ホッキョクグマは
ヒグマと
並ぶ
世界最大の陸生肉食動物で、
北の王として世界の果て
北極海に君臨しています。
シロクマと呼ばれることも多い
彼らですが、主に
北極点を中心
とした北極海の氷の上に住ん
でおり、カナダやアメリカ(アラスカ州)、デンマーク領のグ
リーンランド、ノルウェー、ロシアなどの沿岸地域の流氷が流れ着くことのできるところでも見られます。
彼らは陸上で最も大きな肉食動物ですが、
オスのホッキョクグマでは全長2.5〜3.0m、肩の高さ1.6m、体重は350〜650kgにもなり、ネコ科最大の動物であるシベ
リアトラの2倍もの重さになります。これまで報告されている中で最大のものは1960年に北西アラスカのコツェブー湾で仕留
められたオスで、なんと
体重は1002kgもあったと言われています。
これほどまでに大きくなるホッキョクグマのオスですが、これに対して
メスのホッキョクグマはその半分ぐらいし
かなく、全長2〜2.5、体重
150〜250kg程度だということです(それでも十分に大きいですが…)。実はホ乳類の中でこれほど雌雄の間で体の大きさに差が出るものは少なく、ホッ
キョクグマの他にはアシカぐらいしかいません。
彼らの特徴と言えば
全身真っ白なそ
の毛皮ですが、北極の厳しい寒さから身を守るため、
毛の長さは5〜15cmにもなります。また彼らは足の裏にも毛が生
え
ていますが、これによって氷や雪の上でも滑ることなく歩くことができ、また熱が逃げるのを防ぐ効果があります。またオスの前足の毛はさらに長くなり、14
歳ぐらいになるまで伸び続けることが
知られています。一説にはこの毛はライオンのオスのたてがみのように、繁殖期にメスに対してアピールするための飾りであると言われています。
ちなみにこのホッキョクグマの毛、
ある秘密が隠されてい
ますがご存知でしょうか?実はそれぞれの毛を取っていくると実は白い色をしておらず、
中が空洞で透
き通った構造をしています。実は
この色のない細かい毛が集まって、光をす
りガラスのように散乱して白く見えていると言うわけなのです。そしてその毛の下に隠
された
彼らの皮膚は真っ黒い色をしています(上の写真の鼻と口の回りを見て
もらえるとわかっていただけると思います)。かつては透明な体毛が光ファイバー
のように太陽光を黒い皮膚にまで届けて、その熱を吸収するのではないかと考えられていましたが、最近の研究によりどうやらこの説は間違いであることがわ
かったみたいです。
ホッキョクグマの毛は若い頃は真っ白い色をしていますが、夏になったり、歳をとるにつれだんだんとクリーム色を帯びてきます。また動物園で飼われている
ホッキョクグマの
中には、毛が緑色を帯びたものが居ますが、これはそれぞれの毛に空いた空洞の中に
藻が繁殖してしまうためだそう
です。極寒の北極ではこのように藻が生えることは
ないのですが、暖かい地域の動物園などでは時々こうなってしまうみたいで、そうなると飼育係さんは塩水や薄い漂白剤の中でクマを泳がせて元の色に戻すそう
です。(そうしないと藻が原因で皮膚病になることもあるそうです。)
また彼らはその毛皮の下に最大12cmにも及ぶ脂肪の層を持っていますが、これは北極の厳しい寒さの中で生きて行く上で防寒着としての役割を果たします。
また軽い脂肪によって浮力を得ることが出来、水の中で泳ぐときに役立つと言われています。
彼らはヒグマなどと比べると肩の盛り上がりが小さく、また首が長くて小さい頭を持っていますが、これは海の中で泳ぐときに水の抵抗を減らすためであると言
われています。そしてさらに太い足は薄い
氷の上を歩くときに、体重がかかるのを分散させる役割があり、これで氷を割ることなく自由に移動することができます。
かつて18世紀にホッキョクグマが最初に記録されたとき、彼らには2種類の亜種が居るとされていました。しかしその後の調査で
世界中のホッキョクグマはた
だ一つの種であると分類が改められましたが、研究により世界中で19の独立した地域にそれぞれ異なるグループが生息していると
言うことが明らかにされてい
ます。その中の主な地域として、カナダ北極諸島、グリーンランド島(デンマーク)、スヴァールバル−フランツジョセフランド諸島(ノルウェー)、中央シベ
リア(ロシア)、アラスカ(アメリカ)などがあります。
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この爪が最強
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ホッキョクグマは
他のクマ達と
比べて、食料に対する肉の割合が高く、木の実や根など植物性の食べ物を口にするのは夏の食べ物が少ない時期だけです。そして
何といっても彼らの主食となっているのは
ワモンアザラシなどの北極にすむアザラシ達で、その他若いセイウチなども襲って食べま
す。ホッキョクグマたちの目はそれほどよくありませんが、彼らは
獲物を取るときに非常に発達した嗅覚を利用し、一説には氷の下を泳ぐアザラシの臭いまで嗅ぎ分けることが出来ると
いわれています。また敏感なひげや唇を使って周辺のものを調べることもあります。
そしてアザラシの他にも海鳥やその
卵、小型のホ乳類や魚、ジャコウウシ、トナカイなど
彼らが捕まえることのできるものは、ほと
んど何でも食べてしまいます。また厳しい北の地では
死んだ動物の死骸も重要な食料で
あ
り、彼らは大型のセイウチや場合によってはクジラなどの死体をあさって食べることが知られています。またごくまれにですがホッキョクグマ同士の間で共食い
が行われることもあるようです。
彼らがアザラシを狩るときの方法は大きく分けて2種類あります。
一つは氷の上で休んでいるアザラシを、近
くまで忍び寄ってから狩る方法で、この時彼らの
白
い毛が周りの雪景色の中に溶け込むのに役立ちます。この時クマはかがみこむようにしてじりじりと少しずつ獲物に近付いていき、アザラシが顔
をあげて周りを
見回す瞬間は息を殺してじっと動かずにとどまります。そうして
15〜30mの距離まで近づくと一気に走
りよって強烈な一撃をたたき込みます。この時走るス
ピードは氷上であるにもかかわらず、
時
速55kmに達するもと言われています。
そして
二つ目の方法として待ち
伏せをする戦法があります。ワモンアザラシなどのアザラシは海に潜るとき氷に空いた決まった穴から、一定時間ごとに呼吸のた
めに水面に上がってくることが知られています。そしてホッキョクグマは
このようなアザラシの呼吸穴を見つける
と、そのすぐそばでじっと待ちかまえアザラシ
の顔が出てくるのを待ち構えます。そして
呼吸を死に上がってきたアザラシを捕ら
え、水の外に引きずり出してからその肉を食べます。またこれとは逆にアザラ
シが穴のそばで休んでいる場合は、ホッキョクグマの方が水に潜り、呼吸穴から突然飛びだして逃げ場のなくなったアザラシを襲うこともあるようです。
また
北の大地で唯一ホッキョク
グマと互角に渡り合えるのがセイウチのオスで、
その体重はホッキョクグマのオスをも上回
ります。そして彼らは2本の巨大な牙を持っているため、戦った時に傷を負う危険性が高いことから、普通ホッキョクグマたちも彼らを襲うこと
はありません。しかし場合によってはオスのホッキョクグマが戦いを挑むこともあり、
かつて大人のオスのセイウチがホッキョク
グマに殺された事例も報告されています。
こうしてようやく得られる獲物ですが、場合によっては他のより大きなホッキョクグマによって無理やり横取りされることもあります。しかし子供を連れたメス
グマなどは自分の子供と大事な獲物を守るために、自分よりずっと大きなオスのホッキョクグマに戦いを挑むこともあるそうです。
そして
ホッキョクグマは獲物の
身体のうち、主にカロリーの高い脂肪の部分しか食べません。このため彼らの消化器系はアザラシのような海洋ホ乳類の脂肪を消化する
のに特化しており、他の陸上動物の肉などを食べてもあまり栄養を摂取することはできません。また
これらの脂肪を冬に多く摂取して、体の中
に貯蔵し、食べ物の少ない夏に備えます。(一説には
一匹のアザラシで半年間飢えをしのぐこと
が出来るとも言われています。)ホッキョクグマは他のクマのように獲物の食べ残しをどこかに隠すことはせず、そのまま捨て置いていきます。
そしてこれらは他の若い狩りの経験の少ないホッキョクグマやホッキョクギツネなどの餌になります。食事を終えたホッキョクグマはカモフラージュに重要な毛
皮が獲物の血などで汚れた場合、それを舐めてきれいにすることが知られています。
魚を主食とするアザラシを食べるホッキョクグマは多量の
ビタミンAを摂取し、それの大
部分は
肝臓に蓄えら
れます。従って
この肝臓を人間
が食べるとビタミンA過剰症を引き起こしてしまい、最悪の場
合には死に至ってしまいます。そのため伝統的にホッキョクグマの狩りをおこなってきたイヌイットたちは決して彼らの肝臓を口にすることはな
く、また彼らの飼う犬にも与えることはないそうです。
これまで何件かホッキョクグマに出会った人間が襲われて殺されてしまったケースが知られていますが、実際のところは彼らは行動域が大変広大で、生息密度が
低く、また北極地方にすんでいる人間の数も少ないことから、自然界で出会うのはかなりまれなようです。
また海の関係が深いホッキョクグマですが、
彼ら自身も泳ぐことが大変得意で何十kmも泳ぐことができます。この時幅広い前足が水を
か
いて進むのに大変役立っていますが、後ろ足は後方に伸ばしてかじを取ります。また
息を止めて2分ぐらい水に潜ることができ、その間
鼻の穴を閉じることもできます。
かつて
沿岸から100kmも離れた何もない海の上で泳いでいるホッキョクグマが目撃さ
れたことがあります。
ホッ
キョクグマ関連のトピックス
愛媛県立とべ動物園のメス
のホッキョクグマ「ピース」が12月2日、8
歳の誕生日を迎えました。ピースはとべ動物
園で産まれたホッキョクグマですが、母親に育児放棄され人工飼育で育てられました。さらに生まれながらに「てんかん」と言う持病を持っており、たびたび発
作に苦しまされたこともありましたが、飼育係の方々の献身的な飼育によってすくすくと育ち、人
工飼育の個体の生存記録を更新
し続けています。現在は体長2m、体重約320kgにまで大きくなったそうです。
大阪市天王寺動物園でも12月2日オスのホッキョクグマ「ゴーゴ」の誕生日会が行われました(実際の誕生日は
12月3日)。この日でゴーゴは3歳になり、大好物のサケ2匹がプレゼントされました。飼育員さんがサケを投
げ入れるとすぐさま美味しそうにたいらげたそうです。
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[画像撮影場所] 恩賜上野動物園