キタトックリク ジラ Northern Bottlenose Whale

頭でっかちクジラ
キタトックリクジラ画像1
キタトックリクジラ模型
キタトックリクジラは南はカナ ダ沿岸やヨーロッパ北岸から、北は北極近くまでの北大西洋一帯 に棲むクジラの仲間です。

キタトックリクジラの一番の特徴は右の写真でも分かるとおり、大きく出っ張ったそのおでこで、 特にオスのものは年齢とともに出っ張りが激しくなり、色が黄色みを帯びた白い色になっていきま す。また彼らはイルカににたクチバシを持っており、この形がお酒を飲むときに使う「徳利(とっくり)」に似てい ることから、和名が付けられました。彼らはハクジラ という歯を持つクジラの仲間に分類されますが、キタトックリクジラの歯はかなり退化しており、オスが下あごの先に1〜2本の小さな歯を持つのみで、メスの キタトックリクジラには完全に歯はありません。

キタトックリクジラは円筒形の非常にがっしりとした体を持ち、オスの方がメスよりも大きくなります。 キタトックリクジラの体の大きさは全 長6.7〜7.6mぐらいですが、これまで知られている最も大きかったものとしては9.8mもあったオスの個体の記録が残っ ています(メスの場合の最大全長は8.7m)。また体重は5.8〜7.5tぐらいだ とされています。

キタトックリクジラの体の色には個体差があり、緑がかった茶色からチョコレート色、もしくは灰色に近い色になることもあります。さらに全身には白やチョコ レート色の斑点がちりばめられており、側面や腹側は背中側と比べて明るい色をしています。またメスの方がオスよりも明るい色をしています。

彼らの背中の後ろ側、しっぽから体の3分の1ほどのところには、長さ30〜38cmぐらいの小さな鎌のように後ろに曲がり先端がとがった背びれが付いてい ます。また胸びれは体に比べて小さく、尾びれにはイルカのような中央のV字型の切れ込みはみられません。

大きな頭の秘密
キタトックリクジラ画像2
キタトックリクジラの模型と骨格
キタトックリクジラの主な食べ物はイ カですが、その他にもナマコやニシン、コウイカ、ヒトデなどを食べることが知られています。獲物を捕るときはその長い クチバシを使い、中にある舌をピストンのように動かすことで、砂ごと口の中に吸い込んで食べます

彼らが普段生活したり獲物を捕るのは数 百m以上の深い海の底で、このためキタトックリクジラは非常に長く海の中に潜ることができ、潜水時間は70分にも及びます。中 にはなんと1453mも の深さまで潜った例が知られています。

多くのクジラやイルカと同様にキタトックリクジラは我々の耳には聞こえないぐらい非常に高い音である超音波を出すことが出来ます。 さらに彼らの持つ大きな 頭の大部分は脂 肪がつまった「メロン」と呼ばれる器官から成り、これをつ かってこの超音波を増幅し、さらに前方に集中して出すことが出来ます。彼らはこの 超音波をソナーのよ うにして使い、反射されてきた 超音波をもとに、例え光のほとんど届かない真っ暗な深海の中でも獲物の位置を正確に知ることが出来ます

キタトックリクジラは回遊性のクジラであり、春と夏の初めごろは北極に近い北の海で過ごし、その後は南下して暖かい海で冬を越します。しかし回遊性のクジ ラの中では移動速度はそれほど速くなく、1日に4kmほどしか移動しません。またこの中でカナ ダノヴァスコシア州の沖にあるザ・ ガレーと呼ばれる海底が深くなった水域には130頭ほどのキタトックリクジラが一年を通して定住しており、ここでは彼ら に対する多くの研究が行われています。

彼らは普段群れで行動し、普通群れのサイズは4〜10頭ほどですが、まれに25頭もの大きな群れを作ることもあります。メスや子供、若いオスは行動をとも にしますが、大人のオスはしばしば彼らだけの群れを作って移動することが知られています。

キタトックリ クジラの繁殖期は毎年春から夏の初めにかけてで、一頭のオスが複数のメスと交尾を行う一夫多妻制の繁殖方法を取ります。それぞれのメスは 2〜3年に一度交尾を行い、一年の妊娠期間を経た後、4〜6月頃に子供を出産します。子供は産まれた時点ですでに3.5mもの大きさがあり、 チョコレート色の体をしていて、1歳ぐらいま では母親に世話されて育ちます。キタトックリクジラはオスの場合は7〜9歳(全長7.3〜7.6m)、メスは8〜14歳(6.7〜7m)ぐらいまで成長す ると完全に大人になり、繁殖を行うようになります。そしてこれまで行われた研究によるとキタトックリクジラの寿命は37年ぐらいであるといわれています。

北と南のトックリクジラ
キタトックリクジラは大西洋の北側に見られますが、逆に南半球の高緯度地域には非常によく似たミナミトックリクジラという別 の種のクジラが棲んでいます。この2種類の生息域は大きく離れているもの非常に近縁な関係にあるることが分かって おり、遺伝学的な研究によると彼らが別々に分かれたのはわずか数千年前の ことであるといわれています。キタトックリクジラとミナミトックリクジラの見た目は非常に似ていますが、キタトックリクジラの方がわずかに大きく なるようです。

19世紀の中 頃から捕鯨技術が発達すると、主にノルウェーやイギリス、ロシア(旧ソ連)の捕鯨船によって多くのキタトックリクジラが捕まえられるようにな りました。彼らの大きな頭には非常に良質の油が大量に含まれており、またその肉も食用として用いられることから、当時キタトックリクジラの 需要はかなり高 かったのではないかみ見られます。また彼らはゆっくりと動く船の周りをぐるぐる回る習性があり、さらに群れの傷ついた仲間を守ろうとする行動から最も狩り の簡単なクジラの一種とされていました。

これにより世界で8万8千頭も のキタトックリクジラが捕まったといわれており、もともと4〜5万頭しかいなかった彼らの 数は激減してしまいました。しかし1973年に彼らの捕鯨が全面的に禁止され、さらにワシントン条約や各国の法律でも厳重な保護がなされる ようになり、その後の彼らの生息数は順調に回復に向かっているようです。現在のキタトックリクジラの生息数は数万頭程度であると見積もられています。

ハクジラやイルカの仲間はときどき集団で浜辺に乗り上げるストランディングと呼ばれる行 動を取ることが知られていますが、キタトックリクジラについてはこれまでほ とんどストランディングの例は知られていません。しかし2006年1月20日に一頭のキタトックリクジラがイギリスのテムズ川をさかのぼ り、ロンドン中央部にまで迷い込んできました。このクジラにははしけに乗せて海まで戻そうと必死の救命活動が行われましたが、残念ながら翌21日に突然死 んでしまったそうです。

執筆:2008年5月31日

[キタトックリクジラ模型画像撮影場所] 名古屋港水族 館

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