カリフォルニア
イモリ California Newt
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アメリカ合衆国カリフォルニア州には5種類のイモリ科に属す
るイモリが生息しており、そのひとつがこのカリフォルニアイモリです。全長13〜20cmぐら
いの彼らですが、実はその体に
似合わない恐ろしい秘密が隠されています。
カリフォルニアイモリはカリフォルニア州北西部のメンドシノ
郡からメキシコ国境に近い南部のサンディエゴにかけての沿岸に近い山地に住んでいます。また一部の個体はシェラネバダ山脈の西側の傾斜にも分布していま
す。
カリフォルニアイモリは一風変わった生活様式を持っており、北部と南部で住む環境が異なっています。北部にいるカリフォルニアイモリは主に湿
気の豊富な森の中に住んでいるのに対し、南部のものはまったく逆の乾燥した地域に好んで住んでいます。分布域も多岐に渡っており、2000mを越える高地にもいることが確認されていま
す。
彼らの背中側は黄色がかった
茶色からこげ茶色をしており、それとは対照的に腹側は明るい黄色もしくはオ
レンジ色をしています。背中にはたくさんのいぼが
ついており、体の大きさはオスのほうがメスよりわずかに大きくなっています。彼らを見て一番目に付くのはその大きな目で、頭の外にはみ出していて下部にま
ぶたが付いています。
彼らの恐ろ
しさが隠されているのがその背中についている無数のいぼで、
ここから彼らはフグのものと同じ猛毒のテトロドトキシンを分
泌することがわかって
います。捕食者に狙われると彼らは頭を持ち上げ、尻尾を伸ばし、さらに背中を反らすことによって腹側の明るい色を見せて自分が毒を持っていることを警告し
ます。それでも捕食者が彼らを食べようとすると神経毒のテトロドトキシンを背中のいぼか
ら分泌します。この毒に触れると食べようとした側は麻痺してしまう
か、時には死んでしまいます。
毒をもつイモリは世界中に約10種類が知られていますが、その中でもこのカリフォルニアイモリの毒は最も強いもの
のひとつとして知られています。またオ
スのほうがメスより三倍以上強い毒をもっているといわれており、背中だけでなく筋肉や血液、内臓にも毒を持っています。従ってこのイモリを誤って触ってし
まった場合は、直ちに水で洗い流す必要があります。
かつて1934年にカリフォルニアイモリが毒をもっていることがわかり、その後1964年単離されたこの毒はカリフォルニアイモリの学名Taricha
torosaに
ちなんでtarichatoxinと名付けら
れました。しかしさらに詳しく調べてみると、フグが持つことで有名なテトロドトキシンと同一の毒であることがわかったのです。なぜ魚である
フグと両生類のカ
リフォルニアイモリが同じ毒を体の中に持っているのかというと、もともとどちらも自分自身の体の中で毒を作ることはしません。その代わりに微量の毒素を持った水中の微生物
やその微生物を食べた小動物を食べることによって、最終的に彼らの体の中にその毒素が蓄積するためであるといわれており、この毒は食物連鎖の結果であるといえま
す。
カリフォ
ルニアイモリは普段昆虫やミミズ、カタツムリ、ナメクジ、ワラジムシなどを食べて暮らしています。カリフォルニアイモリの舌の先にはねばねばした組織が付いており、その舌を突き出すことによってカメレオ
ンのように獲物を捕まえます。大人のカリフォルニアイモリの食性はかなり詳しくわかっているのですが、それに対して幼生の頃は何を食べてい
るのかわかっていません。
夏の終わりから秋にかけては陸上で過ごし、枯れ木の下や岩の裂け目の中でじっとしています。冬になって最初の雨が降ると水辺のほうに向かい繁殖期を迎え
ます。繁殖期は12月から5月の初旬にかけてで、この頃になるとカリフォルニアイモリはほ
とんど水の中から出てこなくなり、特にオスはメスよりも水の中にいる時間が長いと言われています。また外見にも変化が現れ、オスの排泄孔の
まわりは大きく膨らみ、尻尾はひれ状に変化します。
彼らのほとんどはは繁殖期にはも
ともと自分が生まれ育った水辺に戻ることが知られています。結構記憶力いいんですねぇ。交尾をするときの求愛行動も変わってお
り、オスはメスの周りを回った後、その上に乗って尻尾を振りながら自分のあごをメスの鼻先にこすり付けます。そして一時間ほど求愛を行った
後で、オスはメスの背から降
り、精子の入った精嚢とよばれる袋を地面において立ち去ります。メスはその精嚢を取り込み、体内で受精させた後産卵を行います。卵は
7〜30個ほどが、流れのゆるい15cm以内の水中に産み付けられ、水の中に露出した木の根っこなどに固定されます。
産み落とされた卵は直径2mmほどで、カエルの卵と同じようにゼリー状の袋に包まれています。しかしカリフォルニアイモリらしく、この袋の中にも毒が含まれていて卵を守っています。卵は2〜3週間ほど
で孵化しますが、その期間は水温によって長くなります。孵化した幼生大きな尾びれと体の外に露出したエラを持っており、カエルのオタマジャクシ同様完全に
水中生活に適応しています。この頃には背びれの両側に特徴的な黒い斑点を持っています。
ギリシャ神話やローマ神話にはサ
ラマンダーと呼ばれる火の中で生きるトカゲが登
場します。今日ではサラマンダーというとサンショウウオやイモリの仲間のことを指すのですが、このカリフォルニアイモリは乾燥に弱い両生類であるにもかか
わらずなんと弱くくすぶってい
る程度の火の中なら、やけどもせずに動き回ることが出来ます。これにも背中のいぼが役立っており、そこから粘液をあわ立たせることによって炎の熱か
ら身を守ります。このすごい能力によってカリフォルニアイモリは山火事などから逃げることが出来るわけなのですが、正に神話に登場するサラ
マンダーそのものですねぇ。
現在、カリフォルニアイモリは生育数も十分に確保されており、カリフォルニア州で特異関連生物という位置づけがなされている以外には特別な保護対策は行
われていません。しかしながら近
年カダヤシと呼ばれる種類の魚やアメリカザリガニが外からカリフォルニアイモリのいる水辺に持ち込まれることが問題になっています。これらの生き物にはカリフォルニアイモリの毒は効果がない上、イモリの卵や幼生を食べてし
まうため、このさきカリフォルニアイモリの数に影響が現れるのではと心配されています。
カリフォルニアイモリには二種類の亜種が知られており、沿岸部に住むコーストイモリとシェラネバダ
山脈地方にみられるシェライモリが
生息しています。ちなみにカリフォルニアイモリの学名であるTaricha
torosaのTarichaはギリシャ語の『ミイラ』を意味するtarichosをもとにしています。それ
に対しtorosaはラテン語
の『肉厚な』もしくは『筋肉質な』という意味の言葉でカリフォルニアイモリの外見を表してい
ます。しかしなんでまた『ミイラ』なんだろう…??
強力な毒を出した
り、火の中を歩いたり小さいながらもすごい力を持ったカリフォルニアイモリですが、良かったですねぇ不味そうで。でないと毎
年アメリカでイモリを食べた
ことによる死亡事故が起こってしまってたかも。そうなるとイモリ料理の調理師免許制度な
んか出来てたりして…。料理名はもちろん『イモ刺し』・・・?
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