普通彼らは海岸近くに住んでいるのですが、まれに陸地からはるか遠くの海域でも見ることが出来ます。一部の例を除い
て彼らはプランクトンを追って各地の海を移動していることが知られています。そして12月初めから4月の終わりごろにかけると繁殖期に入り、暖かい海のほ
うへ繁殖のために移っていきます。
普段は時速9〜12kmぐらいの速さでゆっくりと泳いでいますが、求愛行動の際に
オスのオニイトマキエイはメスの後にぴったりくっついて、20分ぐらいかなりの速さで泳ぎ回ります。その後オスがメスの胸びれの一方を噛みながらお腹を
くっつけ合う形で交尾を行います。
交尾を行ったオスは素早くメスのもとを立ち去りますが、すぐに別のオスが同じメスに対して求愛行動を行います。普通メスは2匹程度のオスと交尾を行いま
すが、それが済むと他のオスを残して泳ぎ去ります。彼らの妊娠期間は13ヶ月程度で、それが済むとメスは1匹ないし2匹ぐらいの子供を産み落とします。オ
ニイトマキエイの出産を人間が目撃することはほとんどありませんが、
生まれたばかりの子供の横幅は大体1.1〜1.4m程ですが、体の小さい子供達はマングローブなどが生い茂る海岸近くで大きくなるまで隠れていることも
あります。彼らの
上でも述べたとおり、普段のオニイトマキエイの泳ぐスピードはゆっくりしたものですが、ときにはびっくりするぐらいの速度で泳ぎ、
水面から2m以上もジャンプすることが知られています。なぜオニ
イトマキエイがジャンプをするのかよくわかっていませんが、一般的には
その巨大な体についた寄生虫や、古くなっ
てはがれかけている皮膚を、水面に体を強くたたきつけることで落とすためであると言われています。また彼らは落としきれない寄生虫などを、
クエなどの大型の魚と同様に、
ホ
ンソメワケベラなどの小魚に取ってもらっています。また彼らのお腹にはコバンザメがくっついている場合があり、寄生虫とともにオニイトマキ
エイの食事のおこぼれも食べています。
彼らと私達人間との係わり合いはかなり昔からありますが、かつて
マンタは船乗り達の間で悪魔の魚であると恐れられていました。これは
頭にある突起がちょうど悪魔の持つ角に見
えたからだといわれています。ちなみにこの名残で英語でオニイトマキエイのことを
『Devil Ray (悪魔のエイ)』と
呼ぶことがあります。またオニイトマキエイが船の周りを何時間にもわたって円を描いて泳ぎ回っていたという記録もありますが、これは単にその水域にプラン
クトンがたくさんいてオニイトマキエイはそれ泳ぎながら食べていただけだと考えられています。実際彼らは獲物を一ヶ所に追いやるために同じところをぐるぐ
ると泳ぐところが確認されています。しかしながら現在ほど彼らの生態がわかっていなかった時代には、船乗り達にとって巨大な真っ黒い姿をしたオニイトマキ
エイは大変不気味だったことでしょう。
またこれらのイメージから南アメリカを初めとする世界各地にはオニイトマキエイに対する恐ろしい言い伝えが残っており、
彼らはその大きなヒレを人間にまきつけて
海の底に引きずりこんだり、大量の水を跳ね上げて船を沈没させると言われていました。また太平洋の真ん中に浮かぶミクロネシア連邦のヤップ
島には
オニイトマキエイは人間
が死ぬまでその大きなヒレを締め付けてくるという伝説も残っています。
しかしながらそれが功を奏してか、オニイトマキエイ達が人間によって捕らえられることはほとんど無く、
現在でも各地の海で元気に生息していると
考えられており、絶滅の危険性はほとんどないと言われています。そして各地の観光地では、伝説とはまったく正反対の性格がおとなしく好奇心
旺盛なオニイトマキエイと一緒に泳ぐダイビングが人気であり、旅行ツアーの目玉となっています。実際オニイトマキエイのほうも我々人間に対しては興味津々
らしくすぐ近くにまで近づいてきてくれ、
人間との接触を楽しんだりや酸素ボンベか
らの泡で遊んだります。しかしながら普段は一緒に遊んでくれるオニイトマキエイでも、ある日突然人間を遠ざけ、姿を見ると泳ぎ去っていく行
動をとるそうですが、それがどうしてなのか理由はよくわかっていません。
オニイトマキエイはその巨体から自然界における天敵はほとんど皆無で、丈夫な皮膚と大きなひれを除いて特に捕食者に対する防御方法は持っていません。ま
た人間が彼らを食用として用いることも、台湾などの一部の地域を除いてはほとんどありません。しかし
かつて大きなサメがオニイトマキエイを襲ったという記録が残されています。
実はオニイトマキエイという
名前は単一の種を指し示すものではなく、オニイトマキエイ属に属するエイの総称であり、スペイン語の“毛布”がその語源となっています。生物学
的な観点からは、オニイトマキエイ属には住処などが異なる3種類が存在するといわれており、
タイセイヨウオニイトマキエイ、タイヘイヨウオニイトマキエイ、プリンスアルフレッド
オニイトマキエイが知られています。しかしながら
近年の遺伝子研究からこれら3種類のエイ
はすべて同じものであり、タイセイヨウオニイトマキエイ(学名Manta
birostris)に属するのではないかと言われていま
す。
かつては悪魔の魚と恐れられたオニイトマキエイ君ですが、
ぜひ一生に一度でいいから一緒に南の海
でダイビングしてみたいなぁと思う今日この頃です。