世界には珍しい生き物や不思議な魚が数多くいますが、その中でも最も変わっていてミステリ
アスなのがこいつなんじゃないかなぁと個人的に思っているのがこのリュウグウノツカイです。その平べったくて細長い体と深海魚らしい特徴的な
顔のインパク
トは絶大です。こんなのが
その名の通り竜宮城からカメの代わりに使わされてきたら、浦島太郎も裸足で逃げ出すでしょうねぇ。
そんなリュウグウノツカイですが、その見た目のミステリアスさが示すとおり、彼らの生態についてはほとんどよく分かっ
ていません。21世紀に入ってからよ
うやく何件か、その生きて海を泳ぐ姿がカメラで収められるようになりましたが、それ以前はほとんど全て確認されたのは嵐の後などに海岸に打ち上げられたも
ののみであり、彼らがどのような生活を送っているのかを知ることはほとんど不可能でした。
ただごくまれにトロール漁船などの網に偶然引っ掛かることもあり、それらをもとにするとどうも彼らは20mの比較的浅いところから1000m以上の深海に
まで、かなり幅広く分布して生息していると考えられています。寒いところは苦手みたいですが、熱帯から温帯地域であれば世界中の海にいるみ
たいです。
そして彼らは非常に長く押しつぶされたように薄っぺらい体を持つことが特徴の一つですが、サメやエイなどのやわらかい骨を持つ魚
(軟骨魚類)を除けば、世
界でもっとも長くなる魚(硬骨魚
類)であるとされ、ギネスブックにも掲載され
ています。これまで確認されたものの中で最大のものは全長11m、体重272kgも
あったということです。そ
してさらには未確認ながら長さ
15mに達するものも言われており、これが本当であれば長さだけを比較するとマッコウクジラやザトウクジラなどのクジ
ラ達に
肩を並べることになります。
リュウグウノツカイの体はしっぽの方に向って一様に細くなっていきますが、頭から尻尾の先まで赤い色をした背びれが付いてい
ます。そして頭の先にある
5〜6本の背びれの芯にあたる部分(鰭条)は長く伸びており、とさかの様になっているのが特徴です。同様にえらのすぐ下にある腹びれも長くひょろっとした形で伸びて
おり、先端が木の葉のような形をしています。一方他の魚と違って尾びれや尻びれが完全に失われてしまっています。また彼らの顔の先端には、
突き出すよう
な形の口が付いていますが、体に似合わず小さめで、そのせいかおちょぼ口な印象を受けます。ちなみに彼らの口には歯はありません。
彼らの体の表面にはうろこがなく、銀
色で金属のような光沢を持っていますが、これはグアニンと呼ばれるアミノ酸の一種が多く含まれているためです。また更
にそれと共に
青もしくは黒に近い色をした斑点や波線模様が描かれていますが、これらの模様はリュウグウノツカイが死んでしまうと急速に消えてしまいます。
ちなみにリュウグウノツカイの英語名は「Oar
Fish(オールの魚)」と言いますが、これは彼らの体がボートをこぐときのオールのよ
うに平べったいことからから、もしくは腹びれをオールのように動か
して泳ぐ姿から名付けられたと考えられています。他にもノルウェーなどでは「King of
Herrings(ニシンの王)」と呼ばれることもありますが、こちらはニシン漁をするときにリュウグウノツカイ
が一緒に網にかかることがあり、その大き
さからニシンを率いる王なのではないかと昔の人が思ったからであると言われています。洋の東西を問わずやはり彼らは特別な存在なんです
ねぇ。
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(上)伝説のシーサーペント
(下)浜辺に打ち上げられた
リュウグウノツカイを描いたもの
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さて西洋の伝説の中では「シーサー
ペント」と呼ば
れる巨大なヘビのような姿をした怪物が海に住んでいると言われてきました。その正体については現在もよく
分かっていないのですが、もしかするとこのリュウグウノツカイを見間違えたのではないか
という説もあります。確かに長さ10mを超えるリュウグウノツカイ
が泳いでいるのを目撃したら、そう勘違いしてしまうのも無理はないのかもしれません。実際に左の2つの絵の下のものは、1860年に北大西洋バミューダ諸
島の海岸に打ち上げられたリュウグウノツカイを描いたものなのですが、この個体は最初シーサーペントとして報
道されたと言います。
またその他にもリュウグウノツカイは人
魚伝説のもとになっているのではないかとも言われています。特に日本の文献に残されている人魚の記述には「髪が赤く、細長い体をしてい
た」というものがあり、これらの特徴はリュウグウノツカイの長く伸びた赤いひれと体の形によく一致しています。
時折、水面近くを泳いでいるリュウグウノツカイが目撃されることがありますが、このような個体は病気などによって大変弱っているか、もう死ぬ間際のものが
多いみたいです。また夜水面に光を向けるとそれに引き寄せられるようにリュウグウノツカイが上がってくると
も言われています。泳いでいる
リュウグウノツカイの映像が2001年にアメリカ海軍のカメラによって偶然撮影されましたが、それによると彼らは長い背びれをリズミカルにくねらせ
て泳ぐ
そうです。
彼らがどのようにして餌となる動物を食べるのかは分かっていませんが、これまでの調査から主にオキアミやエビなどの甲殻類を餌としており、その他にクラゲ
や小魚、イカなども食べることが知られています。一説にはリュウグウノツカイは餌をとるときに頭を上に向けてほぼ垂直に立ち、下側から獲物を取ると言われ
ています。一方でリュウグウノツカイ自身は大型のサメなどによって食べられるとされていますが、10mを超えるものだともしかしたらさすがのサメも二の足
を踏んでしまうかもしれません。
メキシコなどで観察されたところによると、彼らの産卵期は7〜12月と比較的長い期間にわたっていると言われてい
ます。彼らの卵や産まれたばかりの稚魚は
水面近くを漂って生活していますが、このときは他のプランクトンと同様に他の大型の生き物に食べられてしまう危険が大きいと思われます。その後成長すると
生活の場を深海の方に移し、水面近くに上がってくることはほとんどなくなります。
大変巨大になるリュウグウノツカイですが、彼らがどの程度長生きするのかはほとんどわかっていません。ですが10mを超えるとなると、数十年は生きること
が出来るのではないかなぁと個人的には思っています。
リュ
ウグウノツカイ関連のトピックス
中国浙江省(せっこうしょう)で全長4m、体
重18.5kgのリュウグウノツカイが捕獲されたそうです。現地の人々は最初巨大太刀魚だと勘違いして大騒ぎしたそう。ちなみに中国では太刀魚のこ
とを「帯魚」、リュウグウノツカイを「皇帯魚」と書くそうです。
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執筆:2007年10月17日(最
新改訂2007年12月1日)
[画像撮影場所] サンシャイン国際水族館