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ウマに
似た頭にチョコレート色の体、シマウマと同じ柄のおしりと足を持つ珍獣の中
の珍獣といえば写真のオカピさんです。オカピはその
お姿も非常に変わっています
が、住んでいるところもアフリカはコンゴ民主共和国の奥地のジャングルの中で、なんと20世紀の最初まで原住民の人々以外に
は、その存在すら知られていま
せんでした。このため彼らはジャイアントパンダ、コビトカバに並んで「世界の三大珍獣」の一つに挙
げられています。
オカピは現在でこそ、我が国を含め世界中の動物園で飼育されており、少しずつその生態についても明らかにされてきていますが、その発見にはたいへんな紆余
曲折がありました。
19世紀の終わりごろ、まだまだアフリカ大陸は暗黒大陸と呼ばれ未開の大地が広がっており、数多くの探検家がこの大陸に足を踏み入れました。その中で
1890年、アメリカ人のジャーナリストであり探検家でもあったヘンリー・スタンレーは、アフリカ大陸の中ほどにある当時のベルギー領である現在のコンゴ
民主共和国にある「イツリの森」
とよばれる奥深い森に足を踏み入れました。
そこで彼は原住民であるピグミー族と出合います。そのとき彼らは初めて見るはずのスタンレーの乗った馬を見ても驚きを示さず、かつてロバに似た動物が狩猟
用の落とし穴に落ちたものを捕まえたことがあるということをスタンレーに告げました。この時ピグミーたちはこの動物のことをオアピと呼んでいたとスタン
レーは彼の著作である「黒いアフリ
カ」の中で述べています。
スタンレーがこの話を持ちかえると、それを聞いたイギリス人の探検家ハリー・ジョンストンはこの動物をつかまえるために
1899年コンゴへと赴きました。
そしてジョンストンはピグミー族からオアピは茶色い胴体とともに、縞模様のあ
る下半身を持っているという説明を受けました。これにより彼はオアピは恐らく
森に住むシマウマの一種であると考えました。
更にその後ジョンストンはピグミー人からオアピのものであるという、縞模様のついた皮で作られたヘッドバンドを
手に入れます。これを彼は1900年、ロン
ドンの動物学協会にいたフィリップ・スクレーターのもとへと送り届け、現地の名前である「オカピ」という動物ものであ
ると伝えました。するとスクレーター
もこの縞模様を見てオカピはシマウマであると考え、発見者のジョンストンの名前を取り、Equus
johnstoni という新しいシマウマの種として学会に発表し
ました。
しかしその後ジョンストンはピグミーにオカピのものであるという足跡を見せられますが、そのひづめは二つに分かれており、一つしかひづめを持たないシマウ
マのものとは明らかに異なるものでした。そして更にジョンストンはメスのオカピのものであるという完全な毛皮と二つの頭骨を手に
入れ、1901年再びロン
ドンへと送ります。頭骨を見た科学者たちはオカピはシマウマではなく、ウシ科の仲間であるアンテロープの一種なのではないかと考え、更に詳しい研究の結果
1902年にはオカピは同じアフリカにすむキリンの近縁種で
あることが明らかにされました。
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(上)キリンの頭の骨
(中)オカピの頭の骨
(下)シマウマの頭の骨
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そんなこんなでようやくその存在が明らかになったオカピですが、その縞模様を見れば最初これがシマウマであると考えたのも無理はないですよねぇ。私もシカ
とシマウマの合いの子だと言われれば、ふんふんと納得してしまいます。ですが左に並べたキリン、オカピ、シマウマのそれぞれの頭の骨を見比べてもらえれ
ば、オカピの頭骨はキリンのも
のと非常によく似通っているのがお分かりになってもらえると思います。
オカピは現在生きているもので
唯一キリンと同じグループに分けられる動物ですが、キリンが草原で暮らしているのに対し、オカピは木々が密集した奥深い森の
中に住んでいて、その優雅な外見からか「森の貴婦人」とも呼ばれてい
ます。ちなみに「オカピ」というのはピグミーの言葉で「森の馬」という意味があるそ
う
です。
そして考古学的な研究からは、どうもオカピの方がキリンよりも古くからい居たらしく、もともと彼らの共通の祖先は森で生活をしていたといわれています。そ
の後その中でキ
リンが草原での生活に適応して、首が長くなったり、集団生活を行うようになったりする一方で、オカピの方は祖先と同じく現在でも森の中での生活を続け、キリンとは
逆に森の中で隠れて生活するのに適した体を保ち続けてきたと考えられています。このためオカピは「生きた化石」とも呼ばれてお
り、1000万年ぐ
らい前か
らその姿はほとんど変わっていないそうです。
オカピは現在コンゴ民主共和国の北東部にある熱帯雨林やガボンの一部でのみ見られますが、主に500〜1000mの少し高いところにすんでおり、時には
1500m近くに
まで登るのが目撃されています。かつてはコンゴの東にあるウガンダにも住んでいたといわれていますが、すでに絶滅してしまいました。
さすがに陸上で世界一背の高い動物であるキリンには及びませんが、オカピもかなり大型の動物で胴体の長さ1.9〜2.5m、肩の高さ1.5〜2.0mで体
重は200〜250kgになります。メスのほうがオスよりも大きくなり、
肩の部分で平均して4cm程度背が高くなります。
体の色は上半身は茶色い色をしており、下半身と足に白と黒のシマウマにそっくりな縞模様があ
ります。また顔とかかとから下の部分は白くなっており、足先に
は黒い模様が付いています。メスのオカピは茶色い部分がオスと比べて少し赤くなると言われています。またオカピの毛皮はビロードに似ており、非常に手
触りが良いそうです。
オスのオカピは頭のてっぺんに毛でおおわれた、2本の後ろ向きに生えた長さ15cmぐらいの角を
持っています。この角は軟骨でできており、下の方で頭の骨
と一つになっています。そしてキリンに似たオカピの特徴として、その
黒
くて長い舌が挙げられます。彼らはこの長い舌を使って、木の葉や芽をむしり取ったり、体をグルーミングしたりします。またオカピの耳は大きくて敏感に周り
の音を聞くことができます。
オカピはその歩き方も変わっていて、普通の動物のように踏み出す時に反対側の前足と後足を前に出すのではなく、キリンやラクダと同じように胴体の左右
同じ側面にある足を同時に出します(このような歩き方を側対歩といいます)。
オカピは草食動物ですので主に木の葉っぱや芽などを食べていますが、かなりそのレパー
ト
リーは広いみたいでおよそ100種類もの植物を口にするらしいです。
オカピの胴体にはなだらかな傾斜がついており前側が高くなっていますが、これは高いところにある餌を食べるためであると言われています。普段彼らはジャン
グルの中の決まった道を一日1kmというゆっくりとしたスピードで徘徊し、その途中で食べ物を探し歩きます。
彼らは木の葉っぱや芽のほか、草や果物、シダ、キノコ類などなんでも食べます。変わったところではオカピの糞を調べたところ、落雷によって焼け焦げ木炭に
なってしまった木が出てきたこともあるそうです。ちなみにオカピの食べる物の多くのものは人間にとって毒性があり、我々には食べることができません。また
彼らは塩分やミネラルをとるために現地の川のそばに見られる、硫黄を多く含んだ塩分の高い赤い色をした泥を食べることが知られています。
オカピは体が大きく、すごく警戒心が強いためあまり他の動物に襲われるということはないようですが、それでも時として天敵であるヒョウなどに襲われること
があるそうです。
オカピはなわばりを持つことが知られていますが、決まったなわばりを持つのはオスのみで、メスはあちこちのなわばりの間を自由に移動するという説もありま
す。彼らのなわばりは広く2.5〜5キロ四方にもなり、それぞれのなわばりは互い
に重なりあっています。このため1キロ四方には平均して1〜2匹程度のオ
カピしかおらず、それぞれのオカピは互いに離れて生活しています。またオカピは体をこすりつけたり、オスの場合であれば尿をかけて木などに匂いをつ
けてマーキングします。まれにオカピ同士が争う時には頭突きや蹴りをするのが知られており、争いに勝ったのものは首を高く伸ばし、逆に敗れたものは頭を下
げ服従のサインを示します。
オカピは鼻と耳が発達していて、それによって他の個体を確認しますが、他のオカピと出合ったときは「シュッ、シュッ」という音を出します。そしてオスは自
分のな
わばりに入ってきたメスと交尾を行います。もし一匹のメスを二人のオス同士が取り合う時には、オスはお互いに首を叩きつけ合って勝負をします。勝負に勝っ
たオカピはメスと交尾が出来るようになるのですが、その際それぞれのオカピは、まず互いに円を描いたり、匂いを嗅いだり、舐め合うことで求
愛行動を開始し
ます。そしてその後交尾が終わると、オスとメスはそれぞれ離れ離れになってしまします。
オカピの妊娠期間は425〜491日程度と大変長く、出産が
近くなったメスは森の奥の方に入って行き、そこで出産を行います。一度に産む子供の数は一匹だけで、出産の時期は8〜10月ごろであることが知
られていま
す。産まれてくる子供の大きさは体重がおよそ14〜30kgで、20分ぐらいするとお母さんのお乳を飲
み始め、30分後には一人で立ち上がれるようになりま
す。
そうして最初の一日か二日ぐらいは子供のオカピは母オカピの後ろをついて回って、自分が住む周りを見て回りますが、身を隠すのに適当な場所が見つかるとそこ
に巣を作って二か月ほどその中で暮らします。この間はオカピの子供はほとんど巣から出
てくることはなく、一日の大部分をじっとして過ごしますが、これに
よって子供は外敵から身を守り安心してお母さんからの世話を受けることができます。また子
育て
の間メスのオカピは非常に攻撃的になることが知られており、外敵が近づくと地面を足で踏みならして警告します。
この頃の子供はお母さんからの母乳で育てられますが、授乳される頻度はそれほど多くなく、ほとんど排便をすることがありません。授乳の回数が少なくて済む
のは、オカピの母乳には他の動
物と比べてたくさんの栄養が含まれているためです。そして子供の排便の回数が少ないことは、そのにおいを外敵に嗅ぎ付かれる危険が減ること
につながります。産ま
れてから6か月が経つと子供は徐々に乳離れをしていきますが、その後一年ぐらいの間はたびたび母乳を飲もうとするそうです。さらにオカピの子供は実際の母
親
だけでなく、近くにいる他のメスからも乳を飲むことがあるのが知られています。またオカピはあまり鳴くことがない動物ですが、幼い子供は咳や口笛に似た色
々な種類の鳴き声を頻繁に出すそうです。特に母親との距離が離れてしまった時には鳴き
声をだして親を探すことが知られています。
そうして一年ぐらいが経つとオスのオカピの間には角が生え始め、五歳ぐらいになるまで伸び続けます。三歳ぐらいになればオスもメスも大人と変わらない大き
さまで成長します。野生のオカピがどれぐらいの年齢で繁殖が可能になるかはよく分かっていませんが、飼育下ではオスで2年2か月、メスのオカピで1年7か
月で繁殖し始めた例が知られています。またオカピは比較的長生きする生き物で、寿命は30年以上になるそうです。
現在野生のオカピはコンゴ民主共和国にしか棲んでいないものの、その個体数が極めて減少しているというこ
とはなく、1933年からコンゴ民主共和国の法律
で保護されている他は、国際的に特別な保護などを受けてはいません。かつてオカピが発見されたばかりの頃の20世紀初頭には、動物園などで
展示するオカピを
輸送する際に、コンゴの奥地から何千キロにもわたって船や鉄道を使って移動させてきたため、その間に死亡することも多かったらしいのですが、現在では飛行
機が発達しておりそのようなことは少なくなっており、世界中の動物園でオカピを見ることができます。
ただオカピは棲んでいるところが本当にジャングルの奥深くであり、オカピ自身の警戒心も強いことから、現地で野生での研究を行うことは難しく、
彼らについ
て知られているほとんどのことは動物園における飼育下のものから得られたものです。従ってこれからもオカピのことをきちんと理解し、森林伐
採などによる生
息地の破壊に伴う数の減少を未然に防ぐためには、個体数などの把握jなどを含めた野生のオカピの研究が必要とされています。
ちなみにオカピは過去の研究によりその遺伝子がかなり他の動物と比べて変わっていることが知られています。通常我々人間も含めほとんどの動物の中で遺伝子
は細胞の中でDNAから出来た染色
体と呼ばれる小さな棒状の物質に記録されています。この染色体は通常の生き物では偶数本が1セットになっているのです(我々ヒトの場合は
46本)、オカピの場合は偶数
(46本)の個体もいるものの、それ以外は45本と奇数の本数の個体が多くなっています。本来染色体の本数
が奇数の生き物は子孫を
残すことができないため、オカピのように奇数の染色体を持ったものがこれだけ繁殖するのは非常に珍しく、遺伝学的にもオカピは非常に興味を持って調べられ
ていま
す。
執筆:2007年9月8日
[画像撮影場所] よこはま動物園ズーラシア
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