ザトウクジラ Humpback Whale

ジャンピングホエール
ザトウクジラ画像
北極海から南氷洋まで世界中の大洋に住んでいるザトウクジラはその特徴的な姿と、写真 のようにダイナミックな動きを することからホエールウォッチングなどでは非常に人気の高いクジラのひとつです。

彼らはシロナガスクジラなど大型のヒゲクジラが属するナガスクジラ科とういうグルー プに分類されますが、彼らの大 きさは通常のもので長さ12〜14m、体 重は25〜30トンになります。特に大きな個体は長さ18.9m、体重は48トンに もなったといわれています。ザトウクジラは水面から体全体が出るほどの 勢いで飛び上がり、激しい水しぶきを上げながら着水するジャンプ(ブリーチング)で有名ですが、 こんな巨体がボートの上にボディプレスしてきたら一巻の終 わりですねぇ。またホ乳類の仲間では珍しくザトウクジラはメスのほうがオスよりも大 きくなることが知られています。

寒いところにも移動するザトウクジラの体の下には分厚い脂肪の層が備わっていますが、ナガスクジラ科の中ではシロナガスクジラ についで分厚く、体に対する 脂肪の量は最も多くなっています。彼らの脂肪の層の分厚さは一年を通して変化し、また年齢や生理的な状態によっても変化するといわれていま す。

ザトウクジラの体は全体的に黒もしくは青味がかった黒をしており、おなかのほうは白くなっています。この腹側の白い部分は個体によって差があり、完全に 真っ白になっているものもいれば、白に混ざって黒い模様があるものもいます。彼らは他のヒゲクジラと比べて非常に長 い胸ビレを持つことでも有名で、その大 きさは長いものでは4.6mに達し、体全体の3分の1ぐらいの長さになります。長い割には若 干細めのこの胸ビレもやはり一般的には上側は黒く、下側は真っ 白になっていますが、物によっては下側にも若干黒い模様が入っていたり、完全に真っ白な胸ビレを持っていたりもします。

またザトウクジラは尾ビレも特徴的で大きく、翼のような形をしており、ふちがギザギザになっています。尾ビレの下側には黒と白の模様がついているのです が、この模様は個体ごとに特徴 的な形をしており、ホエールウォッチングやクジラの調査をするときにはこの 尻尾の模様を見てそれぞれの個体を見分けることが 出来ます。またこれらの大きな胸ビレや尾ビレとは対照的に彼らの背中には30cmぐらいの小さな背ビレを持っており、三角形もしくは鎌のよ うな形をしてい ます。

ザトウクジラの頭はナガスクジラなどと比べると丸みを帯びて比較的つるっとしており、口の周りと下あごには無数の小さなこぶが並んでいます。またのどにあ るヒゲクジラ特有のひだひだは12〜36本と他のクジラに比べると小さく、ひだひだ同士の間隔も広くなっており、このような特徴から同じナガスクジラ科の クジラたちとは異なるザトウクジラ属という属に分類されてい ます。(属は科を更に細かく分類したもの)

ところでクジラはもちろんホ乳類の仲間なのですが、海洋での生活に適応しきっているため、他のほ乳類のように体毛は生えていません。しかし、ザトウクジラ の顔にある小さなこぶには『感覚 毛』と呼ばれる毛が生えており、彼らはこれを使って水流を感知すると いわれています。また彼らの嗅覚は非常に退化してお り、ザトウクジラがにおいを感 じるかどうかは微妙であるとも言われています。また彼らの眼はとても小さくなっていますが、 こ れは深くもぐった時に水圧に負 けないようにするためであると考えられています。

背むしのクジラ
そんなわけでその姿形がほかのヒゲクジラたちと比べてかなり変わっているザトウクジラ 君なのですが、彼らの行動もまた非常に興味深いものとなっています。彼らは普段6〜7分ぐらい水面に潜りますが、長く潜水するときには大体15〜30分ぐ らい水の中にいます。水に潜る とき彼らは背中を大きく曲げ、潜水が深いときには水面から尾ビレを高く持ち上げて潜っていきます。ザトウクジラの英名は 『Humpback Whale (背むしのクジラ)』といいますが、これはこのときの背中を曲げるしぐさを表 したものであるといわれています。

一方日本語名は漢字で書くと『座頭 鯨』となり、この名前の由来については色々な説があります。まず言われているのが彼らの丸みを帯びた体が、その昔『座 頭』と呼ばれる琵琶(びわ)を弾く人が持っていた琵琶に似て いるためそれに由来するのだという説。また彼らが海岸近くに来たとき、水面から出た彼らの体が 大きな頭だけを外に出して座っているように見えることから『座頭』の 名前がついたとも言われています。また彼らの学名はMegaptera novaeangliaeといいますが、これは『大き な羽を持ったニューイングランドに住むもの』という意味であり、ドイツ人の自然学者であったボロウスキーによって付けられました。この名は彼らの大きくて 長い胸ビレと、初めて彼らが目撃された地域のひとつであるアメリカのニューイングランド地方をもとにしています。

ザトウクジラの潮吹きは高さ3mに及ぶこともありますが、まっすぐ潮が伸びることは無く、霧状に噴出されます。この特徴的な潮吹きの仕方を見て、遠くか らでも彼ら の居場所を知ることが出来ます。

ザトウクジラ達は主に水面から50m以内の浅いところにいる、オキアミのようなプランクトンやニシン、イカナゴ、カラフトシシャモ、サバ、スケトウダラ、 タラ、イワシ、カタクチイワシなどの小魚を食べて生活しいます。彼らは他のヒゲクジラと同様に餌を食べるときは周りの水ごと口の中に獲 物をいれ、大きなク ジラヒゲを通して水を吐き出すことにより獲物だけをこしとって食べています。このとき飲み込まれる水の量は数トンにも及び、一匹のザトウクジラは 540〜800本もの黒っぽい色をした太い毛の生えているヒゲ板を持っていて、長いものは80〜100cmにもなります。

彼らは食事の方法もダイナミックであり、ジンベイザメのようにのんびりと泳ぎながら口の中に入ったものを食べるのではなく、突 進するように大口を開けながら獲物の群れの中に突っ込んできます。このとき勢いあまって水面の上にまで飛び出すことがよくあり、爆弾が爆発 したような水し ぶきを上げて巨大な口が現れます。また彼らは餌を取るときに『バブリングネット(泡の網)』と 呼ばれる手法をとることでも知られています。

バブリングネットを作る際には、まず一匹もしくはそれ以上のザトウクジラが獲物の群れの下に潜ります。その後群れの周りを回る形で円を描きながら泳ぎ、そ れとともに蒸気エンジンのような音を出しながら、泡を連続的に吐き出します。するとらせん状の泡のカーテンが獲物の群れを取り囲み、獲物はらせんの中心へ と追いやられてしまいます。そして最初に吐き出した泡が水面に達するとクジラ達は泡を吐くのをやめ再び獲物の真下に戻り、今度は口をあけて泡のらせんの 真ん中を猛烈な勢いで泳ぎ、逃げ場の無い獲物を一網打尽に食べてしまいます。(大きいだけじゃなく、頭も良いですね、 彼ら。)他にも口を開けながら仰向けに なって泳ぎ、水面を尻尾で叩くことにより獲物を空中に舞い上げ、それを口の中に放り込むとも言われています。

ザトウクジラの食べ物は他のナガスクジラたちと同じものであり、同じ水域に居るものは互いに餌を取り合うことになります。またミンククジラはザトウクジラ の近くを泳いでいるところが比較的数多く目撃されています。

ザトウクジラはその体の大きさから人間以外には彼らを食べる捕食者は居ないと言っても良いのですが、時折シャチによって攻撃を受け恐らく殺されてしまうと 考えられています。また死んでしまったザトウクジラの死体はサメなどが群がることが知られています。

[画像提供] Don Getty様(アメリカの写真家さん)

Don Getty's Wildlife and
Nature Photography Gallery



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