ファイアサラマンダーは黒と黄色のとて
も特徴的な模様をしたイモリの仲間で中央ヨーロッパから南ヨーロッパ全域で見ることが出来ます。
彼らはほとんどの時間を陸で生活する両生類で、森の中の岩や木の下や割れ目の中、他の動物の巣穴などじめじめした所によく隠れています。また産卵を行うた
めの池や小川が近い所に棲む傾向があります。彼らは夜行性の動物で、活動的になるのは主に夕方から夜で、日光が強い昼間は水分が蒸発してしまうのを防ぐた
め隠れ家の中でじっとしています。しかし雨の日などは昼間であっても積極的に外へ出て行くみたいです。
ファイアーサラマンダーの体の大きさは大体
長さが15〜25cm、体重は20gほどで
すが、まれに
30cmを超える大物も
見られます。彼らの胴体は尻尾よりも長さがあり、四肢も太くて、全体的にどっしりとした体つきをしています。その体は全身鮮
やかな黄色と黒の模様で彩られていますが、こういった派手な色は
『警戒色』とよばれ中南米に棲
むドクガエルなど
毒を持つ動物
によく見られます。ファイアサ
ラマンダーもその例にもれず
全
身のあちこちに毒を持っており、この体の色を
つかって敵となる動物に「自分は毒を持っているぞ」と強くアピールしているのだ
と言われています。この模様はそれぞれの地域で大きく異なり、黄色い部分がオレンジ色や赤になったものや、黒の部分が多くてほとんど真っ黒になったもの、
逆に黄色が体の大部分を占めるものなど様々です。
このように見た目でも地域差が大きなファイアサラマンダーですが、彼らには多くの
亜種(同じ種類の動物をさらに
細かく分けたもの)がいることが知られてい
て、一般はに
15種類もの亜種がいるのではないかと言われていますが、
分類する学者さんよって意見が異なるみたいで、まだはっきりとした線引きは確定して
いません。またコルシカサラマンダーやアルジェリアサラマンダー、ムジハラサラマンダーのようにかつてはファイアサラマンダーの亜種の一つだと思われてい
たものが、その後の研究で別の種類であると分類され直した例もあるようです。
普段はあまり人前に出てこずに木や石の下でじっとしている彼らですが、実は
ヨーロッパでは昔から神聖な生き物である
とされており、ファイアサラマンダーこ
そが四大精霊一つ、火の精霊であるとされてきました。
最近はRPGなどのゲームでも火の属性を持ったサラマンダーがよく登場することから知っている人も多
いかもしれません。これは彼らが
火の中で生きていくことが出来るという言い伝えによるもので、
「サラマンダー」という名前ももともとは
アラビア語の「火の
中に棲むもの」という意味の言葉に由来しているそうです。有名なところでは古代ギリシャのアリストテレスや、ローマのプリニ
ウスなどもその著書の中で
ファイアサラマンダーのことをそのように記述しています。こうして火の精霊である彼らは
信仰や貞節、正義などの象徴としてあがめ
られ、各国の王室な
どの紋章などにも用いられるようになりました。
火どころかお日様の光による乾燥すら嫌がる彼らが、なぜ燃え盛る炎の中で生きることが出来ると言われるようになったのかはよく分かっていませんが、どう
も彼らが普段木の割れ目などに潜んでいることが多いため、
料理などで薪を火にくべるとその中からは
い出してくることが多いことから、そのように呼ばれるよ
うになったのではないかと考えられています。また意外なことにファイアサラマンダーが火の中でも生きられるという考えはかなり最近まで信じ
られていたらし
く、18世紀ごろまではそのような記述がされた書物がみられるそうです。また本当に火の中でも大丈夫なのかと実際に炎の中に放りこまれて死んでしまったも
のも過去に数多くいたということですが、かわいそう過ぎますねぇ…。
ファイアサラマンダーは主にミミズやナメクジのほか、様々な昆虫などの小型の無脊椎動物を食べますが、その以外にに小型のイモリやカエルなどの両生類も食
べることがあります。彼らの舌にはべとべとした粘液が付いており、これを使って獲物をとらえたり、また直接噛みついてから丸のみしてしまいます。実はそれ
ぞれのサラマンダーには好みの餌があるようで、いわゆるオタマジャクシの状態にあたる
幼生から大人になったあとの数
週間で食べた餌を生涯好んで食べるよう
になると言われています。
また彼らは眼が発達していて、
獲
物を探す時は主に視覚と嗅覚を使います。つまり比較的周りが明るくて光が多い時
には主に視覚に頼って動く獲物に反応して獲
物を取りますが、夜など真っ暗でまわりが見えない時は周りの臭いをかいで動かずに臭いを出している獲物に襲い掛かります。特に
暗い場所で行動する彼らの視
覚はとても敏感で、我々人間の眼では見えない暗闇の中でも自由に動き回ることが出来るそうです。
逆にファイアサラマンダーが他の動物に襲われると、
彼らはその毒を使って積極的に身を守ります。毒は
毒腺と呼ばれる 皮膚の中にあ
る器官に入っていて、
敵
に襲われると筋肉を収縮させて、相手の動物にめがけて、秒速3mの
速度で毒を吹き出します。毒腺は彼らの体の中でも、主に頭の後ろと背骨に沿った胴体の中
央部分に分布しているため、敵に出会うと頭の毒腺を相手に向けるような姿勢を取ります。ファイアーサラマンダーの毒は
神経毒とよばれるタイプの毒
で、これ
が体内にはいると脊椎動物であれば皆、
筋肉が痙攣したり、血圧が急上昇して過呼
吸を引き起こしたりし、時には我々人間でも彼らの毒が命にかかわる場合
もあります。
このように非常に威力のある毒を持っている彼らなのですが、毒が使われるのは敵から身を守るときであって、逆に獲物を取る時に使われることはありません。
また一説には彼らは体の表面にこのような毒を分泌させることによって、細菌の繁殖を抑えているのではないかといわれています。彼らが毒を持っているのは古
くから知られており、昔のヨーロッパ人は彼らがくっついていた石の上に食べ物を置いただけでも、それを食べると死んでしまったり、また彼らが幹や根にはい
りこんだ植物はその果実が全て毒を持っていしまうとも考えたそうです。しかしさすがにこれは言いすぎで、実際にはもちろんそんなことはありません。またそ
の一方で
彼らの強力な毒は薬に
もなると言われ、ファイアサラマンダー達は強壮剤や催淫剤、脱毛剤などに使われていたそうですが、本当に効果はあったんでしょうか??その
他にも彼らの出す毒が白い色をしていることから、彼らはミルクが大好物で寝ている牝牛の所に行って、その乳を飲み尽すと言われたりもしたそうです。
ファイアサラマンダーは寒いのは苦手なようで
冬になると地面の下にもぐって冬眠してしまいます。また逆にあまり暑いのも得意なよう
でなく、一部のファイアサラマンダーには北アフリカや中東にも分布しているものがありますが、このような地域では高温になる夏になると活動が低下するよう
です。
彼らはとても
帰巣本能(自
分のすみかに戻ろうとする性質)が強いみたいで、
生涯を通してほとんど同じ場所から動こう
としません。実際餌を探して遠くまで移動した後も必ずと言っていいほど、同じところへ戻ってきます。この時彼らは周辺の地形や匂いなどを
使って巣までの道を見つけていると言われていますが、視覚と嗅覚のどちらかが特に有効なのか、それともその両方が有効なのかはよく分かっていません。また
毎年の冬眠も必ず同じ場所でするそ
うです。
ファイアサラ
マンダーは夏になると繁殖期をむかえ、オスはメスに求愛行動を行うようになります。またこの頃にはオス同士の縄張り争いも激しくなり、レス
リングのような取っ組み合いをして勝負をします。ファイアサラマンダーはオスとメスがとても似通っており、メスがわずかにオスより大きくなるぐらいでほと
んど人間の眼では見分けることが出来ません。しかし繁殖期になるとオスの総排泄孔(糞などを出すところ)が膨れるため、これを使ってオスとメスを区別する
ことが出来ます。交尾の時になると
オスは総排泄腔から精包と呼ばれる精子の入った袋を地面に落とし、その上にメスの体を落と
して、メスの総排泄孔から体内へと取り込ませます。
その後卵と精子が受精すると、
そ
のまま卵は産み落とされることなく成長し、メスの体の中で幼生がふ化します。そして
約9か月の期間を経て次の年の春ごろにな
ると、メスは水辺に行って水の中へ2.5〜3.5cmぐらいの
子供を産み落とします。
一度に産まれてくる子供の数は平均30匹ぐらいですが、時には70匹に達することもあるそうです。
幼生の頃の彼らはエラをもっていて、水の中での生活に適した体をしていますが、成長するに従ってえらが失われ肺呼吸へと変化していき、このような変化を
「変態」と呼びます。変態が行
われる時期は地域差が大きく、生後4週間から6か月ぐらいまでの間に行われます。また一般にファイアサラマンダーの子供はかなり成長した形で母親から産ま
れてきますが、
地域もしくは亜
種によってはえらが失われて大人の体になった段階で出産が行われるものもいるそうです。
このような場合、メスの体の中で成長する
ときに幼生は無受精卵や他の子供のサラマンダーを食べて成長します。
子供の頃のファイアサラマンダー達はまだ毒腺が発達しておらず、体も小さいことから最も天敵に襲われやすくなります。特にオサムシなどの昆虫は幼生のファ
イアサラマンダーを襲って捕食しますが、その時には腹側から食べ、毒のある背中や頭部、尻尾はほとんど食べません。またその他にもヤゴのような水生昆虫や
魚、カエルなどの両生類の他、自分より大きなファイアサラマンダーによって食べられることもあるそうです。
変態が完了し、肺呼吸が出来るようになると子供たちは陸にあがって生活するようになり、足が太くなったり体の色が発達してさらに大人の体へと近づきます。
子供の頃は水中生活を行う彼らですが、意外なことに
大人になると泳ぎが苦手になるみたいで、
水深の深いところでは溺れてしまいます。(この辺はあまり両生類っぽくないですねぇ。)そして
4〜5年程で完全に大人になり繁殖を行えるようになります。
彼らは大きくなる過程で全身の皮を脱ぎ棄てる
「脱皮」を行いますが、この時
は頭からずりさげるように皮がむけていき、そのまま肩や胸まで脱皮すると、最後に全身の皮を脱ぎ棄てます。しかし
この脱皮には危険が伴い、上手く脱げずに窒息死してしまうこともあるそうです。また脱ぎ捨てた皮
膚はそのまま食べてしまします。
ファイアサラマンダーは両生類の中でも
非常に長い寿命を持っており、
一般に数十年以上生きることが出来て、中でも19世紀から20世紀にかけて
ドイツの博物館で飼われていた個体はなん
と50年も生きたそうです。
ヨーロッパの多くの国々に分布している彼らは生息数も多く、なじみのある動物であることから様々な商品の広告やマンガのキャラクターとしても用いられてい
ます。また独特の色合いが人気を呼んで、ペットとしても多く飼われていて、日本を含む世界各国へと輸出されています。あんなに強い毒がある彼らを飼っても
大丈夫なのかと心配かもしれませんが、彼らはよほどピンチにならない限り毒を吹きかけることはなく、これまで飼育している人間が彼らの毒にやられたケース
は一件も報告されていないそうです。
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅の危険性が少ないランクに分類されていますが、
近年彼らの生息地の破壊が進み、その影響
が心配されています。両生類である彼らは周辺の土壌と水の両方の変化に敏感であり、化学物質などの廃棄の影響を受けやすく、また開発などに
よって生息地同士が分断されることも問題とされています。このため
EUやヨーロッパ各国では保護動物に指定
され、法律の作成など様々な保護活動が行われています。
執筆:2008年2月9日
[画像撮影場所] 東山動植物園
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