南米出身のカエルさんであるコモリガエルは写真を見ていた
だけるとわかるとおり、トラッ
クに踏みつぶされてしまったのかと思うぐらい平べったい姿を持ち、すごくインパクトの強い外見をしています。彼らは背中に卵を乗せて子育てをするこ
とで有名ですが、このユニークな姿からペットとして飼われることも多い人気者です。
彼らは南アメリカ大陸の北部から東部にかけての池や沼に住んでおり、英名の『Surinum Toad』と
言うのは南米のスリナム共和国と
言う国にちなんだものです。あまり行動的ではない方で、普段は水の底でじっとしていますが、
30分に1回ぐらいの割合で水面近くに泳いできて空気を吸いに来ます。
大きさはオスが11〜15cmぐ
らい、メスが10〜17cmぐ
らいで大きいものでは20cm近くになることが知られています。濃い色の斑点
が付いた茶色い姿をしていますが、特徴的なのが頭の形でカエルの中でも極端に首が短く、三角形に近い形をして黒い小さな眼がいます。繁殖期にはメスは排出
腔が膨らみ、これによってオスと見分けることができます。
また彼らは細くて長〜い前足の指を持っており、水かきはありませんが他のカエルにはない星型の突起が付いています。実
はコモリガエルはこの突起を
使って昆虫などの水底にいる餌を探し出し、見つけた獲物は器用に前足を使って口に入れて食べてしまいます。食べるものは昆虫から小型の魚、
芋虫、甲殻類などとてもバラエティに富んでいて、ほんと何でも食べてしまいます。ちなみにコモリガエルの口の中に舌はありません。また体の側面には振動を
感知する感覚器官があります。
前足と対照的に後ろ足はカエルらしくとても太くてエネルギッシュな筋肉が付いていて、さらに大きな水かきを使って水中を泳ぐことができます。
繁殖期にはオスがカチカチという鳴き声を出してメスを呼び寄せます。コモリガエルのオ
スとメスは交尾をするときに、オ
スがメスに抱きついたまま水面と水底の間を円を描くように泳いで行ったり来たりすることで有名です。この時水面近くでメスがオスのおなかの上に卵を産み落とし
た後、そこに戻ってきたときにオスがメスの背中に卵をくっつけて受精させます。卵には粘液が付いていてそれを利用してメスの背中にくっつくのですが、不思議
なことにオスのおなかや他の卵同士でくっつくことはないらしいです。
水面と水底を一回往復する間にメスは3〜10
個の卵を産み、それを15回ぐらい繰り返すことで最終的に100個ぐらいの卵を産み落とします。メスの背中に産み落とされた卵はしばらく
するとメスの皮膚に沈みこむように一体化し、それがずらっと並ぶことで蜂の
巣状の構造を作ります。子供のころのカエルと言えばオタマジャクシの姿で生まれることが普通ですが、コモリガエルの子供は卵の中でオタマジャ
クシの時期を過ごし、12〜20週間後に卵から出てくるころには大きさこそ2cmぐらいしかない者の完全に大人と同じ姿になっています。
この間メスはずっと卵を背負い、一人でその世話をするわけなのですが、産まれてきた子供を食べてしまうようなことはありません。産まれたばかりの子供は最
初のころはあまりうまく泳ぐことができませんが、一か月もすると親と同じように泳げるようになり、自由にえさを取ることもできるようになります。
コモリガエルはなわばりを持つことがわかっており、鳴き声を出すことでお互いが近づき
すぎないようにして、普段はおとなしく暮らしています。ですが時々オス同士などがなわばり争いをするこ
とがあり、この時オスは『カチッ』というクリック音をお互いに出すことが知られています。けんかの様子もかなり激しいもので、水族館で飼われているコモリ
ガエル同士が体当たりや頭突き、キックをしたり時には相手にかみつくことが知られていますが、自然界ではできる限り鳴き声を利用して
お互いの距離を取るためあまり争うことはないと考えられています。
とまあ、その姿とともに行動もいろいろ特徴的なコモリガエルですが、実は彼らの先祖は非常に古くからいることが知
られていて、白亜紀(1億4千万〜6600万年前)にまでさ
かのぼることができ、『生
きた化石』とよんでもいいぐらいの由緒正しいお家柄だったりします。水族館の水槽の中でもほとんどじっとしている彼らですが、ぜひご覧にな
る機会があればそんなことを思い出しながら観察してみてください。
[画像撮影場所] 須磨海浜水族園
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