ウシガエル North
American Bullfrog
[ウシガエル放浪記]
子
供の頃、夏休みに田舎に帰ると、日が暮れるたびに目の前に広がった夜の田んぼから彼らの低い鳴き声が聞こえてきました。当時はその声がちょっぴり怖かった
のですが、それと同時に田舎に帰ってきたということが実感できた思い出があります。
そんな訳で私にとってこのウシガエルは日本の夏を代表するものの一つだったのですが、今回彼らのことを調べてみると英名がなんとNorth
American Bullfrog!完全にアメリカンな方々でした。(全
然『日本の夏』じゃなかった、私の思ひ出…)
というわけで彼らの生まれ故郷はもともと北アメリカ大陸のロッキー山脈よりも東側の地
域です。そんな彼らがどうして日本のため池や田んぼにあんなにたくさんいると言うかというと、事の起こりは1918年にまでさかのぼりま
す。当時初めて東京にアメリカからウシガエルは持ち込まれたのですが、その理由はずばり食べられるということでした。つ
まり新たな蛋白源として環境の変化
に強く、養殖が容易であることから彼らを輸入したのです。年配の方々はご存知でしょうが、『食用ガエル』という別名もここ
から来ています。実際食べた方に話を聞くとウシガエルの足の身は淡白で、鶏肉に似て美味しいということです。その後日本各地の養殖場で盛んに養殖されたの
ですが、輸入動物のお約束どおり逃
げ出して各地の沼や池で野生化してしまいました。んでもって、当初の目的だった『食用』なのですが、日本が裕福になり牛肉や豚肉が簡単に手
に入るようになると、誰もわざわざあの姿形をした彼らを食べることはなくなってしまいましたとさ。ああ、本末転倒…。ちなみに現在では北海道から石垣島ま
で文字通り日本全土の池や湖、沼などで見ることが出来ます。
また食用のほかにもウシガエルは体
の構造が我々人間のような高等動物のものに近いため医学的な研究に用いられていたり、虫を食べてくれるので害虫の駆除などに使われたりもしています。
[おっきい事は良いことなの?]
ウシガエルといえばその大きさが売りですが、大きいものでは20cm以上、体重500gに
達し、平均でも9〜15cmもあります。体の色は主に茶色や緑色をしており、濃い色のスポットや網目模様があるものもいますが、ウシガエル
の体色は環境によって大きく変化するのが特徴です。この色の変化には周りの温度が密接に関係して
おり、気温の低いときには黒っぽい色になって出来るだけ太陽から熱を吸収しようとします。
ウシガエルの目の後ろには大きな丸い輪っかがあります。これは実は鼓膜であり、ウシガエルはここで音を捉えます。実はウシガエルの雌雄はこの鼓膜を見ると容易
に判別出来て、オスは眼よりも鼓膜の直径の方が大きくなっていますが、メスでは鼓膜の大きさは眼と同じくらいかそれより小さくなっています。ま
た繁殖期になるとオスののどは鮮やかな黄色になり、これを元にして見分けることも出来ます。
ウシガエルのオスは繁殖期である5〜8月頃になると、大きな声で鳴き雌を交尾に誘います。ウシガエルの鳴き声は非常に低周波数のため遠
くまで届き、周りが静かであれば1km向こうでも聞こえるそうです。交尾の仕方は体外受精であり、メスは水の中に6,000から多いときで
20,000個ものゼラチン上の卵を水の中に産み落とします。このようなゼラチン質の膜に包まれたカエルの卵を『卵塊』といいます。受精後
4日もするとオタマジャクシが卵から出てきます。オタマジャクシは茶色の体に黒っぽい斑点があるのですが、普通のアマガエルなんかのかわいらしいものとは
違い、成長すると10cm近くにも
なり、かなり迫力があります。(グロテスクとも言ふ…)その後
オタマジャクシは2〜3年程度かかって大人のカエルへと成長していきます。変温動物である彼らは寒さには弱く、冬になると大人のカエルは土の中や沼や湖
のそこでじっとしているのですが、オタマジャクシはそれに比べて活発で氷の張った湖のそこで動き回ったり、餌を取ったりするらしいです。
オスのウシガエルはなわばりを持つことで知られており、一匹あたりの縄張りの大きさは大体3mぐらいです。そこへ別のオスが入ってくると、お互いをまえあ
しでつかみ合い、まるでレスリングのような格闘を始めます。どちらかが片方をねじ伏せれば勝ちとなります。
[好き嫌いナッシングで
す]
よく『ヘビににらまれたカエル』
という言葉を耳にしますが、カエル
界の重鎮であるウシガエル様はちっこいヘビだと食べてしまうそうです。そのほかにも昆虫や魚、他の種類のカエルや、小鳥、ネズ
ミ、コウモリ
など口に入る生き物なら何でも食べてしまうかなりの悪食君です。しかし、あののっそりしたウシガエルが本当に小鳥を食べてしまうんでしょう
か?(もしかしたら私、むらさきすずめも一口…?)ある意味モンスターかもしれません。ウシガエルの狩りの仕方は基本的に普段は水の
中でじっとしていて、近くに獲物の姿が見えると素早く下を伸ばして捕らえます。しかしながらこの食いしん坊の性格が彼らにとって不利になっ
てしまうときもあります。針の先に小さな布や偽物のルアーをつけて彼らの鼻先に持っていくと、面白いようにぱくついてきて簡単に釣り上げることが出来、誰
でも簡単にカエルフィッシングが出来ます。なにごともほどほどに、ですか…。
ウシガエルは環境の変化に強
く、繁殖力も高いのですがこれがあちこちで問題になっています。彼らは他の種類のカエルも餌として食べてしまうため、新たな地域に持ち込ま
れそこで増えてしまうと、そこに元からいたカエルの数を大幅に減らしてしまいます。とくに人間の工業活動によって汚染された水域では水草が繁茂して更に水
温が上がりますが、このような状況下ではウシガエルは天敵から見付かりにくくなり、高い水温に強いウシガエルは他のカエル達より繁殖していきます。実際にいくつかの地域では旧来のカエルたちが
ウシガエルによって絶滅に追い込まれた記録があります。
ウシガエルの繁殖力の強さの秘密に彼らが天敵となるべき魚たちに襲われにくいこともあげられます。これはもともと生存競争の激しかった彼らの原産地である
アメリカ東部での進化の結果なのですが、どのようにして捕食を回避しているかというと
どうも彼らの卵やオタマジャクシは大変不味く、お魚さんたちの口には合わないものになっているらしいのです。つまり憎まれっ子世にはばかる
ということで、魚たちが嫌って食べない彼らはゆっくりと数を増やすことが出来るという訳です。これに対して、アメリカのカリフォルニアなどでは外来性のウシガエルを駆除するため、好き嫌いのない、
つまりウシガエルでも食べてしまう種類の魚を導入しているらしいです。
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