ツルと言えばこれ!というぐらい、真っ白な美しい羽毛に黒い模様をもち、頭
のてっぺんには赤いアクセントがある姿をしているのがかの有名なタンチョウさんです。
タンチョウは主に日本や中国、
韓国、朝鮮民主主義人民共和国、ロシアなどの東アジアを中心とした地域に分布しています。そのなかでもっとも数多く分布して
いるの
が、我が日本の北海道で、なんと全世界の4分の1のタンチョウが暮らしています。また他の地域に棲むグループは渡りを行い、夏
は中国の東北部などで暮らし
ますが、冬になると黄河周辺や朝鮮半島に南下してそこで越冬します。しかし北海道にすむものは一年を通して同じ場所
で生活し、渡りをすることはありませ
ん。北海道では特に釧路湿原などに見られます。
タンチョウは非常に水と関係が深いツルで、水中の生き物を多く食べるため、水辺でよ
く見られます。特に繁殖期である春と夏には湿原や、川、湖や沼、海岸などで生活し、冬に渡りをした先では湿原や水田、川や沼、干潟などで見
られます。また冬にはタンチョウを餌付けしている村などに群れで飛来することもあります。
彼らはツルの中では非常に大型で、背
の高さ140cm、体
重は9.5kgになりますが、これまで知られているもので最も重かったオスのタンチョウは体
重15kgになり、背の高さではオオヅルに負けるものの体の重さでは数あるツルの中で最大になっています。また羽を広げた長さも2.4mにも
なり、真っ白
な翼を思いっきり開いた姿は迫力満点です。
ところでよく「鶴は千年、
亀は万年」と言われ、長寿の代表格みたいに言われていますが、それはさすがに大げさとしても彼らは鳥類の中ではかなり長生きな部
類に入ります。野
生のタンチョウは大体30年ぐらいの寿命ですが、飼育下のも
のは平均50年ぐらいまで生き、最も長かったもので65歳まで生きたタンチョ
ウの記録も残されているそうです。このツルは長生きと言うイメージは中国でも同様で、不老不死の仙人がタンチョウに乗った姿で描かれた絵画
が数多く残され
ています。
彼らの体の大部分は真っ白な羽毛に覆われていますが、顔と首、先端の部分の羽根は黒くなっています。また頭頂部が鮮やかな赤い色をしていますが、これは羽
根でなく地肌が露出したものです。タンチョウという名前は漢字で書くと「丹頂」になり、これは頭のてっぺんが赤い(丹とは赤のこと)と言う意味で、正に名
は体を表しています。そしてなんとこの赤い模様はタンチョウが怒ったり、興奮すると2倍ぐらいに大きくなるそうです。またタンチョウはオスとメスであまり
大きな差はありませんが、オスよりもメスの方が黒い部分の色が薄くなります。
我々には大変印象深いこの姿ですが、昔話の「ツ
ルの恩返し」の絵本を見ると、そこに出てくるツルはたいていこの姿で描かれ、タンチョウをモデルにしたものがほとんどで
す。この美しい姿のため、タンチョ
ウは絵画を初めとして様々な場面で用いられており、D券と呼ばれる夏目漱石が描かれた旧千円札の裏にも2羽のつがいのタンチョウが描かれていました。
この
美しい羽毛を保つには彼らが日常的に行う毛づくろいが重要で、タンチョウはしっぽの先端から分泌される油を、体中の羽根に塗ってこまめに手入れを行ってい
ます。
タンチョウは非常にとがって鋭いくちばしを持っていますが、これは水中の獲物をついばむのに大変適しています。彼らは小川や湿地帯などの水の中をゆっくり
と歩きながら、水の中にいる獲物を取ることができ、他のツルと比べて深いところにいる獲物を取ることができます。
ちなみに良く花札の絵柄等で木の枝にとまったタンチョウが描かれていますが、彼らの指の一本はかなり上方に付いていて、残りの3本の足の指は全て前を向い
ているため、本来は木の枝にと
まることはできません。多分昔タンチョウの絵を描いた人が勘違いして枝にとまった姿で描いてしまい、それがそのまま現在まで引き継がれてし
まったのだと思います。
彼らが食べるものには、昆中や水中の無せきつい動物、魚、両生類やネズミの仲間などの小型の動物が含まれます。またタンチョウは植物性のものも食べ、水辺
に生えているアシや下草、木の実やトウモロコシまで食べて暮らしています。
彼らは春と夏になると繁殖を行いますが、タンチョウの夫婦はとても仲良しで、その年の繁殖シーズンの間は一緒に寄り
添って子育てを行います。この絆は大変
強く、たいていは次の年も同じ
相手とつがいになり、どちらかが死んでしまうまで何年も一緒にいることもよく見られます。タンチョウはまたその求愛のダンス
が美しいことでも知られ、お辞儀をしたり、頭を素早く上下させたり、小さくとび跳ねたりする動作を組み合わせて行います。またダンスの途中
でオスが空に向けて大きな鳴き声を上げると、メスもそれについて鳴く姿がよく見られます。
メスは枯れたアシの中に作られた巣の中に毎年2つの卵を産み、それぞれ一か月ぐらいするとほぼ同時に
孵化します。孵化したひなは褐色の羽毛に覆われてお
り、2〜3日すると巣から離れ、親の後について歩き回り始めます。子育ては夫婦一緒に行われ、主にオスが周りの外敵を警戒して家族を守り、メスが子供たち
に餌を運びます。それぞれの夫婦は数平方キロメートルに及ぶ縄張りを持ち、その中でそれぞれの子育てを行います。子供の頃のタンチョウの鳴き声はとて大き
くて甲高く、身の危険を感じると親が遠くにいてもそのことを知らせることが出来ます。
そんな中、毎年タンチョウには一度に2匹の子供が生まれますが、多くの場合は残念ながらその内の一匹しか
巣立ちを迎えることができず、片方は死んでしまい
ます。
こうして70日ぐらいすると巣立ちの時期を迎え、100日ぐらいで親と同じぐらいの大きさになります。さらに産まれてから一年ぐらいがたつと羽も完全に生
え換わってタンチョウ独特の美しい姿になり、2〜3年で完全に大人になって繁殖を行うようになります。
繁殖期には夫婦、もしくは子供とだけ暮らす彼らですが、冬の間は眠るときなど大きな群れを形成することがあります(ちなみに寝るときは片足で立ったまま眠るそう
です)。また繁殖期でも繁殖を行わない若鳥は小さな群れを作ることがあります。
ツルの仲間の中でも際立って美しい羽を持っている彼らですが、かつてその羽を求めて大規模な狩りが行われた歴
史があります。これによって彼らの数が大幅に
減ってしまう結果となってしまいました。また近年彼らの主な生息地であるである湿地が、農地の拡大や工場などの建設によりどんどん失われており、そのこと
も彼らの生息数に大きな影響を与えています。
我が日本でも明治時代には人々の目の前から完全に姿を消してしまい、絶滅したものと
思われていました。しかし1924年釧路湿原のキラコタン岬と言う
とこ
ろにわずか十数羽が生き残っているところを発見され、
その後厳重な保護活動によって現
在1000羽程度までその数を回復させました。全世界では2000羽
余りのタンチョウが野生に棲んでいると言われています。しかしながらツルの中では2番目に生息数が少なく、いまだに予断を許さない状態
で、国際的にも国内
的にも保護動物に指定されています。
アイヌの人々は彼らのことをサルル
ンカムイ(湿原の神)と呼び、崇めており、中国などでも長寿や幸運、愛情の象徴とし
て古くは殷の時代から親しまれ
、国鳥にも選ばれています。アジアを代表する
と言っても過言ではないぐらい人々から親しまれている彼らですが、この先もその美しい姿で空を舞って欲しいと
願ってやみませ
ん。
タン
チョウ関連のトピックス
富山市ファミリーパークでタ
ンチョウの子供とニホンカモシカを同じ場所で
飼育、展示する試みを国内で初めて1月16日から開始しました。タンチョウの子供を親離れさせるのが目的ということなのですが、最
初はお互いを警戒していた2種も今ではのんびりと一緒に暮らしているそうです。
|
執筆:2007年11月29日
(最新改訂2008年2月6日)
[画像撮影場所] 東京都多摩動物公園