オニイトマキエ イ Manta Ray

ザ・キング・オブ・エイ
オニイトマキエイ画像1
Copyright Carl Roessler
 右の写真に“ドーンッッ!”っと写っ ていますのは、世界中のダイバーの憧れ、マンタ ことオニイトマキエイ君です。優雅な姿からかもしだされる、そのどっしり感はまさに『キング・オブ・エイ』の 称号がぴったり。

 オニイトマキエイは世界中の熱帯から温帯にかけての赤道から南北緯35度までの海に分布しており、日本でも沖縄や四国などでたまに見ることができます。彼らの体は ひし形に近い形をしており、その姿が昔使われていた『糸巻き』の形に似ていることからその名前が つけられています。

 オニイトマキエイの最大の魅力といえばその大きさにありますが、彼らの体は前後の長さよりも横幅のほうが長くなっており、成長すると普通オスのエイは 5.2〜6.1m、メスのものは5.5〜6.8mに達し、体重も1.2〜1.4tにもなります。つまり横幅の長さだけで大物のホオジロザメと同じぐらい!更にこれまで記録に残っている最も大きかったオニイト マキエイは横幅が9.1mもあり、世界中の魚 類の中でも彼らの巨体は5本の指に入ると言われています。

 大きさもさることながら、オニイトマキエイはその模様の美しさからもダイバー達に愛されており、背中側は黒から灰色がかった青色で、それとは対照的に 真っ白なお腹を持っています。その白い腹側の部分には、上の写真でも見て取れるように灰色の斑点がついており、ダイバーや研究者はこの模様を見ることで オニイトマキエイの個体を見分けることが出来ます。まれに背中もお腹も両方黒いオニイトマキエイが見られますが、これは『ブラックマンタ』の愛称で親 しまれています(下の写真参照)。

 エイであるオニイトマキエイはサメと同じ軟骨魚類に属し、全身の骨格は軟骨で出来ています。また彼らはサメと同じようにざらざらした皮膚を持っており、エイのくせにサメ肌をしています。

 オニイトマキエイの体には背 びれや尾びれはありませんが、その代わりに巨大な胸びれを持ち、彼らはこ れを大きく上下に動かすことでゆったりと優雅に海の中を泳ぐことができます。彼らは普段体の前面についた大きな口をあんぐりと開けて泳いでいます。オニイ トマキエイの食べ物はシロナガスクジラやジンベイザメ同様、水の中にいるプランクトンであり、 泳ぎながら海水ごと大きな口から 飲み込み、エラでえさだけをこし取って食べています。また彼らは口の両側に大きく突き出した頭びれと呼ばれるヒレを持って おり、これを前後に動かして海 水を口の中へと流し込みより大量のプランクトンを食べています。

 あまり知られていないことですが、オニイトマキエイたちは下あごに小さな歯を持っています。ですが彼らはかんで物を食べることは無く、この歯もまったく 使われません。また通常エイの仲間は尻尾にするどいトゲを持っているのですが、オニイトマキエイの鞭のような尻尾にそのようなトゲは見られません。また最 近の研究ではオニイトマキエイ の頭部には非常に数多くの欠陥が密集しており、彼らはそれを使って脳を暖めているのではないかと考えられています。

生まれる子供もおっきいよ
オニイトマキエイ画像2
Copyright Carl Roessler
 オニイトマキエイ達はエイの仲間では珍しく、海底ではなく大体深さ120mぐらいまで の表層を泳いでいます。普通彼らは海岸近くに住んでいるのですが、まれに陸地からはるか遠くの海域でも見ることが出来ます。一部の例を除い て彼らはプランクトンを追って各地の海を移動していることが知られています。そして12月初めから4月の終わりごろにかけると繁殖期に入り、暖かい海のほ うへ繁殖のために移っていきます。

 普段は一匹で生活しているオニイトマキエイですが、繁殖期には大群を成すことが知られてお り、数匹のオスが一匹のメスに対して求愛行動を取ります。普段は時速9〜12kmぐらいの速さでゆっくりと泳いでいますが、求愛行動の際に オスのオニイトマキエイはメスの後にぴったりくっついて、20分ぐらいかなりの速さで泳ぎ回ります。その後オスがメスの胸びれの一方を噛みながらお腹を くっつけ合う形で交尾を行います。

 交尾を行ったオスは素早くメスのもとを立ち去りますが、すぐに別のオスが同じメスに対して求愛行動を行います。普通メスは2匹程度のオスと交尾を行いま すが、それが済むと他のオスを残して泳ぎ去ります。彼らの妊娠期間は13ヶ月程度で、それが済むとメスは1匹ないし2匹ぐらいの子供を産み落とします。オ ニイトマキエイの出産を人間が目撃することはほとんどありませんが、かつて一度だけ飼育下のオニイトマキエイ の出産の様子がフィルムに収められた記録があります。それによるとオニイトマキエイの子供は最初自身の胸びれに包まれた形で母親の体から出 てきます。しかし産み落とされ るとすぐに子供のエイは大きな羽を広げ自力で海の中を泳ぎまわって餌を取るようになります。のんびりしててもそこはエイの王様、子供の頃か らかなりしっかりしているようです。

 生まれたばかりの子供の横幅は大体1.1〜1.4m程ですが、体の小さい子供達はマングローブなどが生い茂る海岸近くで大きくなるまで隠れていることも あります。彼らの子供の成長は 早く1年も経過すると倍以上の大きさになり、5年程度で性的に成熟した大人へと成長します。それにしても繁殖期に見られるオニイトマキエイ の大群は圧巻でしょうねぇ。ぜひ一度見てみたいです。

悪魔の魚
 上でも述べたとおり、普段のオニイトマキエイの泳ぐスピードはゆっくりしたものですが、ときにはびっくりするぐらいの速度で泳ぎ、水面から2m以上もジャンプすることが知られています。なぜオニ イトマキエイがジャンプをするのかよくわかっていませんが、一般的にはその巨大な体についた寄生虫や、古くなっ てはがれかけている皮膚を、水面に体を強くたたきつけることで落とすためであると言われています。また彼らは落としきれない寄生虫などを、 クエなどの大型の魚と同様に、ホ ンソメワケベラなどの小魚に取ってもらっています。また彼らのお腹にはコバンザメがくっついている場合があり、寄生虫とともにオニイトマキ エイの食事のおこぼれも食べています。

 彼らと私達人間との係わり合いはかなり昔からありますが、かつてマンタは船乗り達の間で悪魔の魚であると恐れられていました。これは頭にある突起がちょうど悪魔の持つ角に見 えたからだといわれています。ちなみにこの名残で英語でオニイトマキエイのことを『Devil Ray (悪魔のエイ)』と 呼ぶことがあります。またオニイトマキエイが船の周りを何時間にもわたって円を描いて泳ぎ回っていたという記録もありますが、これは単にその水域にプラン クトンがたくさんいてオニイトマキエイはそれ泳ぎながら食べていただけだと考えられています。実際彼らは獲物を一ヶ所に追いやるために同じところをぐるぐ ると泳ぐところが確認されています。しかしながら現在ほど彼らの生態がわかっていなかった時代には、船乗り達にとって巨大な真っ黒い姿をしたオニイトマキ エイは大変不気味だったことでしょう。

 またこれらのイメージから南アメリカを初めとする世界各地にはオニイトマキエイに対する恐ろしい言い伝えが残っており、彼らはその大きなヒレを人間にまきつけて 海の底に引きずりこんだり、大量の水を跳ね上げて船を沈没させると言われていました。また太平洋の真ん中に浮かぶミクロネシア連邦のヤップ 島にはオニイトマキエイは人間 が死ぬまでその大きなヒレを締め付けてくるという伝説も残っています。

 しかしながらそれが功を奏してか、オニイトマキエイ達が人間によって捕らえられることはほとんど無く、現在でも各地の海で元気に生息していると 考えられており、絶滅の危険性はほとんどないと言われています。そして各地の観光地では、伝説とはまったく正反対の性格がおとなしく好奇心 旺盛なオニイトマキエイと一緒に泳ぐダイビングが人気であり、旅行ツアーの目玉となっています。実際オニイトマキエイのほうも我々人間に対しては興味津々 らしくすぐ近くにまで近づいてきてくれ、人間との接触を楽しんだりや酸素ボンベか らの泡で遊んだります。しかしながら普段は一緒に遊んでくれるオニイトマキエイでも、ある日突然人間を遠ざけ、姿を見ると泳ぎ去っていく行 動をとるそうですが、それがどうしてなのか理由はよくわかっていません。

 オニイトマキエイはその巨体から自然界における天敵はほとんど皆無で、丈夫な皮膚と大きなひれを除いて特に捕食者に対する防御方法は持っていません。ま た人間が彼らを食用として用いることも、台湾などの一部の地域を除いてはほとんどありません。しかしかつて大きなサメがオニイトマキエイを襲ったという記録が残されています。

 実はオニイトマキエイという 名前は単一の種を指し示すものではなく、オニイトマキエイ属に属するエイの総称であり、スペイン語の“毛布”がその語源となっています。生物学 的な観点からは、オニイトマキエイ属には住処などが異なる3種類が存在するといわれており、タイセイヨウオニイトマキエイ、タイヘイヨウオニイトマキエイ、プリンスアルフレッド オニイトマキエイが知られています。しかしながら近年の遺伝子研究からこれら3種類のエイ はすべて同じものであり、タイセイヨウオニイトマキエイ(学名Manta birostris)に属するのではないかと言われていま す。

 かつては悪魔の魚と恐れられたオニイトマキエイ君ですが、ぜひ一生に一度でいいから一緒に南の海 でダイビングしてみたいなぁと思う今日この頃です。

[写真提供]  Carl Roessler 様 (オーストラリアのダイバーさん)

Carl Roessler様 サイト

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