといわれています。
また一方で各地で行われている
環境
汚染もホッキョクグマの生活に深刻な影響を与えています。特に有機塩素系の
化学物質は食物連鎖の頂点に立
つホッキョクグ
マの体の中にかなり高濃度で蓄積すると言われており、その影響が大変心配されています。これまでの研究によるとこれらの物質はホッキョクグマたちの排卵不
全や死産、免疫力の低下、ガンなどの疾患や子供の発育不全を引き起こすと言われており、最悪の場合には急激な死を引き起こすとも言われています。
その他にもカナダ・マニトバ州ではごみの集積場にホッキョクグマが現れ、餌をあさるようになった事例が知られています。この時ホッキョクグマは何でも口に
するため、発泡スチレンや車のバッテリー、オイル、そして不凍液であるエチレングリコールなどを誤って食べてしまいます。マニトバ州ではクマを守るために
現在は集積場を別の場所に移すことによって解決していますが、他の地域でも同様のホッキョクグマによる人工物の誤飲が問題になっています。
現在
国際自然保護連合の
レッドリストでホッキョクグマ
は
「危急」というラ
ンクに分類されていますが、このような状態を受けて更に上の
「絶滅危惧種」に格上
げすることが求められています。
ちなみに氷の上で生活する彼らですが、まれに流氷に乗ったままかなり南の地域にまで流されることがあり、
アメリカのメーン州やニューファンドラン
ド島や
ベーリング海にたどり着いたことがあります。そして
我が日本にも過去に2度ほどホッキョクグマが流れ着いた例があるそうです。
そんな感じのホッキョクグマですが、世界中で彼らは人気が高く、コカ・コーラを初めとする色々な企業のイメージキャラクターとして使われたり、小説や映画
などでもたびたび登場しています。また1988年にカナダのカルガリーで行われた
冬季オリンピックのマスコットに
もなったことがあります。
執筆:2007年11月19日
[画像撮影場所]
恩賜上野動物園
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旭川市旭山動物園
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