世界にはおよそ15種類のツルが生息していますが、その中でも人の目を
引きつける最も豪華な羽を持っているのがアフリカ大棲む
ホオジロカンムリヅルです。
ホオジロカンムリヅルが見られるのはサハラ砂漠より南の
アフリカ大陸の東部と南部の地域で、
特にウガンダやケニア、タンザニアといった大陸の東部に位置す
る国々に多く見られます。現地の人々にとっても姿の美しい彼らの存在は特別のようで、ウガンダでは
国鳥に指定され、
国旗の中央にもその姿が描かれています。
ホオジロカンムリヅルの
背の高さは
1mぐらいで、
体重
は3.5kgほどです。オスとメスは見た目の上でほとんど違いがありませんが、オスの方がメスよりも
やや大きくなると言われています。
彼らの一番の特徴といえば
金色の冠
のような毛で、頭の上に放射状に生えています。一方体は主に濃い色の灰色の羽毛で覆われており、それとは対照的に翼は白
くなっています。また顔の全面は黒い色、両側は白い色をしており、その上には赤い色の模様が描かれています。さらに彼らは鮮やかな赤い色をした、自由に膨
らますことができる袋を喉に持っています。
とまあ非常に特徴的な姿をした彼らなのですが、実はアフリカにはもう一種類、頭の冠を含めて非常に似かよった姿をした
カンムリヅルというツルが棲ん
でいます。この2種類は
ぱっと見たところ素人ではほとんど違いが分からないほど似ているのですが
、カンムリヅルはホオジロカンムリヅルよ
りも灰色の色合いが濃く、頬が赤くなる点
で見分けることができます。
また
彼らの足の指のうち一本は
後ろに向かって生えており、彼らはこの指と残りの指を使って木の枝をつかみ、枝の上に体を固定することができます。
ツルの中でこのようなことができるのはホ
オジロカンムリヅルと近縁のカンムリヅルだけで、他のツルの仲間は木の枝にとまることは出来ません。このため、ホオジロカンムリヅルとカン
ムリヅルは現存するツルの中で最も原始的な種であると考えられています。
幅広い生息域を持っているホオジロカンムリヅルですが、ウガンダやケニア、タンザニアなど大陸の東に位置する地域と南アフリカ共和国やアンゴラ、ボツワナ
という南部の国々に棲むものでは微妙に異なるといわれています。具体的には前者の方が白い頬の上の赤い模様が大きくなり、これら2つは異なる
亜種として分類されています。
ホオジロカンムリヅルは主にサバンナや湿地帯などに生息しています。彼らは雑食性で、主に草の葉っぱや種のような植物性の餌のほか、昆虫の様な無脊椎動物
やヘビなど小型の脊椎動物を食べて暮らしています。また人間の耕した畑に入ってトウモロコシや落花生、大豆などの農作物を食べることもよくあり、ツルの中
でもとりわけ人間の住む環境に適応しています。彼らはよく餌を取るときに地面を叩いて、それに驚いて飛び出してきた小動物を捕らえて食べるといった戦法を
とることがあります。また大型のホ乳類の後をついて歩き、その足音で出てくる獲物を狙うこともあり、かなり他人を利用するのが上手いしたたかな一面も見受
けられます。
繁殖期になるとホオジロカンムリヅルの頬は白から赤へと変化します。彼らは気に入った相手が見つかると互いに羽を羽ばたかせたり、飛び跳ねたり、お辞儀を
したりして。
求愛のダンスを
踊ります。このようなダンスは繁殖期以外にもしばしば観察され、仲間同士が様々なコミュニケーションを取るのに使われていると考えられています。また彼ら
は喉の赤い袋を膨らませて、独特な低い声の鳴き声を出します。
ホオジロカンムリヅルの産卵のための巣作りは湿地帯で行われ、親鳥の姿が隠れるほど背の高い草の中に巣が作られます。巣は円形に盛られた草から成り、その
中に
2〜5個の卵が
産み落とされますが、
この数は
ツルの中で最大です。卵が産まれるとオスとメスは交互にそれを温めます。
そうして28〜31日後、全身が灰色の羽毛で覆われ、薄い黄色の顔をしたひなが生まれてきます。子供の世話も両親は協力して行い、昼間は一緒に行動してひ
なを守りながら餌をあたえ、夕方になるとひなを安全な草むらの中に隠した後、自分たちは木の上の寝床に戻って休みます。そして生後56〜100日程度でひ
なの羽は生えそろい、自力で空を飛べるようになります。
現在野生には
58,000〜77,000羽のホオジロカンムリヅルが生息していると
見積もられており、その数も安定しています。しかし近年はアフリカでも開発
が進み、彼らの住む水域への排水や、農薬による汚染、また家畜が草を食べるによる草原の減少などの要因が、近い将来彼らの生活に影響を与えるのではないか
と心配する声もあります。
執筆:2008年7月21日
[画像撮影場所] 東武動物公園