動物番組でお馴染み、
なぜかいっつもライオンさんやチー
ターさんに襲われるところばかりが
TVでてくる気がするシマウマさんですが、アフリカには大きく分けて3種類のシマウマが住んでいます。その中でこの
グレビーシマウマは最も大型のシマウマ
で、人間に飼われて品種改良が進んだウマを除くと、自然界における全ウマ科
の動物の中でも最大の体を持っています。
どのぐらい大きいかというと彼らは
全
長が2.5m〜3mもあり、
背の高さは肩の所で1.25〜1.6m、
体重も350〜450kgに達
します。シマウマらしくその全身は黒と白の縞で覆われていますが、グレビーシマウマ
は他のシマウマよりも縞の幅が狭く、首と脚先の部分で広がっているのが特徴です。またお腹と尻尾の付け根の場所だけは縞がありません。
なぜシマウマに縞があるのか、その理由は主に
カモフラージュのためだといわ
れています。つまり
シマウマ同
士が一か所に固まったり、また茂みの中に入ったりすると周りの
景色に縞模様が溶け込み、輪郭がぼやけて敵から見つかりにくくなるというわけなのです。「いくら縞模様があっても色が白と黒では緑の草むら
の中じゃ目立つ
んじゃない?」と思う人もいるかもしれませんが、実は多くの動物は色を認識することはできず、白黒の濃淡だけでものを見ているので、黒と縞模様だけで十分
動物たちの目からは隠れることが出来るというわけなのです。その他にこの縞はシマウマの個体同士がお互いを識別するのに使われているという説もあります。
また彼らは他のシマウマと比べて大きな耳と長いたてがみを持っているのも特徴です。大人のグラビーシマウマには肩のあたりまでたてがみが生えていますが、
子供の頃はもっと長く、背中の後ろの方にまで伸びています。
ところで彼らの名前の
「グレビー」と
いう言葉にはほとんどの人が聞き覚えがないと思いますが、実はこれは
19世紀にフランス大統領であったジュール・グレビー(Jules Grévy)の名にちなんでつけられ
たものです。歴史を紐解くと
1882年に現在のエチオピアであるアビシニア政府から、グレビーのもとへ一頭のシマウマが送られたことが記録に残っており、なん
と
この時初めてグレビーシマウ
マの個体が世界的に確認されたのだそうです。
グレビーシマウマが見られるのはケニアやエチオピア、ソマリアといったアフリカ大陸の東側の国で、半砂漠の乾燥地域や草原などに見られます。草食動物であ
る彼らは主に草を食べて生活していますが、その他にも木の小枝や木の皮、果物なども食べます。グレビーシマウマ達は一日のうち60〜80%の時間を食事を
するのに費やして生活しています。また彼らの消化器官は非常に発達していて、他の動物たちよりも栄養価の低い食べ物でも十分生き延びることが出来ます。さ
らに乾燥した環境に適応した彼らはほとんど水を飲まなくても生活することが出来、飼育下でも他の草食動物と比べて水を飲むことは少ないようです。
普通
オスのグレビーシマウマは
自分だけのなわばりを持ち、単独行動を行い、その中にいるメ
スと繁殖を行います。
オスのなわばりは2.7〜10平方キロメートル(東京ドーム50〜200個分!)もの広さがあり、草食動物の持
つなわばりとしてはかなり大きなものです。彼らは糞を使ってマーキングを行い、ここが自分のなわばりであると主張します。一方で特に老齢の
ものなどにはなわばりを持たずに生活する者もいますが、そのような流れ者がなわばりに侵入してきても、特になわばりの主であるオスは彼らを追い出したり、
攻撃することはありません。
一方
メスのグレビーシマウマは
メス同士と彼女たちの子供からなる群れを作ることが知られていますが、
オスのように特定のなわばりは持たず、あ
ちこちを自由に移動することが出来ます。またまれになわばりを持たないオス同士も小さな群れをつくることもあるそうですが、オスもメスも彼
らの群れの結びつきは他のウマの仲間と比べてそれほど強くなく、短い時間だけ一緒に過ごすものが多いようです。このような習性は他の種のシマウマよりは、
どちらかというとロバのものに似ており、他にもなわばりをめぐって争う時にオス同士が大きな声を出すことなど、いくつかの点でグレビーシマウマとロバの間
には共通点があると指摘されています。
メスのグレビーシマウマは20〜30日に一度発情期を迎え、メスのいる地域になわばりを持つオスとだけ交尾を行います。
グレビーシマウマの妊娠期間は非常に長
く、メスは400日以上にわたって子供をお腹の中で育てます。
一回の出産で産まれてくる子供は大抵一匹だけで、体重はおよそ40kgぐらいです。出産が行われるのが最
も多いのは8〜9月ぐらいですが、グレビーシマウマは一年中繁殖を行うことが出来ます。
出産直後の子供は他の肉食動物たちに狙われる危険性が非常に高いため、なるべく早く自分の足で立って歩けるようになる必要があります。このため
グレビーシマウマの子供は産まれてから
15分以内にはもう立つことが出来るようになり、30分で歩き始め、45分以内には短い距離であれば走れるようになります。
また
産まれたばかりのグレビー
シマウマの子供たちは動くものなら何でも付いて行き、さらにそれを自分の母
親と思いこんでしまう習性があります。これは
「刷り込み(すりこみ)」とい
う現象で、特に鳥類などで見られる性質です。この刷り込みの習性があることから、出産後数時間の間母ウマは自分の子供に他のものが近づくことを非常に嫌
い、特に他のメスウマに対しては非常に攻撃的になり、これによって産まれてきた子供が間違って、自分の母親以外のものについて行くことを防いでいます。
産まれた後、子供のシマウマは9か月あまりをお母さんの母乳で育てられます。グレビーシマウマの棲んでいる地域は比較的乾燥しているところが多く、母ウマ
はあまり頻繁には母乳を与えることが出来ないため、一度ミルクを子供に飲ませると次の授乳まではしばらく間を空けます。こうして
4歳ぐらいになるとオスもメスも大人になり繁殖を行うようになります。
グレビーシマ
ウマの寿命は野生のもので最大18年ぐらいだ
といわれていますが、
飼育下の
ものはさらに長生きし、30歳まで生きた例が知られています。
古くから彼らと同じ地域に住んでいる人々には、伝統的にグレビーシマウマを狩ってその肉を食べ、また皮を生活用品として利用してきました。このためこの地
域の人にとって、グレビーシマウマはとても重要な生き物であるといえます。またグレビーシマウマの模様は
シマウマの中ではもっとも美しいと
いわれ、
そのため彼らの毛皮は
とても貴重なものとして非常に高値で取引がされてきました。しかしそれにより、
彼らの皮を得ることを目的とした商業的な
狩りが大規模化し、グレビーシマウマの数を激減させてしまう結果を招いてしまいます。このため
現在野生にはわずか1500〜2000頭のグレビーシマウマしか生き残っていません。
このような状況を受け、現在彼らの棲む国々でグレビーシマウマの狩猟は禁じられていますが、各地の環境破壊による生息地の減少や、人間の飼う家畜が彼らの
食料である草を食べ尽くしてしまうことなども彼らの生活を脅かしており、更なる危険性が指摘されています。このため
世界自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、彼らは絶滅危惧動物と指定され国際的な保護の対象となっています。
執筆:2008年2月23日
[画像撮影場所] 多摩動物公園
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