南アメリカ大陸アマゾンの熱帯雨林にはオニオオハシと呼ばれる、非常
に豪華で美しい
クチバシを持った鳥達が棲んでいます。明るい黄色やオレンジ、赤い色で彩られたクチバシは正にアマゾンの宝石と呼ぶにふ
さわしい美しさを誇っています。
あまり『オオハシ』と
聞いてもピンとこない人が多いかもしれませんが(ぢつは私自身最近までそうだった…。)、右の写真を見ていただければ『ああ、こい
つのことか。』と思い出していただけると思います。彼らはギアナからブラジル、アルゼンチン北部の熱帯雨林の『林冠』(熱帯雨林の木の上のほうの部分)に棲んでいます。
『オオハシ』という名前はもちろん彼らの大きなクチバシのことをあらわしているのですが、彼らの仲間は結構たくさんいて、オオハシ科に属するものには37種
が知られています。その中でもこのオニオオハシ君は最大の大きさを誇る種類で全長60cmを超え
る体を持っていています。
またカラフルなのはクチバシだけでなく、
その体も胸側の白と背中側の黒ではっきり
と色分けされており、目の周りの皮膚も明るいオレンジ色をしています。また丈夫で短い脚には大きなうろこが並んでおり、その先には枝をつか
みやすいように前と後ろを向いた立派な爪のある指が二本づつ生えています。そして体の後ろには四角い形をした長いしっぽが付いています。オスとメスの間で
その姿にはあまり差はありませんが、
地域ごとに若干異なる形態をしたものが確
認されているとのことです。
ただでさえ綺麗なのに大きさも迫力があるとなると人気が出るのは当然のことで、ペットショップで販売される鳥さんの中でも注目の一品となっております。
その値段なんとアメリカでは平均
300ドル(約32,000円)もするとのことです(調べてみたところ日本のペットショッ
プでは更に0が一つ多くなってい
るんですがどうしてなんでしょう?)。大抵こんな風にペットとして人気のある動物達は乱獲されて数が少なくなってしまうものなのですが、彼
らどうも例外っ
ぽくって別にふるさとのアマゾンで絶滅に直面しているということは無いそうです。 ただ一応獲り過ぎるのは良くないということで、ワシントン条約は保護されています。
またアマゾンに行っても別に果てしない森をかきわけていかないと辿り着けないような奥地に住んでるわけではなく、開けた森や川の近く、ときには農家の周
りなどの木々の上のほうに棲んでいて、人が住んでいるところの近くにちょこちょ
こ姿を現します。なので旅行者にも人気があり、なかなかサービスが良かったりもします。
また彼ら姿も目立つことながら、その鳴き声も結構うるさかったりもします。普
段彼らは複数の家族が合わさった、5〜6羽ぐらいの集団で生活するのですが、普通に座ってる分には花や果物のカラフルな色にまぎれて隠れることが出来るの
に大きな鳴き声を出すためあっさりと見つかったりします。その声がどのぐらい大きいかというと800m離れたところでも聞こえると
いうから大したものです。
彼らは普段高い木の枝の上にとまって、ぴょこぴょこ飛び移りながら生活していますが、たまに羽根を数度羽ばたかせた後で滑空する姿が見られます。ですが
あまり長い距離を飛ぶことは無いみたいです。夜になると木の幹に空いた巣穴にみんなで
入って寝るそうなのですが、ただでさえ狭い巣穴に大きな彼らが5羽
も6羽も入ってしまうとぎゅうぎゅうになってしまいます。そこで彼らは首を180度後ろに回転させて大きなクチバシを背中にくっつけた後、
長いしっぽを上に向けてこれも胴体に密着させた形でなるべくスペースをとらないようにして眠るそうです。しかしその姿はまるで『羽毛のボール』のように
なってしまうんだとか…。こ
のへんも結構キュート?
気にするなといわれても、気になってしまうのが彼らのクチバシ。これだけ
大きいんだからさぞかし重要な意味がるんだろうと思われるかもしれませんが、いまいちこれがなんの役に立っているのか
良くわかっていないそうです。一説にはオスとメスの間の求愛に用いられるとか仲間同士を区別するのに使われているとかいわれていますが確か
な証拠はありません。
また外敵に襲われたときこのクチバシを武器として使って敵を攻撃すると言うことは無く、主に威嚇のための手段として用いられるそうです。そしてかなわな
い相手だと思うと、彼らはさっさと巣穴へと逃げ込むそうです。『オニ』という名前が付いてる割には結
構臆病なのね…。また仲間同士でクチバシをくっつけあって相撲のように押し合うような遊びをすると言われています。
ですが、このクチバシにはすごいところもありまして、例えばクチバシを割ってみるとその内部構造は『ハニカム構造(ハチの巣のように六角形の穴
が並んだ構造)』をしています。これは大きなクチバシが重くなりすぎて飛
べなくなるのを防ぐための工夫で、こうすることによって彼らは20cm近くもなるクチバシを
持つことが出来ます。
彼らは基本的には果物を食べて暮らしていることが知られています。んで
もって大きな彼らが留まることが出来ないような細い枝に生えた実でも、近くの枝から立派なクチバシを伸ばすことによって食べることが出来ます。更に彼らは
結構器用でこのクチバシで果物の皮をむいたり、泥の中を探ったり、木に穴を開けたりといろんなことをします。(じつはオニオオハシはキツツキの仲間に近いそう
です。)
このクチバシからするとそのご
飯の食べ方も『さぞかし豪快?』と思ってしまいそうですが、餌の果物を丸呑みしたりはせず細かくちぎって食べるそうです。ただ飲み込むとき
にはクチバシが邪魔になるらしく、餌をクチバシの先にくわえ、頭をのけぞらせてクチバシを真上に向けた後、口の奥へとすべり落として食べるそうです。水を
飲むときも同じように奇妙な格好で飲むそうなんですが、勢いあまって奥のほうに入りすぎて『ゲ
フッ!!』となることはないんですかねぇ…。彼らの食事は昼間の間に限られていますが、植物性のものだけでなく、トカゲや他の鳥のヒナ、そ
して卵などを食べることがあるそうです。
求愛の時期になるとオスとメスは互いのクチバシをつかって果
物を投げあうようなゲームをします。この儀式が終わると交尾を行い、メスは巣穴の中に2〜4個の真っ白な卵を産み落
とします。繁殖期は地域によって異なりますが、彼らは何年間にも同じ巣穴を使うこ
とが知られており、一年に一回だけ子育てを行います。16〜20日後卵はかえりますが、オニオオハシはオスとメス両方が一生懸命
子育てをすることがわかっています。
生まれたばかりの雛は羽毛は生えておらず、目も開いていなくて、クチバシも下側のほうが上のものより大きくなっており、ぱっと見ただけではオニオオハシ
の子供とはわからないような姿をしています。しかし3週間ぐらいすると目が開き、更に数ヶ月後には親と同じ立派なクチバシと鮮
やかな羽毛を持つようになります。また彼らの巣穴は結構ごつごつしていてそのままではヒナの脚は傷だらけになってしまうのですが、子供のオ
ニオオハシはその脚に固い板状の部分を持っており、これをつかって巣の中でも元気に暮らすことが出来ます。そして大人になる頃にはこの板は無くなってしま
います。(つまりこれが無くなることが、大人になった印という訳です。)
ヒナは巣立ちを迎える生後6週間ぐらいまでは親鳥によって育てられますが、オニオオハシの寿命はおよそ10年程度といわれています。
その姿から人気者の彼らですが、南アメリカや中央アメリカの部族の間では
古くから特別視されており、多くの部族でトーテム像と呼ばれる木彫りの
像には彼らの姿を見ることが出来ます。これらの部族の間では彼らは部族共通の祖先を象徴するとされており、また祈祷師が霊界へと旅するときにはオニオオ
ハシに姿を変えて飛んでいくと信じられています。
その一方でオニオオハシは悪
魔とも関係があるといわれています。アメリカ大陸の一部の部族の間では、妻が妊娠・出産を迎えると、その夫も普段行っているいろいろなこと
をあえて禁じたり、分娩の苦しみを分かち合うために象徴的に苦しみを演じたりする『擬娩』と呼ばれる風習があります。このような部族の間では新しく生まれてくる子供に呪いがかかって
しまうとして、父親にオニオオハシの肉を食べるのを禁じています。
古くから人々の注目の的となっていたオニオオハシ君ですが、近代に入ってもその魅力は損なわれることは無く、あのシリアルで有名なアメリカのケロッグ社も30年前から商品のキャラクターとして彼らを使っているそ
うです。
にしても愛嬌がありますねぇ、彼。ひとつうちでも飼ってみようかしら?あ、そんなお金なかったや。