アネハヅル Demoiselle Crane

アネハヅル画像
[ちっちゃいけれど、すごいやつ]
 眼の後ろ の白いラインがチャームポイントのアネハヅルは、青みがかったグレーの羽毛を持ち、頭と首が黒くなっていて、首の前面に付いた羽は長い扇状 の形をしています。黄色いくちばしの先端と根元はそれぞれ緑とピンク色を帯びており、目は真っ赤でかなりカラフルな 色をしたツルです。

 アネハヅルの特徴は何と言っても、その体のサイズ。彼らは世界で最も小さなツルとして知 られています。北海道に居る有名なタンチョウヅルの翼を広げた長さは2mを超えるのに対し、アネハヅルの場合大人になっても46cm ぐらいにしかなりません。また体重も2.3kgと非常にコンパクトサイズになっております。

 ちっちゃいからといって、か弱いツルなのかというと全然そんなことは無く、全世界で2番めに数の多いツルとしても有 名23万羽が 生息しています。繁殖期には東ヨーロッパからロシア、中央アジアと経て中国やモンゴルに達する幅広い地域に分布しており、モロッコやトルコ、まれにですが日本にも姿を見せることがあります。(ち なみに数が最も多いのはカナダヅルと言われています。)

 彼らは冬になると北アフ リカやパキスタン、インドなどに渡っていきますが、そこにもアネハヅルのすごい特徴を見ることが出来ます。彼らは渡りをするときは4〜10 羽の小型のものから、400羽以上の群れを作ります。通常このときアネハヅルの飛んで行き方には、これと言って変わったところは無いのですが、インドアジ アやロシアなどからヒマラヤ山脈を経て渡るグループは、なんと8000m以上の高さを飛んでこの世界の屋根を越えてい きます。

 現在でもエベレスト登頂などが非常に危険なことからも分かるとおり、8000mと言うと人間では普通に呼吸するのも困難になるほど空気が薄く、気温も氷 点下−40℃になることも珍しくありません。このように猛烈に悪条件なヒマラヤですが、アネハヅルたちは毎年数万羽という規模で元気に渡っていきます。何 故そこまでして、迂回もせずにヒマラヤを渡っていくのかについてはよく分かっていないのですが、一説には太古からの本能が残っているためで あるといわれています。

 大陸移動説からすると、かつてインドとアジアは陸続きにはなっておらず、南からインド半島が衝突する形でくっついたと言われています。このとき行き場の 無く なったアジアとインド半島の間にあった地面が盛り上がって出来たのがヒマラヤ山脈であり、2000万年ほど前にその原型が出来上がったと考えられていま す。しかしながら現在の姿とは 違い、それほど標高は高くなくアネハヅルの祖先たちはそれほど苦労することも無くインドへと渡って越冬することが出来ました。

 しかしながら70万年ほど前になるとヒマラヤ山脈は現在のように数千mの高さに達してしまいました。それでもアネハヅルたちは古くからの伝統 どおり、まっすぐエベレストを越えてインドへ向かったと言われていますが、これが本当だとするとまっすぐな心を持ってると言うか、バカ正直 と言うか…。何はともあれ小さい体に似合わず、すごいツルであることは間違いありません。ちなみにアネハヅルたちのヒマラヤ越えは天気の良いときに行われ るとされており、登山家達はツルの姿を見ることで安全に山を登ることが出来ると言われています。

[仲良しアネハヅル親子]
 アネハヅルは普段種子やその ほかの植物を食べており、他にも大きめの昆虫やイモムシ、トカゲなども食べます。彼らは朝早くと、午後の早い時間に地面をついばみ、ちょこ ちょこと黒い脚を動かして移動しながら餌を食べます。普段は大きな河の峡谷に沿った草原に住んでおり、水 が得られれば半乾燥地域にも生息しています。夜寝るときになると砂州へと移動します。日本では水田等の農耕地で餌を探す姿が よく見られます。

 アネハヅル達は春になると高地を中心とした地域の小石の多い地面に直接卵を産み落とします。彼らの求愛行動は鳴き合いながら踊ったり、頭を上下させま す。そして背の高い草などに隠れながら、オスとメスが交代で27〜29日の間、薄紫の斑点の付いたオリーブグリーンもしくはオリーブイエローの卵を温め続 けます。このときそれぞれのペアはなわばりを持ちますが、その中へ侵入者があると激しく攻撃して縄 張りの外へ追い出そうとします。アネハヅルは短い声で鳴きますが、これは同じ仲間のツルたちに縄張りに入るなという警告をするためであると 言われており、仲間であっても警告を無視して進入してくるとツルの親達は容赦なく攻撃してきます。

 万が一卵が産み落とされて早い時期に捕食者によって卵が奪われてしまうと、アネハヅルはすぐに別の巣を近くに作って2回目の産卵を行いますが、抱卵も終 わりの時期に入り卵により深い愛情を注いだ後にはより外敵に敏感になり、なんとしても卵を守ろうと以前に増して激しく侵入者に対応します。

 無事孵化したアネハヅルのヒナは模様のはっきりしない、淡い灰色の羽毛で覆われており、生まれるとすぐに餌をついばむようになります。その後渡りの季節に入るとヒナ達は親鳥と共 に越冬地へと渡っていきます。

 アネハヅルは幅広い生息域を持っているため、種全体に及ぶ様な影響を受けることは少なく、生息地は減少してきているものの個体数は十分保たれています。 しかしながら彼らの生息地は平地が多く、農耕地として適しているため、農作物を荒らすアネハヅルは農民達とは対 立しています。また除草剤の使用や卵の捕獲は各地で問題に なっています。

 各地の狩猟協会ではアネハヅ ルの狩猟を許可する地域を制限しており、また狩りをするときにも鳥を驚かせて誤って危険な地域に移動させてしまう恐れのある銃火器の使用を禁止しています。そこでパキスタンなどで はアネハヅルを『ソーヤ』と呼ばれるパチンコのような、おもりの付いた罠を空に飛ばしてツルを捕まえます。しかしながらアネハヅルはそれほど多く捕らえら れ てはおらず、一部は家庭用のペットとして飼われます。IUCN(国際自然保護連合)では絶滅の危険性の低い“低リスク”に分類されており、ワシントン条約 でも同様に絶滅の恐れの少ない付属書II類に分類されています。

 アネハヅルはモンゴルやイン ド一部では幸運のシンボルとして保護されており、大変縁起の 良い鳥として扱われています。またイスラム教の国々でも崇拝されており、多くの国の政府によって正式に保護を受けています。

 
[写真提供]  市川市動植物園 様
市川市動植物園 様 サイト

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